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90話

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トウヤside

少しでもアナの顔がみたくて俺は仕事前に病室を訪れた。

すると、中から微かにジョウキと女性の話し声が聞こえてきた。

俺はダメだと思いながらも扉越しに耳を澄ませてしまう。

そして…俺の知らないアナの過去を聞いてしまった。

しかし、ジョウキはアナが昔、記憶喪失になったことを知っていた。

アナは俺には言ってくれなかったのにジョウキには話してたんだ。

俺はそんなくだらない事を考え思わず声が出てしまった。

T「なんでだよ…」

俺は慌てて自分の口を手で押さえそして、ふと頭によぎった。

そういえば、俺が助けた女の子も自ら道路に飛び出してたな?あの子はあの後どうなったんだろ…

しばらくの沈黙の後、ジョウキが震えた声で話し始めた。

J「あ…あの…チエリって名前…ご存知ですか…?」

母「え…」

お母様の声からあきらかに戸惑っているのが顔の見えない俺でも分かる。

J「いや、ご存知じゃないなら…いいんです…すいません…いきなり…では…僕はそろそろ失礼します…」

その言葉と同時にジョウキの足音が扉に近づいて…俺は咄嗟に身を隠した。

母「以前の…名前です…」

以前の名前…って…どういう意味だ…?

俺はそう考えながら耳をすませる。

J「え?」

母「アナが事故に遭う前に名乗っていた名前です…」 

俺はそれを聞いて衝撃が走る。

え…アナの本当の名前はアナじゃなくて…チエリという別の名前だったってこと?

J「やっぱり…」

ジョウキはそれも知っていた様子だった。

母「ご存知だったんですか?」

J「なんとなく…ずっとアナに会うたびに思ってたんです…チエリに似てるなって。アナ自身にもチエリっという名前を知ってるかと尋ねられたことがあって…」

母「あの子…記憶戻ってたのかしら…?あ、もしかして…ジョジョって…」

J「おそらく僕です。僕たちは連絡先も家も何も知らないのにあの公園で時間を忘れて夢中で色んな話を話してました。ジョジョは唯一、チエリが呼んでいた僕のあだ名です。あの…このウサギのキーホルダー…知ってますか?」

ジョウキは子供の頃からアナと知り合いだった…ってこと?それも、記憶喪失になる前に…?

母「もちろん。この子事故に遭ってもこのキーホルダーは離さなかったんですよ…」

確か…俺が助けた子も…手にウサギのキーホルダーを握りしめてた…ってまさか…あの子はアナ…?

J「そうですか…。このキーホルダー俺がプレゼントしたんです。俺の分身だと思って大切にしろよって…」

母「そうだったんですね…。何も知らない私たち親は名前を変えて生きろだなんて…アナの為だと思ってした事がこの子から大切な人を奪っていたんですね…」

大切な人か…ジョウキは俺とアナが出会う前からずっとアナの大切な人だったんだ。

アナがジョウキのファンになったのは運命だったんだ。

きっと、俺がその2人の邪魔をしてたんだ。

そう気づいてしまった俺はそのままアナに会うことなく病院を出て仕事に向かった。


つづく
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