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100話

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アナside

私はいつの間にか眠りに落ちてしまっていたみたいで、気づけば隣にいたユナの姿はなくなっていた。

テーブルにはユナの字でメモが残されていた。

一度、家に帰ってまた来るね。
何かあったらすぐに連絡して。
すぐ飛んで来るからね。
ユナ

メモをテーブルに置き窓を見ると、空は夕焼けで赤く染まりはじめていた。

久しぶりだな…夕焼けなんてみるの…

ボンヤリと夕焼けを眺めていると、今まで何処かに置き去りにされてしまっていた記憶がブワッと溢れるようにして私の頭の中を巡っていく。

あの子が本当にジョウキだったなんて今でも信じられないよ…

だから私はジョウキが持ってるあのクマのキーホルダーに見覚えがあったんだね。

夢の中に出てくる少年は私の夢の中での作り物ではなく、私が忘れてしまった想い出の記憶だったんだね。

懐かしさと同時に胸がキュンと締め付けられた。

私の初恋はジョウキだったのかな…?

そんな事を思う自分がおかしくて自然と口元が緩む。

すると私は突然、激しい頭痛に襲われたっ!!

ナースコールを押そうと思い、手を伸ばすが痛みのせいでおもわずボタンを落としてしまった。

頭が割れてしまいそうで、私はうめき声をあげた。

誰かが慌てて部屋に入ってきて私を落ち着かせようと抱きしめる。

私はあまりの痛さに意識を手放し…深い暗闇へと吸い込まれていった。

暗闇の中、必死で重い目を開けるとそこにはブランコに乗る中学生の女の子と男の子がいた。

ゆっくりと2人の方へ歩いていくと女の子の顔がはっきりと見えた。

中学生の時の…私?

その手にはウサギのキーホルダーを持っていて、あの少年の手にはクマのキーホルダーが持ってある。

私は恐る恐る2人に近づき話しかけた。

A「ねぇ…君たちの名前は?」

2人は一瞬、顔を見合わせてまた私の方を見る。

「俺はジョウキだけど?こいつはチエリ…俺たちの事知ってるの?」

ジョウキ…あなたにずっと会いたかった。

なんで私…こんな大事な事忘れちゃったんだろ…

A「知ってるよ?チエリちゃんのお父様有名なデザイナーだもんね?」

「パパの知り合い?」

A「私、今パパのブランドのお手伝いしてるの…」

「そうなんだ…私、パパがデザインするRainの服が大好き。いつかパパみたいなデザイナーになるの!」

そうだった…私の小さい頃からの夢はデザイナーになる事だった。

記憶が一部がパズルのピースのようにはめこまれ綺麗に繋がっていく。

「俺は歌手になるんだ!おばさん見ててよ?スターになるからさ?」

A「おばさんじゃなく、お姉さんね!2人とも頑張ってね!仲良くね…」

私の言葉に幼い笑顔の2人は頷き私はまた暗闇に吸い込まれていった。

深い深い暗闇

私は耳に響く車の行き交う音で目を開けた。

そこには車通りの多い交差点があり、車道を挟んだ向かい側には中学生時代の私が泣きながらあのウサギのキーホルダーを握りしめて立ち尽くしている。

すると突然…中学生の私は赤信号なのに車道に向かって歩き出す…

危ないっ!!思わず私が飛び出しそうになると、そこに学生服姿の男の子が走って彼女を抱きしめ庇うようにしてそのまま車にぶつかった。

ドンっ!!ガシャンっ!!

鈍く激しい音が響き渡り、行き交う人たちの足が止まる。

なんで?なんで…私は自ら車が行き交う車道に飛び出したの?

私は慌てて2人に近寄ると中学生の私は肩と頭から血を流していた。

車の運転手が青ざめた顔で救急車を呼んでいる。

私が男の子の方に目をやると腕から血を流しているのに立ち上がろうとしていた。

A「きみ…大丈夫!?血が…」

「大丈夫です…大したことないんで…」

そうだ…確かママが言っていた。

ある男の子が助けてくれたおかげで私は致命傷を負わずに済んだと。

でも、彼は名前も言わずにその場を立ち去ったと。

A「でも血が…」

「大丈夫ですから」

そう言って立ち上がった彼の胸ポケットから生徒手帳がポロりと落ち、私がそれを拾いあげた。

ふと、その生徒手帳に書かれてある名前を見て私は言葉を失う。

A「佐伯トウヤ…?」

私の微かな声に目の前の男の子は振り返り、自分の生徒手帳をみる。

振り返った男の子のその顔にはまだ幼さが残っていたが、その顔には面影がはっきりとあった。

トウヤ…あの時、私を庇い助けてくれたのはトウヤだったのね。

トウヤのおかげで私は死なずに済んだんだ。

ずっと私が探していた命の恩人がまさかトウヤだったなんて思いもよらず、私の手がガタガタと震え出す。

「あ…俺の生徒手帳返してください」

A「え…あ…」

私がその学生証をわたすとトウヤは何事もなかったかのように消えていった。

そして中学生の私は意識が朦朧としたまま救急車で運ばれていく。

私はその光景を目の当たりにしただ立ち尽くす…

なんでこんなとこに…?なんで自ら…?

すると、私の後ろに数人の女子中学生が集まっていた。

彼女たちの会話に耳を澄まし、私の心はさらに深く抉れる。

「ヤバくない?本当に飛び出すなんてどうすんの!」

「本当にするなんて思わないし…赤信号で渡り切れたら友達にしてあげるって普通信じる?」

「死んだらどうすんの…私たちのせいになるんじゃないの…バレたらヤバい」

「放っておけばいいのよ。お嬢様だからって調子に乗るから悪いのよ。」

その会話で私は思い出したくない全ての記憶を取り戻した。

そうだ…私ずっとイジメられてたんだ。

調子に乗るな…お嬢様ズラするな…消えろ…

ウザい…キモい…

私はただ友達が欲しかっただけ。

ジョウキはそんな私に出来た唯一の友達だった。

それに気づいた私はまた暗闇の中へと引き込まれて行った。

つづく
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