上 下
53 / 196

53話

しおりを挟む
セナside

私はこの会社に入ってすぐ…右も左も分からないのに彼らスタイリストに選ばれた。

すでに人気者だった彼達のスタイリングをするのはすごく神経を使った。

それぞれのイメージや個性、そして本人の意見も取り入れていたら正直…私にはキャパオーバーで仕事が終わるたびににじむ涙を堪えながら衣装を片付けていた。

そんなある日…私は誰もいない控え室で一度だけ仕事の最中に泣いたことがあった。

スタイリストとしてのプライドを傷つけられたカメラマンのひと言。

「なんか…全体的に惜しいよね?」

その言葉を言われた時、私の中で張り詰めていた糸がプチっと音を立てて切れた。

その感情がどうしても抑えきれなくて、でも泣いてる姿は誰にも見られたくなくて、誰もいないはずの控え室に逃げ込んで泣いてたのに気づいたらジョウキが後ろに立っていて、私の元へと近づき優しく微笑みながら言った。

J「俺は好きだよ?セナのスタイリング!お前らしいスタイリングを理解できない人をわざわざ相手にしなくていいじゃん?な?」

そう言って私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

メンバーの中でも1番、私と打ち解けていなかった人からの思いもよらない言葉に私は救われた。

そして…その優しい笑顔に…惹かれた…。

誰にでも見せる訳じゃない人懐こい甘えた笑顔…

この笑顔を私だけのものにしたい…もっと知りたい…

その気持ちをジョウキに伝えてもジョウキの言う言葉はいつも決まっていた。

J「俺さ今は彼女とかいらないから…ごめん…」

この言葉を何度言われたことか。

でも、私はどうしても諦める事が出来なくて、少し前にこれが最後と決めて告白した。

SN「すぐに好きになってとは言いません…でも私をもっと知って欲しい…仕事仲間としてではなく…女として…だから…3ヶ月でいいから付き合って下さい…」

私はダメもとで期限をつけて告白をした。

この3ヶ月で絶対に私から離れられないようにする。

私がいなきゃダメだと言わせるつもりで…

ジョウキはしばらく考えた後「分かった」そうポツリとつぷやいて私たちの交際は始まった。

付き合っても手すら繋いでこない。

会うのは私が会いたいと言った時だけ。

ただ会ってたわいもない会話をして別々の家へと帰っていくだけの仲。

大好きだった人が憎くすら感じはじめた時…

J「ごめん…気になる人が出来た…別れよ…」

SN「誰?気になる人って…」

その問いかけと同時にジョウキは腰のチェーンに吊るされたクマのキーホルダーを触りながらそれを愛しい目でみつめて…「ごめん」と一言だけつぶやいた。

SN「ごめんってなに?意味がわからない…3ヶ月って約束でしょ?」

私は震える手を隠しながら冷静を装ってジョウキに詰め寄った。

J「ごめん…無理だよ…もう…これからは仕事仲間としてやっていこう…」

SN「……。」

J「この事が原因でお互い仕事に支障をきたすのだけはやめよ…」

SN「……。」

J「ごめん時間だから…俺行くわ…今までありがとうな…」

行かないで…お願い…やだよ…1人にしないで…

私は自分から遠ざかっていく大好きな背中を見つめながら心で叫んだ。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

カエル化したけど……最強夫婦になりました!

KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
水樹白那(みずき しろな)は推し活女子。推しメンが振り返れば、逃げたくなるカエル化現象を体現中だ。ある日最上級に好みの男子生徒を見つけた白那は、いつものようにアプローチをするものの、彼の対応に即座に冷めてしまう。大嫌いと宣言したけれど、彼・紫陽瑠璃也は三年経った今も逃がしてくれない!それどころか、婚約関係を結んでしまっていた。 紫陽瑠璃也(しよう るりや)はそのビジュアルと、気の弱い性格や無自覚なサービス精神のせいで、不本意な女性経験を積んできている。女性恐怖症の瑠璃也は、本性を隠すために高校入学とともに俺様キャラを演じることにしたけれど、推し活女子・白那のアプローチを受けて、完全に恋に落ちてしまう。 高校生からの三年間、瑠璃也のアプローチは空回りばかりだ。さらにある決定打により、白那からは徹底的に嫌われてしまったけれど―――― 実はある人から白那の秘密をたくされていた。 二人は誤解を生む星の下に生まれたらしい。 お互いに大嫌いと大好き、のミスマッチのこじらせ気味の二人だが、ある出来事により、本性と過去が明らかになって―――――? 好き避け気味の推し活女子を、愛が溢れてたまらない保護者男子は陥落できるのか? 男女両視点凸凹カップルのローファンタジーラブストーリー♡ ――――― 原題:カエル化姫は愛されたい、偽俺様王子は愛したい~推し活女子と天然モテ一途男子は最強夫婦~ 上記小説に挿絵を足し加筆修正しております。 タイトルや章、話などが微妙に違いますが、アルファポリスに掲載中の上記作品と内容は同じです。 素人絵なので絵の品質保証はできかねますが、恐いもの見たさで見てくださる方は、ぜひ♡

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

Hunting Romance Saga

七町 優
恋愛
小さなゲーム会社はある恋愛シュミレーション ゲームを作っていた。 その内容は驚くべきものだった!? もちろん試してみないとわからない、だってそれは異世界へ飛ばされて始まるゲームなのだから…… 今ここに現実と異世界を行き来する、ありえないゲームが始まろうとしていた!! この話は恋愛、ファンタジー要素が含まれております。

処理中です...