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131話

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ジョウキside

ステージに立っている間は正直、気迫だけで歌っていた。

ステージを終えた今、正直1人で歩くのさえ辛くて俺はハヤセくんの肩に手を置きながら楽屋へと向かった。

歩けば歩くほど頭がフラフラして足に力が入らない。

残る力を振り絞り一歩を踏み出したその瞬間…腰から砕けるように俺の足の力が抜けた。

背中の冷たさと見上げた蛍光灯で俺は気づく…。

あぁ…倒れたんだ…俺…

なんでだろ…?

こんな状況なのに聞こえるはずのないアナの大好きな声が聞こえて俺の涙腺を刺激する。

俺、ついに幻聴まで聞こえるようになっちゃった。

「ジョウキ…!ジョウキ!大丈夫?ジョウキってば!」

視点の合わなくなってる目をこらして見つめると、そこには俺が会いたくてたまらなかったアナがいた。

なんでこんな夢見てんだろ俺…

さっきから幻聴に幻覚?

もう勘弁してくれよ。

俺は頭がおかしくなってしまったのだろうか?

すると、俺の頬を小さな手が包みこむリアルな感触を感じた。

え…これは…幻覚じゃないのか?

俺はボヤける視界を凝らしじっと見つめる。

A「ジョウキ…だ…大丈夫なの!?」

そこにははっきりとアナが存在していて、俺の頬にはポタポタとアナの涙が落ちていく。

俺はアナに頬に手を伸ばすと温かくて柔らかくて一気に涙が溢れ出した。

J「アナ…やっと見つけた…」

そう呟いた俺はそのまま意識を手放した。

どれぐらい眠ったんだろう?

気づけばホテルのベッドでおでこに冷たいタオルを置かれ眠らされていた。

身体を起こすとさっきまであんなに重かったのが嘘のようにとても軽くなっている。

さっき…俺がみたのは…夢だったんだろうか…?

あのリアルな感触は…

アナではなく他の誰かをアナだと勘違いし感じたものだったのだろうか…?

そんな事をベッドの中で考えているとホテルの部屋の鍵があき誰かが中に入ってきた。

J「誰?」

俺の問いかけに返事はなく、俺に見えない所で立ち止まったまま中へ入ってこない。

J「おい…誰だよ…!」

俺はベッドから立ち上がり入り口の見える所へ行くと…

そこには下を向いた…アナがいた。

やっぱり…あれは…夢じゃなかったんだ!!

J「アナ…」

俺はそのまま入り口にいるアナを抱きしめようと駆け寄ると。

A「ちょ、ちょっと待って!ストップ!ストップ!スト~ップ!!」

そう言って全力で拒まれた。

J「え…」 

A「え…あっ…こ…これ!ゆず茶…とりあえずこれ飲んでから…ね?」

アナはビニール袋を俺に見せす~っと俺の横を通り過ぎ部屋の奥へと入って行った。

感動の再会のはずが…アナにとったらそうでもない感じなのか?

やっぱ…会いたいと思っていたのは俺だけだったのだろうか?

つづく
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