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23 知らなかったこと
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「私はシャーリー・ウィルソニア。ウィルソニア家の次女で、王都では聖女候補として勉強中。で、彼の婚約者よ」
最後の言葉に、私は目を見開く。すぐ隣にいる彼に振り向けば、大層嫌な表情を浮かべていた。
「あのな……今はそんなことどうでもいいだろ。ってか、親が勝手に決めたことだし、俺は認めてない」
「いいえ、決定事項よ。私とあなたは結婚するの」
「俺は認めない。自分の相手は自分で決める」
二人のやり取りに、入っていけない。グレイヴさんは、貴族の出だったのだろうか?
頭がついて行かない私に気付いたのか、シャーリーは口角を上げ話し出した。
「グレイヴは最初に巡回を始めて民を救った、聖女の護衛を務めた騎士の末裔よ。騎士の中の騎士ってこと。あなたとは釣り合う人じゃないの」
はっきりと告げられ、言葉が胸に突き刺さる。私、彼のこと、何も知らなかった……。
「シャーリー、話を逸らすな。お前がしたのは聖女の妨害行為……れっきとした問題事項だ」
「何よ……聖女候補なら、私だってやってもいいじゃない」
その言葉にハッと我に返り、私は「尚更駄目です」と語調を強めた。
「規律を守れない人に、聖女は務まりません」
唇を噛み締め押し黙る彼女を余所に、私は連絡手段用の魔石を取り出す。こればかりは、王都に報告せねばならない。
「はい、はい……わかりました」
連絡を終え、深く嘆息する。
「王都は何だって?」
「聖女候補の起こした問題なので、黒使は派遣出来ないそうです。隣の街のツェルに、彼女のご両親が仕事で来ているそうなので、ご家族に引き渡し、そのまま王都に送還してくれとのことでした」
彼女の両親は、商業ギルドの幹部だったらしい。その伝手を使い、私達の動向を調べていたようだ。両親が偶然にもツェルに仕事に行くということでついてきて、一人チッチに先回りして来たとのことだ。
「シャーリー、お前な……親父さん達にまで迷惑かけるなよ」
「だって……」
呆れかえるグレイヴさんに、彼女は目を伏せた。
「だって、グレイヴに会いたかったんだもの」
「……何度も言っているが、俺はお前に恋情は抱いてない。だから、」
「それでもっ!!」
グレイヴさんの言葉を遮るように、シャーリーは口を開く。
「それでも、私はあなたのことが好き。大好きなの……っ」
グレイヴさんはちいさく溜め息を吐き、背を向けた。
「ロラン、明日朝一で村を出よう。昼までにはツェルに着きたい」
「わかりました」
静かに、グレイブさんが部屋から出て行く。今日の夜はこの人と一緒。大丈夫かなと不安になった。
今日の夕食は、あまり美味しく感じられない。というのも、目の前で繰り広げられる光景に、苛立ちが募ったからだ。
「グレイヴ、はい、あーん」
「だから、そういうのは遠慮するって……」
グレイヴさんの横を陣取り、にこやかに楽しそうにする彼女は、反省しているのか不安になってきた。
「さっきも言ったが、お前に恋情は持ってねえんだ。そういうのは勘弁してくれ」
「どうして? 私達は婚約者なのよ。……少しは持ってよ」
見るからに落胆する彼女に、グレイヴさんは嘆息した。
「俺らの両親は俺ら次第では解消してもいいって言ってるだろ。それに……」
「それに、なに?」
「……好きな奴がいるんだよ。だから、悪いがお前とは結婚出来ない」
グレイヴさんの言葉に、胸が熱くなる。それと同時に、シャーリーの目が見開く。肩を震わせ、怒りに表情を歪めた。
「認めない、絶対に認めないんだから!!」
声を荒げ、シャーリーは部屋へと走り去っていった。
「……いいんですか? 追いかけなくて」
「放っといて大丈夫さ。すぐに落ち着く」
まるでわかりきっているような態度に、少しムッとしてしまう。彼女が去って行った階段を見つめながら、グレイヴさんは口を開いた。
「あいつのこと、何故か恋愛面で好きにはなれないんだ」
「何故、ですか……?」
「小さい頃から一緒だった分、悪友みたいに感じまってな。あいつとは友人でいたいんだ」
苦笑しながら言う彼の言葉は、嘘を言っている風には見えなかった。
二人の間にどのような感情が渦巻いているのか、私にはわからない。知りたいとは思うが、深く話してはくれないだろう。
所詮、私は他人だから……。
最後の言葉に、私は目を見開く。すぐ隣にいる彼に振り向けば、大層嫌な表情を浮かべていた。
「あのな……今はそんなことどうでもいいだろ。ってか、親が勝手に決めたことだし、俺は認めてない」
「いいえ、決定事項よ。私とあなたは結婚するの」
「俺は認めない。自分の相手は自分で決める」
二人のやり取りに、入っていけない。グレイヴさんは、貴族の出だったのだろうか?
頭がついて行かない私に気付いたのか、シャーリーは口角を上げ話し出した。
「グレイヴは最初に巡回を始めて民を救った、聖女の護衛を務めた騎士の末裔よ。騎士の中の騎士ってこと。あなたとは釣り合う人じゃないの」
はっきりと告げられ、言葉が胸に突き刺さる。私、彼のこと、何も知らなかった……。
「シャーリー、話を逸らすな。お前がしたのは聖女の妨害行為……れっきとした問題事項だ」
「何よ……聖女候補なら、私だってやってもいいじゃない」
その言葉にハッと我に返り、私は「尚更駄目です」と語調を強めた。
「規律を守れない人に、聖女は務まりません」
唇を噛み締め押し黙る彼女を余所に、私は連絡手段用の魔石を取り出す。こればかりは、王都に報告せねばならない。
「はい、はい……わかりました」
連絡を終え、深く嘆息する。
「王都は何だって?」
「聖女候補の起こした問題なので、黒使は派遣出来ないそうです。隣の街のツェルに、彼女のご両親が仕事で来ているそうなので、ご家族に引き渡し、そのまま王都に送還してくれとのことでした」
彼女の両親は、商業ギルドの幹部だったらしい。その伝手を使い、私達の動向を調べていたようだ。両親が偶然にもツェルに仕事に行くということでついてきて、一人チッチに先回りして来たとのことだ。
「シャーリー、お前な……親父さん達にまで迷惑かけるなよ」
「だって……」
呆れかえるグレイヴさんに、彼女は目を伏せた。
「だって、グレイヴに会いたかったんだもの」
「……何度も言っているが、俺はお前に恋情は抱いてない。だから、」
「それでもっ!!」
グレイヴさんの言葉を遮るように、シャーリーは口を開く。
「それでも、私はあなたのことが好き。大好きなの……っ」
グレイヴさんはちいさく溜め息を吐き、背を向けた。
「ロラン、明日朝一で村を出よう。昼までにはツェルに着きたい」
「わかりました」
静かに、グレイブさんが部屋から出て行く。今日の夜はこの人と一緒。大丈夫かなと不安になった。
今日の夕食は、あまり美味しく感じられない。というのも、目の前で繰り広げられる光景に、苛立ちが募ったからだ。
「グレイヴ、はい、あーん」
「だから、そういうのは遠慮するって……」
グレイヴさんの横を陣取り、にこやかに楽しそうにする彼女は、反省しているのか不安になってきた。
「さっきも言ったが、お前に恋情は持ってねえんだ。そういうのは勘弁してくれ」
「どうして? 私達は婚約者なのよ。……少しは持ってよ」
見るからに落胆する彼女に、グレイヴさんは嘆息した。
「俺らの両親は俺ら次第では解消してもいいって言ってるだろ。それに……」
「それに、なに?」
「……好きな奴がいるんだよ。だから、悪いがお前とは結婚出来ない」
グレイヴさんの言葉に、胸が熱くなる。それと同時に、シャーリーの目が見開く。肩を震わせ、怒りに表情を歪めた。
「認めない、絶対に認めないんだから!!」
声を荒げ、シャーリーは部屋へと走り去っていった。
「……いいんですか? 追いかけなくて」
「放っといて大丈夫さ。すぐに落ち着く」
まるでわかりきっているような態度に、少しムッとしてしまう。彼女が去って行った階段を見つめながら、グレイヴさんは口を開いた。
「あいつのこと、何故か恋愛面で好きにはなれないんだ」
「何故、ですか……?」
「小さい頃から一緒だった分、悪友みたいに感じまってな。あいつとは友人でいたいんだ」
苦笑しながら言う彼の言葉は、嘘を言っている風には見えなかった。
二人の間にどのような感情が渦巻いているのか、私にはわからない。知りたいとは思うが、深く話してはくれないだろう。
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