TS聖女の悩みの種

ねこいかいち

文字の大きさ
上 下
23 / 35

23 知らなかったこと

しおりを挟む
「私はシャーリー・ウィルソニア。ウィルソニア家の次女で、王都では聖女候補として勉強中。で、彼の婚約者よ」

 最後の言葉に、私は目を見開く。すぐ隣にいる彼に振り向けば、大層嫌な表情を浮かべていた。

「あのな……今はそんなことどうでもいいだろ。ってか、親が勝手に決めたことだし、俺は認めてない」
「いいえ、決定事項よ。私とあなたは結婚するの」
「俺は認めない。自分の相手は自分で決める」

 二人のやり取りに、入っていけない。グレイヴさんは、貴族の出だったのだろうか?

 頭がついて行かない私に気付いたのか、シャーリーは口角を上げ話し出した。

「グレイヴは最初に巡回を始めて民を救った、聖女の護衛を務めた騎士の末裔よ。騎士の中の騎士ってこと。あなたとは釣り合う人じゃないの」

 はっきりと告げられ、言葉が胸に突き刺さる。私、彼のこと、何も知らなかった……。

「シャーリー、話を逸らすな。お前がしたのは聖女の妨害行為……れっきとした問題事項だ」
「何よ……聖女候補なら、私だってやってもいいじゃない」

 その言葉にハッと我に返り、私は「尚更駄目です」と語調を強めた。

「規律を守れない人に、聖女は務まりません」

 唇を噛み締め押し黙る彼女を余所に、私は連絡手段用の魔石を取り出す。こればかりは、王都に報告せねばならない。



「はい、はい……わかりました」

 連絡を終え、深く嘆息する。

「王都は何だって?」
「聖女候補の起こした問題なので、黒使は派遣出来ないそうです。隣の街のツェルに、彼女のご両親が仕事で来ているそうなので、ご家族に引き渡し、そのまま王都に送還してくれとのことでした」

 彼女の両親は、商業ギルドの幹部だったらしい。その伝手を使い、私達の動向を調べていたようだ。両親が偶然にもツェルに仕事に行くということでついてきて、一人チッチに先回りして来たとのことだ。

「シャーリー、お前な……親父さん達にまで迷惑かけるなよ」
「だって……」

 呆れかえるグレイヴさんに、彼女は目を伏せた。

「だって、グレイヴに会いたかったんだもの」
「……何度も言っているが、俺はお前に恋情は抱いてない。だから、」
「それでもっ!!」

 グレイヴさんの言葉を遮るように、シャーリーは口を開く。

「それでも、私はあなたのことが好き。大好きなの……っ」

 グレイヴさんはちいさく溜め息を吐き、背を向けた。

「ロラン、明日朝一で村を出よう。昼までにはツェルに着きたい」
「わかりました」

 静かに、グレイブさんが部屋から出て行く。今日の夜はこの人と一緒。大丈夫かなと不安になった。



 今日の夕食は、あまり美味しく感じられない。というのも、目の前で繰り広げられる光景に、苛立ちが募ったからだ。

「グレイヴ、はい、あーん」
「だから、そういうのは遠慮するって……」

 グレイヴさんの横を陣取り、にこやかに楽しそうにする彼女は、反省しているのか不安になってきた。

「さっきも言ったが、お前に恋情は持ってねえんだ。そういうのは勘弁してくれ」
「どうして? 私達は婚約者なのよ。……少しは持ってよ」

 見るからに落胆する彼女に、グレイヴさんは嘆息した。

「俺らの両親は俺ら次第では解消してもいいって言ってるだろ。それに……」
「それに、なに?」
「……好きな奴がいるんだよ。だから、悪いがお前とは結婚出来ない」

 グレイヴさんの言葉に、胸が熱くなる。それと同時に、シャーリーの目が見開く。肩を震わせ、怒りに表情を歪めた。

「認めない、絶対に認めないんだから!!」

 声を荒げ、シャーリーは部屋へと走り去っていった。

「……いいんですか? 追いかけなくて」
「放っといて大丈夫さ。すぐに落ち着く」

 まるでわかりきっているような態度に、少しムッとしてしまう。彼女が去って行った階段を見つめながら、グレイヴさんは口を開いた。

「あいつのこと、何故か恋愛面で好きにはなれないんだ」
「何故、ですか……?」
「小さい頃から一緒だった分、悪友みたいに感じまってな。あいつとは友人でいたいんだ」

 苦笑しながら言う彼の言葉は、嘘を言っている風には見えなかった。

 二人の間にどのような感情が渦巻いているのか、私にはわからない。知りたいとは思うが、深く話してはくれないだろう。

 所詮、私は他人だから……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...