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第三章

10 野盗との遭遇

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 テトスからダグラスの首都ダグスへは、片道三時間程だという。その間、何事もなければいい――。そう思っていたレティシアだったが、やはりトラブルは付き物だということのようだ。

「ひ、ひいいい……」
 急に馬車が停まり、御者の震える声が聞こえた。どうしたのかとキャリッジのカーテンを開けようとしたら、セシリアスタに止められた。
「セシル様?」
「ダグラスは比較的、温厚な土地だと思っていたのだがな……」
 そう言いつつ、エドワースへと視線を向ける。するとエドワースはキャリッジから飛び降りた。その際、微かに見えた光景は、馬車が武装した人たちに囲まれていた。そっとカーテンを少しだけ開け、外の様子を眺める。

「おいおい、こんな馬車一つに大勢で襲ってくるなよな」
 エドワースの言葉に、頭領と思われる男が口を開く。下品な笑みは見ていて少し不快感が湧き上がった。
「殺されたくなかったら、金目のもん全て置いていきな。そうすれば命だけは助けてやる」
「……断ったら?」
「全員殺す」
 頭領の在り来たりな台詞に、エドワースは面倒くさそうに深く溜息を吐く。そんなエドワースの態度に、頭領の眉間に皺が寄った。
「諦めて帰った方が良いぜ? こっちは今、大切な旅行中なんだよ。ほら、痛い目に遭いたくないなら帰った帰った」
 シッシッ、と手で追い払うエドワースに、苛立った野盗たちは一斉にエドワースへと襲い掛かった。

「エドワースさん!」
 思わずキャリッジから叫ぶレティシア。だが、そんなレティシアを安心させるべく肩に手を乗せるセシリアスタ。
「あいつなら大丈夫だ」
 そう言うセシリアスタの表情はエドワースを信じている目で、レティシアは不安ながら外を眺めた。

「よっと」
 攻撃を避け、馬車に近付こうとする者へ瞬時に移動し腹部を殴打して気絶させる。武器を持っている者は小さな声で短く呪文を詠唱し、一瞬で大勢の男達の足を氷漬けにした。幸い、銃を持っている者はいなかったので、呆気ない幕切れとなったのだった。
「くそっ、魔導士かよ!」
「残念だったな。運が悪かったと思って凍っててくれ」
 そう言い残すと、キャリッジの中に戻ってきたエドワース。ホッと安堵するレティシアに笑顔を向けると、御者に「行っていいぜ」と声を掛けた。そのままゆっくりと恐る恐る動き出した馬車に、レティシアは再び深い安堵の溜息を吐いた。
「エドワースさん、本当に強いんですね」
「エドはアカデミー時代、イザークを抜いてトップ二だったからな」
「そうなのですか!?」
 意外な過去を知ったレティシアは目を見開いた。そんなレティシアに「そんなに驚きます?」と苦笑するエドワース。魔法の発動の手際の良さも然ることながら、瞬時に周りを見極める洞察力といい、エドワースの凄さを再確認できる場面だった。
「ちなみに、万年トップはコイツです。セシルと俺とイザーク、三人で常にトップ三は埋ってたな」
「確かにな」
 知らなかったアカデミー時代のことも聞けて、頬が緩んだレティシアだった。
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