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「……では、失礼します」
「おう」
恐る恐る彼の首元に手を添え、背中に密着する。私の重みなんて感じていないのか、軽々と立ち上がった。
「しっかり掴まってろよ」
かけられた声に頷くと、彼は体格に見合わず身軽にごつごつとした足場の悪い道を進んでいく。私を支えているから片手のみを使って岩を上り下りしているが、それでも簡単に岩へと飛び移っていく。相当な運動神経だ。
「あの、グレイヴさん」
思わず、声をかける。
「ん?」
「グレイヴさんは私の護衛をする前は、何をなさっていたんですか?」
大きな岩が減ってきて、平坦な道になって来た。それでも彼は降ろす気はないのか、すたすたと歩きだす。
前世の私よりも大きな彼の背中から見える景色は、何と言うか清々しい。
「前の職? 騎士だけど」
「え!?」
意外すぎる答えに、驚愕の表情を浮かべてしまう。そんな私に、彼は「言ってなかったっけ?」などと呑気に言ってくる始末だった。
「聖女の護衛ってのは、基本的に騎士が選ばれるんだよ。お前さんの場合、年が近い方が旅もしやすいだろうってことで俺が選ばれたんだよ」
そうだったのか……。意外な答えに、目を丸くする。
「そろそろ大丈夫です」
「そうか」
ごつごつした岩もなくなり、ゆっくりと背から降ろして貰う。まだ若干の痛みが残っていたのか、足に痛みが走る。もう一度【治癒】を施す。
「何だよ、足を怪我してたのか」
「ええ、まあ……」
足下の確認を怠った自業自得なので何も言えない。魔法のお陰で、痛みもなくなった。
「お待たせしました……グレイヴさん?」
視線を足から戻すと、またしても彼はこちらに背を向けてしゃがみ込んでいた、
「村までおぶる」
「いえ、それは悪いですよっ」
そこまでして貰う必要はない。やんわりと断るが、彼は頑なだった。
「村に着くまで、体力温存しておけ。今回の巡回は異例なんだし」
そう、確かに異例なのだ。本来、聖女は担当する地区を割り振られている。東西南北に各二~三人。前回、私が担当したのは王都でもある首都ミダスから東側。担当者だった前任の聖女二人はおめでたで辞めてしまった。そこで急遽、穴埋めという形で私が抜擢されたという形だった。今はもう、新たな聖女が配置されただろう。
越して今回、巡回を言い渡されたのは西側。国王陛下との謁見の際に聖女に関しての話はなかったということは、担当する聖女は辞めていない筈だ。それでも、人手が足りないと私が巡回を言い渡されたということは、巡回が間に合っていないのだろう。
そう考えれば、彼の言う通り体力を温存しておくべきなのかもしれない。
「……では、済みませんがお言葉に甘えさせて貰います」
先程同様、彼の首元に手を回し、背負って貰う。もう一度、あの視線の高い景色を見られるのは嬉しいものだ。
「まだ砂利道が続くから、しっかり掴まってろな」
「はい」
首に回した手をギュッと握りしめ、落ちないように密着する。
すると、何故かグレイヴは溜息を吐いた。
「どうしました?」
「ああ、いや……その、だな……」
どこか照れくさそうな、困ったような顔を浮べる彼。小首を傾げていると、彼は小さな声で呟いた。
「胸当てなかったら、少しは感触を楽しめたかなあと……」
その言葉に、呆れかえるしか出来ない。私の口からは「変態」としか出なかった。
「おう」
恐る恐る彼の首元に手を添え、背中に密着する。私の重みなんて感じていないのか、軽々と立ち上がった。
「しっかり掴まってろよ」
かけられた声に頷くと、彼は体格に見合わず身軽にごつごつとした足場の悪い道を進んでいく。私を支えているから片手のみを使って岩を上り下りしているが、それでも簡単に岩へと飛び移っていく。相当な運動神経だ。
「あの、グレイヴさん」
思わず、声をかける。
「ん?」
「グレイヴさんは私の護衛をする前は、何をなさっていたんですか?」
大きな岩が減ってきて、平坦な道になって来た。それでも彼は降ろす気はないのか、すたすたと歩きだす。
前世の私よりも大きな彼の背中から見える景色は、何と言うか清々しい。
「前の職? 騎士だけど」
「え!?」
意外すぎる答えに、驚愕の表情を浮かべてしまう。そんな私に、彼は「言ってなかったっけ?」などと呑気に言ってくる始末だった。
「聖女の護衛ってのは、基本的に騎士が選ばれるんだよ。お前さんの場合、年が近い方が旅もしやすいだろうってことで俺が選ばれたんだよ」
そうだったのか……。意外な答えに、目を丸くする。
「そろそろ大丈夫です」
「そうか」
ごつごつした岩もなくなり、ゆっくりと背から降ろして貰う。まだ若干の痛みが残っていたのか、足に痛みが走る。もう一度【治癒】を施す。
「何だよ、足を怪我してたのか」
「ええ、まあ……」
足下の確認を怠った自業自得なので何も言えない。魔法のお陰で、痛みもなくなった。
「お待たせしました……グレイヴさん?」
視線を足から戻すと、またしても彼はこちらに背を向けてしゃがみ込んでいた、
「村までおぶる」
「いえ、それは悪いですよっ」
そこまでして貰う必要はない。やんわりと断るが、彼は頑なだった。
「村に着くまで、体力温存しておけ。今回の巡回は異例なんだし」
そう、確かに異例なのだ。本来、聖女は担当する地区を割り振られている。東西南北に各二~三人。前回、私が担当したのは王都でもある首都ミダスから東側。担当者だった前任の聖女二人はおめでたで辞めてしまった。そこで急遽、穴埋めという形で私が抜擢されたという形だった。今はもう、新たな聖女が配置されただろう。
越して今回、巡回を言い渡されたのは西側。国王陛下との謁見の際に聖女に関しての話はなかったということは、担当する聖女は辞めていない筈だ。それでも、人手が足りないと私が巡回を言い渡されたということは、巡回が間に合っていないのだろう。
そう考えれば、彼の言う通り体力を温存しておくべきなのかもしれない。
「……では、済みませんがお言葉に甘えさせて貰います」
先程同様、彼の首元に手を回し、背負って貰う。もう一度、あの視線の高い景色を見られるのは嬉しいものだ。
「まだ砂利道が続くから、しっかり掴まってろな」
「はい」
首に回した手をギュッと握りしめ、落ちないように密着する。
すると、何故かグレイヴは溜息を吐いた。
「どうしました?」
「ああ、いや……その、だな……」
どこか照れくさそうな、困ったような顔を浮べる彼。小首を傾げていると、彼は小さな声で呟いた。
「胸当てなかったら、少しは感触を楽しめたかなあと……」
その言葉に、呆れかえるしか出来ない。私の口からは「変態」としか出なかった。
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