愛を知らないキミへ

樺純

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第三十三話

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アノンサイド

シアは海外まで私についてきて私を監視し、勉強する事もなく親の脛を齧りながら優雅な生活をしていた。

不思議とシアを少しずつ知っていくと私には同情心なのだろうか?シアも自分と同じで孤独で寂しい人生を歩んできたのかもしれないという不思議な感情が生まれ始めていた。

シアは本当に私との約束を守り、契約を交わしたあの日から指一本触れてはこなかった。

しかし、たまに酔っ払うと私をルルさんの名前で呼び、何度も好きだ…捨てないで…1人にしないで…そう言って私の膝に泣きついてきていた。

そんなシアを見て私はまるでミネトやユサと出会う前の自分を見ているようで胸が痛んだ。

慣れない環境と海外の言葉の中で必死に私は勉強をし無我夢中で毎日を過ごしていた。

サラナとミネトには詳しくは伝えなかったが心配させるのは嫌で最低限の連絡は取り合っていた。

月日が流れパティシエの技術も私が楽しんで勉強すればするほど磨かれていき、色んなアイディアが頭の中に浮かんでいた。

周りからももう十分技術と実力がある。そう言われはじめた時、突然シアのお父様から連絡が私に直接入った。

電話の内容はお父様が会社社長を辞任するという事だった。

私たちの知らない間に会社が経営難に陥りもう手の施しようがない為、他の企業に従業員諸共、売り渡すと言っていた。

私はそれを聞いてシアにすぐ日本に戻るよう話だが、シアは首を横に振った。

S「アノンのそばにいたいから帰らない。」

A「そんな事言ってる場合?お父様が辞任するって言ってんのよ?」

S「だって今、アノンのそばを離れたらまたアノンは俺の前からいなくなるだろ!?」

シアの頭の中にはもう会社のことなど1ミリもないのか、母親に甘える子供のようにそう言って泣いていた。

A「分かった。私も帰るから一緒に日本帰ろう。」

そうして、私はシアと共に日本に戻ってきた。

久しぶりの日本の空気に私は懐かさしさを覚えた。

シアのお父様は会社社長を辞任に追い込まれ憔悴しきっていて、流石にそれをみたシアもただ事ではないんだと自身の父親の顔を見て今更気付いた様子だった。

「こんな事になってしまい申し訳ない。」

お父様は私とシアが本気で愛し合って婚約していると思っている為、そう言って私に頭を下げた。

しかし正直にいうと私にとってみれば都合が良かった。

シアは父親の力なしでは1人で何も出来ない。

その頼みの綱の父親は今、何の権力や力もなく憔悴しきっている。

そして、私はこの数年でパティシエとしての技術を勉強し実力を身につけた。

私はこのタイミングだと思い、シアの父親から会社の権利を受けた会社に退職の意思を伝えた。

実家に帰るつもりもなかった私は格安のビジネスホテルで寝泊まりしながら住む所を見つけた。

シアはさすがに実家に戻り、しばらく落ち着くまでは実家にいると言い、私はこのままシアから解放される…そう思っていた。

そして、私はコツコツと貯めたお金でスイーツアーティストとして会社を1人で立ち上げた。

私のビジネスプランは店舗を持つ事なく私の作ったスイーツを楽しんでもらう事。

そう、全国のケーキ屋やデパート、ショッピングモールやブランドとコラボしスイーツを販売するという経営方針だった。

初めは自分のデザインしたケーキやクッキー、パフェをSNSに投稿し、売り込みをしにケーキ屋を歩いて回った。

そうしているうちにSNSが話題になり、少しずつ仕事が増えて行き私は全てが順調だと思っていた。

シアがあんな事になるまでは…

ある日、私がケーキ屋との打ち合わせが終わり、家まで歩いて帰っていると突然…私の元に見覚えのない番号から連絡が入った。

「こちら〇〇病院です!シアさんとお知り合いでしょうか!?今、シアさんとお父様が事故に遭われて病院に運ばれてます!シアさんのスマホにはこの番号しか登録されてなかったのでこちらに連絡させて頂きました…」

私はその一報を知らされた時…

なぜか、それは事故ではなく自らの意思でそうなったのではないかとふと思った。

シアは私を脅してはいたが、私は少なくともシアのお父様に留学のお金を工面してもらい、そのおかげで私は今、独立してこうやって過ごせている事に間違いはない。

そう思った私は仕方なくシアとお父様が運ばれた病院に向かった。

病院に着き病室の前に行くとお父様はすでに息を引き取っており、私は看護師さんにシアの病室へと案内された。

無言のままその様子を立ち尽くすようにして見ているとシアがゆっくりと目を開けた。

S「…アノン…来てくれたんだ……」

A「シア…なんでこんなこと……」

私がそう言うとシアはポロポロ涙を流した。

S「もう何もない俺のそばに…アノンはいてくれないだろ…?」

A「シア…」

S「今の俺がどんなにアノンを脅しても何の意味もないじゃん…親父も死んで俺は1人ぼっちになってしまった…早くユサのとこに行けよ…俺なんか捨てて行けばいいんだよ!!」

取り乱しそう泣き叫ぶシアをどうすればいいのか分からず、立ち尽くしていた私はゆっくりとシアの手を握った。

A「……今更もうユサのとこになんて戻らないから…」

S「嘘つき…」

A「本当よ…だから安心して。」

私は目の前で泣くシアがまるで昔の自分のように見え、同情心からついそうシアに告げてしまった。

仕方なくそれから1週間ほど私はシアのそばに寄り添った。

つづく
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