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25 ツェル
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翌朝、変わらず鍛錬をしているグレイブさんを窓越しに眺める。
シャーリーのお陰もあり恋をはっきりと自覚してから、彼の鍛錬する姿が格好良く見えて仕方がない。
すると、横からシャーリーも彼を眺め出した。
「でも意外よね。あなた、彼の好みのタイプとは全然違うもの」
「それは私も思いました」
昨夜のやり取りのお陰か、彼女とは親密になれた気がする。
ただ、シャーリーの言う通り私は彼のタイプとは真逆だ。どうして彼は、私を好きになってくれたのだろうか。変に気になってしまう。
「さ、グレイヴも呼んで食事にしましょ」
「そうですね」
彼女に手を引かれながら、食堂へと移動した。
グレイヴさんが来るまでの間、私はシャーリーから小さい頃の話を聞かせて貰う。何時も一緒に行動して悪さをしては、共に怒られていたらしい。やんちゃだったんだなと思う反面、グレイヴさんが彼女のことを『悪友』と思ってしまうのは仕方ないのかもしれないとも思ってしまった。
「……なんか、お前さんら仲良くなってないか?」
後からやって来たグレイヴさんは、昨日とは違う私達の態度に首を傾げていた。
朝食をとり終え、村長に挨拶をして三人で村を発つ。目指すはシャーリーの両親が待っているツェルだ。ツェルは主に商業の盛んな街で、西地区の商業ギルドの支部がある。シャーリーの父は、そこの偉い立場に属しているらしい。
「うう……お父様に内緒でここまで来たから、確実に怒られるわよね……」
「そ、それは確実にそうなるでしょうね……」
冷や汗を滲ませるシャーリーに、苦笑せざるを得ない。彼女は怒る父親を想像したのか、身震いしていた。
「お前にはいい薬だろ」
「ちょっとグレイヴ、それは失礼じゃないの!?」
楽しそうにやりとりをする二人を見ながら、小さく笑みを浮かべる。そうした他愛のない会話をしながら、村道と街道を進み、ツェルに辿り着いた。
ツェルに着くと、街に入る為に設けられた関所の前に年若そうな男女が一組立っていた。
「シャーリー!」
「う、待たれてた……」
どうやら、あの二人が彼女の両親だったようだ。
「勝手に街の外に出て隣村に行くだなんて……それも聖女妨害までするとは……!」
「そ、それは反省してます……っ! それに、お母様には話していきました!」
反論する彼女に、彼女の父は「それでもだ!」と声を荒げる。
「一人で行くなどと、危険すぎるだろう! 心配したんだぞ!」
怒鳴られ、身を縮めるシャーリー。小さな声で「ごめんなさい……」と謝罪していた。
素直に謝罪した彼女に、彼女の父は深く溜め息を吐く。小さく咳払いし、私達の方に振り返った。
「済みません、お見苦しい所をお見せして……」
「いえ、お構いなくっ」
頭を下げる彼女の父親に、慌てて首を振る。
「おじさん、お久しぶりです」
「おお、グレイヴ君かね! 久しぶりだね、元気だったかい?」
背後でずっとだんまりだったグレイヴさんが声を掛ける。するとシャーリーの父は顔を上げ、彼に話しかけた。
「俺は相変わらずです。今は聖女の護衛をしています」
にこやかに笑みを浮かべながら、肩を抱き寄せられる。がっしりと肩を掴まれ、ドキドキしてしまう。
「そうでした、聖女様には娘が多大なご迷惑をおかけした様で……。本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、本人も反省してくださっていますので。ですので、謝罪はもう大丈夫です」
深々と謝罪する彼に、顔を上げるように説得する。それに、シャーリーはもう反省しているのだし、これ以上ことを大きくする必要もないだろう。
「寛大なお心遣い、感謝いたします。娘にも見習わせたいです」
苦笑する父親の後ろで、シャーリーは「ふん」と鼻を鳴らしていた。
「グレイヴ、お父様、ちょっとどいて。私ロランと話があるの」
「ん? おう」
肩を離され、シャーリーと共に少し離れた場所に行く。どうしたというのだろうか。
「私、負ける気はないけど……あなたになら、負けても仕方ないって思ってる自分もいるの」
「シャーリーさん……」
「もし、彼と付き合うなんてことになったら、一年以内に報告に来なさいよ。私の婚期が遅れたら、承知しないんだから」
そこまで考えている彼女に、「でも、負ける気はないんですよね?」と答える。それに対し、彼女は「当たり前でしょ」と返事をした。
「負けないからね、絶対に」
「私もです」
負けたくないと、微笑み合う。彼女と出会えて、本当に良かった。
「シャーリー、もう行くぞ。早く王都に帰らねばならないからな」
「わかりました」
彼女は両親の側に戻り、私達に振り替える。
「じゃあね。グレイヴ、私は諦めないから」
そう言って、彼女は両親の後を追いツェルの街に入っていった。彼女を見送ると、グレイヴさんはやれやれと嘆息した。
「ふぅ……とんだ一騒動だったぜ」
疲れを露わにする彼に、私はこの後に待ち構える悩みに気付かないまま、小さく微笑む。
悩みは、尽きることがない。そんなことに気付かないまま、私達は次の村、テトスを目指すのだった。
シャーリーのお陰もあり恋をはっきりと自覚してから、彼の鍛錬する姿が格好良く見えて仕方がない。
すると、横からシャーリーも彼を眺め出した。
「でも意外よね。あなた、彼の好みのタイプとは全然違うもの」
「それは私も思いました」
昨夜のやり取りのお陰か、彼女とは親密になれた気がする。
ただ、シャーリーの言う通り私は彼のタイプとは真逆だ。どうして彼は、私を好きになってくれたのだろうか。変に気になってしまう。
「さ、グレイヴも呼んで食事にしましょ」
「そうですね」
彼女に手を引かれながら、食堂へと移動した。
グレイヴさんが来るまでの間、私はシャーリーから小さい頃の話を聞かせて貰う。何時も一緒に行動して悪さをしては、共に怒られていたらしい。やんちゃだったんだなと思う反面、グレイヴさんが彼女のことを『悪友』と思ってしまうのは仕方ないのかもしれないとも思ってしまった。
「……なんか、お前さんら仲良くなってないか?」
後からやって来たグレイヴさんは、昨日とは違う私達の態度に首を傾げていた。
朝食をとり終え、村長に挨拶をして三人で村を発つ。目指すはシャーリーの両親が待っているツェルだ。ツェルは主に商業の盛んな街で、西地区の商業ギルドの支部がある。シャーリーの父は、そこの偉い立場に属しているらしい。
「うう……お父様に内緒でここまで来たから、確実に怒られるわよね……」
「そ、それは確実にそうなるでしょうね……」
冷や汗を滲ませるシャーリーに、苦笑せざるを得ない。彼女は怒る父親を想像したのか、身震いしていた。
「お前にはいい薬だろ」
「ちょっとグレイヴ、それは失礼じゃないの!?」
楽しそうにやりとりをする二人を見ながら、小さく笑みを浮かべる。そうした他愛のない会話をしながら、村道と街道を進み、ツェルに辿り着いた。
ツェルに着くと、街に入る為に設けられた関所の前に年若そうな男女が一組立っていた。
「シャーリー!」
「う、待たれてた……」
どうやら、あの二人が彼女の両親だったようだ。
「勝手に街の外に出て隣村に行くだなんて……それも聖女妨害までするとは……!」
「そ、それは反省してます……っ! それに、お母様には話していきました!」
反論する彼女に、彼女の父は「それでもだ!」と声を荒げる。
「一人で行くなどと、危険すぎるだろう! 心配したんだぞ!」
怒鳴られ、身を縮めるシャーリー。小さな声で「ごめんなさい……」と謝罪していた。
素直に謝罪した彼女に、彼女の父は深く溜め息を吐く。小さく咳払いし、私達の方に振り返った。
「済みません、お見苦しい所をお見せして……」
「いえ、お構いなくっ」
頭を下げる彼女の父親に、慌てて首を振る。
「おじさん、お久しぶりです」
「おお、グレイヴ君かね! 久しぶりだね、元気だったかい?」
背後でずっとだんまりだったグレイヴさんが声を掛ける。するとシャーリーの父は顔を上げ、彼に話しかけた。
「俺は相変わらずです。今は聖女の護衛をしています」
にこやかに笑みを浮かべながら、肩を抱き寄せられる。がっしりと肩を掴まれ、ドキドキしてしまう。
「そうでした、聖女様には娘が多大なご迷惑をおかけした様で……。本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、本人も反省してくださっていますので。ですので、謝罪はもう大丈夫です」
深々と謝罪する彼に、顔を上げるように説得する。それに、シャーリーはもう反省しているのだし、これ以上ことを大きくする必要もないだろう。
「寛大なお心遣い、感謝いたします。娘にも見習わせたいです」
苦笑する父親の後ろで、シャーリーは「ふん」と鼻を鳴らしていた。
「グレイヴ、お父様、ちょっとどいて。私ロランと話があるの」
「ん? おう」
肩を離され、シャーリーと共に少し離れた場所に行く。どうしたというのだろうか。
「私、負ける気はないけど……あなたになら、負けても仕方ないって思ってる自分もいるの」
「シャーリーさん……」
「もし、彼と付き合うなんてことになったら、一年以内に報告に来なさいよ。私の婚期が遅れたら、承知しないんだから」
そこまで考えている彼女に、「でも、負ける気はないんですよね?」と答える。それに対し、彼女は「当たり前でしょ」と返事をした。
「負けないからね、絶対に」
「私もです」
負けたくないと、微笑み合う。彼女と出会えて、本当に良かった。
「シャーリー、もう行くぞ。早く王都に帰らねばならないからな」
「わかりました」
彼女は両親の側に戻り、私達に振り替える。
「じゃあね。グレイヴ、私は諦めないから」
そう言って、彼女は両親の後を追いツェルの街に入っていった。彼女を見送ると、グレイヴさんはやれやれと嘆息した。
「ふぅ……とんだ一騒動だったぜ」
疲れを露わにする彼に、私はこの後に待ち構える悩みに気付かないまま、小さく微笑む。
悩みは、尽きることがない。そんなことに気付かないまま、私達は次の村、テトスを目指すのだった。
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