TS聖女の悩みの種

ねこいかいち

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21 お弁当

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 翌朝、何時の間にか眠ってしまっていた私は、上体を起こし部屋を見渡した。

 既にグレイヴさんが居ない所を見るに、外に出て朝の鍛錬をしているのだろう。


 それにしても……昨夜の私はどうしてしまったというのだろうか。まだ彼に恋をしていると確定した訳ではないのだから、流されちゃいけない。頬を叩き、意思を固める。うん、流されちゃダメ。

 さて、気を取り直して着換えをしよう。そう思い、寝着のチュニックを脱ぎ、下着と聖女の服を取り出す。未だ重い瞼を擦りながらブラジャーに手を伸ばすと、部屋のドアが開いた。

「ふい~、いい汗かいた……あ」

 着換えを取りに来たグレイヴさんと目が合う。私の格好は薄い水色のパンツ一枚。私が慌てて胸を隠すのと同時に、彼は部屋のドアを勢いよく閉めた。

 うう、また裸を見られた……。前回の宿での全身を見られるのよりはマシかもしれないが、それでも見られたのには変わりない。

 胸も大きくないし、くびれもそこまである方ではないが、彼に見られるのは恥ずかしい。

 急いで着替えてしまおうと、落としてしまったブラジャーを手に取った。



 急いで着替えて、部屋のドアを開ける。

「すみません、お待たせしてしまって……」
「いや、そのッ、俺も宿の時の感覚で開けちまったし……悪かったよ」

 赤らんだ頬を掻きつつ謝罪してくる彼に、首を横に振りつつ私は部屋から出る。入れ替わりに、彼は部屋へと入っていった。

 それを確認すると、私は一階に下りリビングの側の台所に向かった。母が朝食の用意をしている間、私はお弁当の用意をしていく。

 今日の朝食のメニューはパンにトマト煮込みスープ、サラダにカリカリに焼かれたベーコンだ。母は父を、私はグレイヴさんを呼びに二階へと向かう。

 部屋をノックし、声を掛けた。

「グレイヴさん、朝食の用意が出来ましたよ」
「おう、今行く」

 ドアを開け何時もの格好に着替えた彼と共にリビングに行き、先に席に付いていた父に挨拶をする。

「おはようございます、お父さん」
「おはよう。ロラン、グレイヴ君」
「おはようございます」

 椅子に腰掛け、朝食をとり出す。うん、カリカリに焼けたベーコンが美味しい。

「今日はどちらへ?」
「順にセドックに行こうと思います」

 セドックは丘を越えた先にある村だ。今日中に着くことも、治療を開始することも出来るだろう。

「昨日のうちに村長には話してあるので、朝食を食べたらすぐにでも発ちます」
「わかりました。見送りは不要ですね」

 父にも医師としての仕事がある。見送りは不可能だろう。

「大丈夫ですよ。気にしないでください」

 小さく微笑むと、静かに笑みを返された。


 朝食を取り終え、お弁当を持ち家を出る。まだ日が昇ったばかりの外はいくらか寒い。

「ロラン、気を付けてね」
「うん」

 抱き締めてくれる母の温もりを心地よく感じながら、体を離す。

「グレイヴくんも、くれぐれも気を付けてね」
「ありがとうございます」

 手を振り見送ってくれる母に背を向け、私達は次の村、セドッグへと向かって歩きだした。

 セドッグは放牧に使われる草原と丘を越えた先にある。広大な草原は季節の変わり目を色鮮やかに映しだし、覆い茂る草は新緑に染まっていた。

 小さな丘を登ると、セドッグの村が見える。再び麻袋を使い、緩やかな傾斜を滑り降りれば、あっという間にセドッグの村に着いた。

 早速、村長に挨拶をし、治療を開始する。この村には初期の腫瘍がある人がいたが、【治癒】を施し小さくすることが出来た。他の人は軽度な人ばかりで、西地区において私一人での治療では最短記録で終えることが出来た。

 そのまま村長に挨拶し、村を出る。次はタンバの村だ。

 道中、お昼休憩をとろうということになり、川岸で持ってきたお弁当を広げる。中身はシンプルにトマトとレタス、チーズのサンドイッチだ。実はこれはソースまで私の手作りだったりする。

 お手製のマヨネーズは、前世で大学時代に料理にハマっていた際に編みだしたレシピで、この世界では唯一無二のレシピだ。

「美味いな、このソース!」

 どうやらグレイヴさんもお気に召してくれたようだ。

「気に入ってくれて良かったです」
「これ、お前さんが作ったのか?」
「え、ええ……具を挟めばいいだけですし、ソースはお手製ですが」

 私の手製と言ったら、彼の顔が綻んでいった。

「美味いぜ、これ! ロラン、いい嫁さんになれるなっ」

 満面な笑みを向けられ、ドキリと胸が高鳴る。

 お嫁さんといっても、私は前世は男だ。結婚も、誰かのお嫁さんになるつもりもない。

 グレイヴさんとなら、別かもしれないが……。


 ハッとし、今の考えを振り払う。彼にはまだ、自分が恋をしているのかも不確かなんだ。そんなこと、考えては駄目だ。

 突然、頭を振りだした私を余所に、グレイヴさんは首を傾げつつ三個目のサンドイッチに手を伸ばしたのだった。
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