上 下
43 / 96

43話 パーティーの前の悲劇

しおりを挟む
 あっという間に日は過ぎ、パーティー当日になった。運悪くセシリアスタは王宮に呼ばれてしまい、レティシアは一人で会場であるオズワルト伯爵邸に向かうこととなった。
 今日はアティカに髪をアップに結って貰い、ラベンダー色のシース・ドレスに身を包んだ。髪飾りはお気に入りのセシリアスタから頂いた花の髪飾りに、魔石のペンダントをしている。

「本当に大丈夫ですか? お嬢様お一人で……」
 不安そうに見つめるカイラとアティカに、レティシアは微笑んだ。
「大丈夫よ。前にも一度行ったことのある場所だし、迎えの馬車が来てくれるわ」
「もし、もし会場で何かありましたら、必ずオズワルト伯爵に頼ってください」
「ありがとう、アティカ」
 心配してくれる二人に、レティシアは微笑む。こんなに心配されるとは思ってもいなかった。

「あ、来たわね。それじゃあ、行ってくるわ」
「お気を付けて」
 迎えに来た馬車のキャリッジに乗り込み、レティシアはオズワルト伯爵邸へと向かった。


 十五分後、ユグドラス邸に馬車が停まった。
 迎えに来た筈の馬車が再び来たことに違和感を覚えたフットマンが尋ねると、レティシアの迎えに来たと言うのだ。
「はあ? お嬢様はもう迎えの馬車に乗っていきましたよ?」
 フットマンにそう告げるカイラに、アティカは嫌な予感がした。アティカはフットマンに言葉を投げかける。
「急いでセシリアスタ様に伝えて」
「え、アティカさん?」
 一体どういうことなのかさっぱり見当のつかないカイラに、アティカは叫ぶ。
「いいから! レティシアお嬢様が攫われたかもしれないの!」





 馬車が走る道に違和感を覚えたのは、王都の外れへと向かっていると気付いてからだ。
「あの、オズワルト伯爵邸とは逆の方向ですが……」
 御者台に座る御者に声を掛けるレティシア。だが、御者は無言で道を進み続ける。
(嫌な予感がするわ……)
 急いでキャリッジから降りようとするが、外から鍵がかかっていて開けることも出来ない。
 窓を覗くと、何時の間にか多くの人が馬車の周りを囲んでいた。
「っ!?」
 知らない男たちが、馬車の中を覗き込んでいる。気味の悪さに、レティシアはキャリッジの真ん中に移動した。
 暫く様子をみるしかない――。そう考え大人しくしていると、目的地に着いたのか、馬車が停車した。

「降りろ」
 キャリッジのドアを開けられ、見たこともない男が命令してくる。ここは様子を窺って逃げるしかない。そう判断し、レティシアは指示に従った。目の前には古びた家屋が建っていた。そのまま男たちに囲まれながら進み、家屋の中に入る。瓦礫を退かすと、そこには鉄の扉があった。
「入れ」
 言われるまま、開けられた鉄の扉を潜り地下へと進む。中は薄暗く、所々にあるたいまつだけが明かりだった。
 中を進むと、奥に誰かが居るのに気付く。一体、誰が――。
「お久しぶりね、お姉さま」
「……スフィア」
 目の前には、一ヶ月ぶりに会う家族の姿があった。

「あら、とってもお似合いよ? そのドレス、セシリアスタさまが用意してくださったの?」
「……」
 何故だろう、スフィアの言葉に、憎しみとも恨みともとれる感情が含まれている気がする。レティシアはどうしてこんな所に家族が居るのか、この男達は何なのか考えだす。
「どうなんだよ! 答えなさいよ!」
「っ」
 突然の怒声に、レティシアの体が強張る。そんなレティシアの姿に笑みを浮かべながら、スフィアは言葉を続ける。
「『不良品』の癖に、良いご身分よねえ? 魔道具なんて使ってセシリアスタさまを誑かしてさあ……」
「そんな、私はそんなこと……っ」
「してないなんて言わせない。そうじゃなきゃ、『不良品』のあんたが選ばれる筈がないでしょうが」
 嫉妬に駆られた瞳で、レティシアを睨むスフィア。そんなスフィアに、ユノアは抱き締める。
「可哀想なスフィア……あんな『不良品』の所為で、ここまで心が病んでしまって……」
「お母さま……」
 抱き締めるユノアに縋り付くスフィア。そんな二人の横を通り抜け、スルグがレティシアの前に立った。
「『不良品』が、私達のスフィアを泣かせるな!」
「っ」
 瞬間、頬に強い衝撃が走る。口の中が血の味がする。スルグに殴られたのだと理解した。
「おいおい、商品に怪我させないでくれよ」
 割り込んできた男が、スルグを宥める。スルグはまだ殴り足りない素振りをしていたが、息を吐き踵を返す。
「フン。そんな『不良品』、商品になるのか?」
「帝国では需要あるんですよ」
 帝国、という言葉に、レティシアの表情が硬くなる。そんなレティシアを見て、スフィアは笑顔を向ける。
「良かったわね、お姉さま。あんたみたいな『不良品』でも、役に立つ所があるんですって!」
 あはははは! と笑うスフィアに、レティシアは何も言えなかった。何故、こんなことになったのか――。
「迎えの奴らが来るまで、檻に入れておけ」
「はいはい」
 スルグは男に指示し、レティシアを無理矢理立たせて檻に入れる。
「待って」
 その直前、スフィアが止めに入り、レティシアの側に歩み寄る。ペンダントを取り、自身に着けた。
「か、返して!」
「はあ? なんで『不良品』の言うこと聞かなきゃなんないのよ。これはあたしが貰うわ。あんたには勿体ないからね」
 手を伸ばすが、男に押さえられ取り返すことも出来ない。レティシアは涙ながらに叫んだ。
「それだけは返して! スフィア!」
 叫んだ直後、殴られた頬に衝撃が再び走る。スフィアが平手打ちをしてきたのだと理解する。
「うるさいわね! これはもうあんたのじゃないの、私のものよ! 次騒いだら、その顔に一生残る傷跡つけるからね!」
 そう言い残し、スフィアはスルグとユノアと共に地下から出て行く。檻に放り投げられ、レティシアは唇を噛み締めた。
「出してください!」
 男にそう言うが、男は笑うだけだった。
「嬢ちゃん。商品を外に出す馬鹿はいねえよ」
 その言葉に、周りにいた男達は爆笑しだした。レティシアは鍵のかけられた檻の柵を握り締めながら、目を伏せた。
(セシル様……)
 ぎゅっと柵を握った手に、一粒の涙が落ちた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

銭ゲバ薬師と、思考過敏症の魔法機動隊長。

Moonshine
恋愛
昼も薄暗い、城のほとりの魔の森に一人で暮らす、ちょっと・・大分お金にガメツイけれど、腕の立つ薬師の少女のニコラと、思考過敏症に悩まされる、美麗な魔法機動隊長、ジャンのほのぼの異世界恋愛話。 世界観としては、「レイチェル・ジーンは踊らない」に登場するリンデンバーグ領が舞台ですが、お読みにならなくとも楽しめます。ハッピーエンドです。安心してお楽しみください。 本編完結しました。 事件簿形式にて、ミステリー要素が加わりました。第1章完結です。 ちょっと風変わりなお話を楽しんでいってください!

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。

ララ
恋愛
婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。 愛する彼は他の女性を選んで、彼女との理想を私に語りました。 結果慰謝料を取り婚約破棄するも、私の心は晴れないまま。

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

処理中です...