悲恋 (一部BL要素含む)

樺純

文字の大きさ
上 下
2 / 14

2話

しおりを挟む
散々愛し合った私たちを見てきっとこの紫陽花は馬鹿だと笑っているだろう…


コハクはそのまま私の膝枕で眠ってしまい、私も木にもたれながら紫陽花の花を見つめていた。


いつの間か過ぎていった時間を太陽の位置が私に知らせる。


T「コハク…そろそろ帰るよ。」


コハクのおでこを撫でながら起こしてあげると眠そうに目を開け、私の首に手を伸ばすと自分の元に引き寄せる。


私は俯きながらコハクに吸い寄せられるように口付けを交わした。


コハクは気が済んだのかゆっくりと背伸びをしながら起き上がった。


K「帰ろっか。」


そして、私たちは馬の手綱を引きながらゆっくりと歩いて会話を楽しむようにして町へと帰る。


町に近づくほどに人が1人…また1人と増えていきいつの間にか私たちの周りは人で溢れていた。


すると、王様が町へ来たことを知らせる鈴の音が聞こえ、私たちは慌てて道の真ん中をあけ、道の横に移動して膝を突き頭を下げる。


コハクと並ぶようにして寄り添い、頭を下げて跪くと私達はチラッと横目で目を合わせては微笑み合っていた。


沢山のお役人の人たちが私たちの前を通り過ぎて行くのが分かる。


すると…


王様の乗った籠が突然…


私たちの前で止まった。


私とコハクはドキッとし、お互いに目を合わせて緊張が走る。


視線を上げなくても籠の中から王様が降りてきたのがわかり、私の心臓はさらにはやくなった。


「面をあげよ…」


私は誰に言っているのか分からず、ずっと下を向いていると…


スッと白魚のように白い手が私の目の前を通り、ゆっくりと私の顎を持ってその手は私の顔をグイッと持ち上げた。


T「え……」


そこにいたのは透き通るように白い肌をした鋭い目つきの王様だった。


「そなた…夫婦(みょうと)の契りを交わした者は…おるのか?」


私とコハクは夫婦(みょうと)となる約束を交わしていた。


しかし…この時の私たちはまだ…夫婦(みょうと)の契りを結んではいなかったんだ。


T「い…いません…でも…」

「そうか。明日、王宮へ来い。そなたを側室として迎える。」


それは私とコハクの別れを意味する言葉だった。


王様に見染められた者は有無を言わず、側室としてお世継ぎを授かるという任務を全うしなければいけない。


それを拒否すれば…その者とその一族は処刑される。


そう…私はその時…


死の宣告をされたのと同じ気分だった。


王様はそう告げると籠の中へ戻り、長い列は動き出す。
 
なぜ?私?

王様に言われて顔を上げるまで、私の顔すら見たことのなかったはずの王様がなぜ私を?

まるで私に告げるのが決まっていたかのように王様はその言葉だけを残して行った。

王様が過ぎ去るとその場にいた者たちはそれぞれが立ち上がり、私のことを見てコソコソとは話をしていた。


私はしばらく静かに伝う涙と共に呆然としていた。


K「トナ…立てる?」


大好きな優しいその声…


私はもう…明日からこの声を聞くことができない。


ゆっくりとコハクの顔を見つめると私たちのその先には絶望という言葉しか見つからなかった。


もう、この綺麗な瞳に私が映ることも…

この滑らかな頬に触れることも…

この唇から温もりを感じることも明日からはないのだと思うと…

もうすでに生きてる心地がしなかった。


コハクは無言のまま私の腕を持ち立ち上がらせて馬に乗せると、そのまま私を家に連れて帰った。


その頃には母にまで私の噂が広がっており、母は複雑な顔をしながら馬から降りた私を出迎えた。


T「…私…明日王宮に行かないと…王様の側室になれって言われて…」


そこまで言うと母は涙で震えながら私をギュッと抱きしめる。


「ありがたい事なのよ…王様に選んで頂いたのだから感謝しなさい…」


母はそう言っているのに顔は歪み微かに震えていた。


T「ゃ…だよ…コハクと一緒にいたい…。」


私が声を震わせながらそう言うと、それが聞こえた通りすがりの人達がザワザワと私を指差し噂する。


王様にその意思を授けられた私はもうすでに王様の所有物と同じとみなされ…


そんな私が王様以外の男の名前を呼び求めるのは、王様に対する反逆行為とみなされてもおかしくないのだ。


だから、コハクはもう決して自らの手で私を抱きしめたりしてくれない…


私はもうすでにコハクのものではなく…


王様のモノになってしまったから。


そんな私に手を出そうもんなら、すぐにその命がなくなるとコハクも私も十分すぎるほど分かっていた。


母はコハクを悲しそうな目で見つめると、周りに集まった人たちに見せつけるように震える手で私の頬を思いっきり殴った。


「何でことを言うの!!あなたには王様がいるのよ!!早く中に入って王宮に向かう準備をなさい!!」


母は私の腕を引っ張り家の中に入ると木の扉を勢いよく閉めると、涙を流しながら私をギュッと抱きしめた。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

ついて、いった

吉川元景(きっかわ もとかげ)
恋愛
気づいた時には遅いってこと、恋愛ならよく有りますよね? 小説家になろうとカクヨムにも載せています。 課題の一環として執筆しました。 写真はしーわん(Instagram:xiwang.tp311)様からお借り致しました。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

カラメリゼの恋慕

片喰 一歌
恋愛
これはとあるサーカスの道化役の男の恋物語――。 二年ぶりに会う恋人と真っ暗な部屋でイチャイチャするだけのお話。微糖(※当社比)。短め予定。 煮詰めて甘く、焦がして苦く。会えないあいだの恋心、貴方/お前さんにどう伝えようか。

眠りにつくまで…◆眠るまでそばにいて◆甘い支配の始まり:三鷹聖の物語【完結】

まぁ
恋愛
出会いは、とある寺の墓地 何度か見かけるあの人 あの君 戸田光里 Toda Hikari 私立一貫校高校担当事務員 三鷹聖 Mitaka Hijiri 経営コンサルタント 牧瀬樹 Makise Itsuki 作中の人物、団体名、街…全てがフィクション、想像上のお話です。 「甘い支配の始まり」「チューリップラブ」の人物が登場します。

彼の愛は不透明◆◆若頭からの愛は深く、底が見えない…沼愛◆◆ 【完結】

まぁ
恋愛
【1分先の未来を生きる言葉を口にしろ】 天野玖未(あまのくみ)飲食店勤務 玖の字が表す‘黒色の美しい石’の通りの容姿ではあるが、未来を見据えてはいない。言葉足らずで少々諦め癖のある23歳 須藤悠仁(すどうゆうじん) 東日本最大極道 須藤組若頭 暗闇にも光る黒い宝を見つけ、垂涎三尺…狙い始める 心に深い傷を持つ彼女が、信じられるものを手に入れるまでの……波乱の軌跡 そこには彼の底なしの愛があった… 作中の人名団体名等、全て架空のフィクションです また本作は違法行為等を推奨するものではありません

処理中です...