18 / 96
新しい家2
しおりを挟む
セシリアスタに案内されながら、大きくて広い廊下を歩いていく。迷いそうになる広さに、圧倒させられる。そんなレティシアを、セシリアスタは微笑みながら見つめていた。
「此処が、君の部屋だ」
純白のドアを開け、セシリアスタに入るよう促される。
「わあ……っ」
クォーク邸にあった自室の倍もある広さ、家具はシンプルながら淡いピンクで小さな花がワンポイントにあしらわれたものに統一されている。すぐ隣にはドアを隔てて浴室も完備されていた。バスタブも家具と統一されてある。
「こんな素敵な部屋、本当に私が使ってもよろしいのでしょうか……?」
振り返り、不安げに見上げるレティシア。そんな彼女に、セシリアスタはパーティーの時にみたあの笑みを向けてきた。
「これは気の為に誂えたものだ。寧ろ使ってくれないと困るな」
「……では、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます、セシル様」
私の為……その言葉が嬉しくて、レティシアは満面の笑みを向ける。セシリアスタが目を見開き、視線を逸らした。頬が若干赤くのなったのは気の所為だろう。
「セシリアスタ様」
後から入ってきたアティカに「どうした」と声をかけるセシリアスタ。アティカは小さく溜息を吐きながら、言葉を告げる。
「やはり急にお迎えに上がったのは早計でしたのでは? レティシアお嬢様の荷物はこんなものしかありませんし、従者だって連れてきたのは一人だなんて……」
そう言って、足元を見やる。大きな鞄二つに、小さな鞄一つ。カイラの荷物も、鞄一つだ。
「あ、それで十分です。私が用意したものなので」
「は?」
レティシアの言葉に、セシリアスタが割り込む。細められた目を向けられ、レティシアは困惑した。
「その……、元から私のものというのはあまり無くて、気に入っているものだけを鞄に詰め込んだんです」
レティシアの言葉に、アティカの目が光る。慌てて、カイラが割り込んだ。
「発言を失礼します。その、お嬢様の従者は幼い頃から私一人です。荷物も、失礼ながら王都で自費で揃えようとのお考えでした」
「従者があなた一人? それに自費で揃えるだなんて、そもそもお金を持っているの?」
「アティカ」
セシリアスタが強い口調で名を呼ぶと、アティカの問答が止まった。「失礼いたしました」と頭を垂れるアティカに、レティシアは慌てて話しかける。
「顔をあげてください、アティカさんっ。アティカさんの仰ることは事実ですから」
話したくなかったが、仕方ない――。レティシアは重い口を開いた。
「私の服もドレスも、全て妹のお下がりなんです。だから、自分で直した服だけを持ってきたんです」
その言葉に、セシリアスタの表情が変わる。それに気付かないレティシアは、アティカへと言葉を続ける。
「だから、『不良品』の私が唯一出来る魔石生成で魔石を作って、それを売ったお金で服を用意しようと考えてました。私の従者がカイラ一人なのも、事実なんです。マーキス辺境伯の元に嫁ぐと思っていたので、必要最低限の荷物しか用意してなかった私の不手際です……」
すみません、と謝るレティシアに、アティカは何も言えなくなる。ハッと何かに気付いた素振りをするアティカに釣られて振り向くと、表情の硬くなったセシリアスタがいた。何故か、魔力を放出している。
「セシリアスタ様、落ち着いてくださいっ」
「……落ち着いている」
「魔力放出している時点で落ち着いてません!」
アティカの言葉も通じず、更に魔力が放出される。放出される魔力が桁違いだ。レティシアは慌ててセシリアスタに近付く。
「セシル様、落ち着いてくださいっ」
「だから、落ち着いているといっているだろう」
無表情で語るセシリアスタだが、こんな大きな魔力を放出されれば、周りにも被害が及ぶ筈だ。レティシアは落ち着くようにと宥める。
「私の発言が気に障ったのならば謝ります。ですから、気を静めてください」
レティシアの一言に、セシリアスタは一呼吸置き、小さく息を吐いて放出していた魔力を静めた。ホッとしたのも束の間、突然、セシリアスタに抱き着かれた。
「きゃっ! せ、セシル様!?」
突然の行動に、レティシアの頬が赤くなった。心臓が飛び出しそうなくらい飛び跳ねている。そんなレティシアにお構いなく、セシリアスタはアティカに言葉を発する。
「アティカ。エドワースに告げろ。午後の公務は無しだ」
「と言いますと?」
「午後はレティシア嬢の服を見繕う。勿論、カイラのもだ」
セシリアスタの発言に驚くレティシア。だが、一番驚いたのはカイラだった。
「わ、私もですか!?」
「カイラのはアティカ、お前が選んでやれ。これからは互いにレティシア嬢の世話を任せる。親睦も深めておけ」
「承知いたしました」
驚きを隠せないカイラを余所に、話が進んでいく。レティシアは抱き締められながら慌ててセシリアスタに声を発する。
「そんな、恐れ多いです! 自分でどうにかできますっ」
「レティシア」
敬称なしで、名を呼ばれる。至近距離で真っすぐ視線を重ねられ、更に頬が赤くなっていく。
「これは私の我侭だ。どうか、その我侭を叶えて欲しい」
「~~~~っ」
美貌の青年に目尻を下げ、首を傾げられては断りたくても断れない。レティシアは耳まで真っ赤に染めながら、小さく頷くしか出来なかった。
「此処が、君の部屋だ」
純白のドアを開け、セシリアスタに入るよう促される。
「わあ……っ」
クォーク邸にあった自室の倍もある広さ、家具はシンプルながら淡いピンクで小さな花がワンポイントにあしらわれたものに統一されている。すぐ隣にはドアを隔てて浴室も完備されていた。バスタブも家具と統一されてある。
「こんな素敵な部屋、本当に私が使ってもよろしいのでしょうか……?」
振り返り、不安げに見上げるレティシア。そんな彼女に、セシリアスタはパーティーの時にみたあの笑みを向けてきた。
「これは気の為に誂えたものだ。寧ろ使ってくれないと困るな」
「……では、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます、セシル様」
私の為……その言葉が嬉しくて、レティシアは満面の笑みを向ける。セシリアスタが目を見開き、視線を逸らした。頬が若干赤くのなったのは気の所為だろう。
「セシリアスタ様」
後から入ってきたアティカに「どうした」と声をかけるセシリアスタ。アティカは小さく溜息を吐きながら、言葉を告げる。
「やはり急にお迎えに上がったのは早計でしたのでは? レティシアお嬢様の荷物はこんなものしかありませんし、従者だって連れてきたのは一人だなんて……」
そう言って、足元を見やる。大きな鞄二つに、小さな鞄一つ。カイラの荷物も、鞄一つだ。
「あ、それで十分です。私が用意したものなので」
「は?」
レティシアの言葉に、セシリアスタが割り込む。細められた目を向けられ、レティシアは困惑した。
「その……、元から私のものというのはあまり無くて、気に入っているものだけを鞄に詰め込んだんです」
レティシアの言葉に、アティカの目が光る。慌てて、カイラが割り込んだ。
「発言を失礼します。その、お嬢様の従者は幼い頃から私一人です。荷物も、失礼ながら王都で自費で揃えようとのお考えでした」
「従者があなた一人? それに自費で揃えるだなんて、そもそもお金を持っているの?」
「アティカ」
セシリアスタが強い口調で名を呼ぶと、アティカの問答が止まった。「失礼いたしました」と頭を垂れるアティカに、レティシアは慌てて話しかける。
「顔をあげてください、アティカさんっ。アティカさんの仰ることは事実ですから」
話したくなかったが、仕方ない――。レティシアは重い口を開いた。
「私の服もドレスも、全て妹のお下がりなんです。だから、自分で直した服だけを持ってきたんです」
その言葉に、セシリアスタの表情が変わる。それに気付かないレティシアは、アティカへと言葉を続ける。
「だから、『不良品』の私が唯一出来る魔石生成で魔石を作って、それを売ったお金で服を用意しようと考えてました。私の従者がカイラ一人なのも、事実なんです。マーキス辺境伯の元に嫁ぐと思っていたので、必要最低限の荷物しか用意してなかった私の不手際です……」
すみません、と謝るレティシアに、アティカは何も言えなくなる。ハッと何かに気付いた素振りをするアティカに釣られて振り向くと、表情の硬くなったセシリアスタがいた。何故か、魔力を放出している。
「セシリアスタ様、落ち着いてくださいっ」
「……落ち着いている」
「魔力放出している時点で落ち着いてません!」
アティカの言葉も通じず、更に魔力が放出される。放出される魔力が桁違いだ。レティシアは慌ててセシリアスタに近付く。
「セシル様、落ち着いてくださいっ」
「だから、落ち着いているといっているだろう」
無表情で語るセシリアスタだが、こんな大きな魔力を放出されれば、周りにも被害が及ぶ筈だ。レティシアは落ち着くようにと宥める。
「私の発言が気に障ったのならば謝ります。ですから、気を静めてください」
レティシアの一言に、セシリアスタは一呼吸置き、小さく息を吐いて放出していた魔力を静めた。ホッとしたのも束の間、突然、セシリアスタに抱き着かれた。
「きゃっ! せ、セシル様!?」
突然の行動に、レティシアの頬が赤くなった。心臓が飛び出しそうなくらい飛び跳ねている。そんなレティシアにお構いなく、セシリアスタはアティカに言葉を発する。
「アティカ。エドワースに告げろ。午後の公務は無しだ」
「と言いますと?」
「午後はレティシア嬢の服を見繕う。勿論、カイラのもだ」
セシリアスタの発言に驚くレティシア。だが、一番驚いたのはカイラだった。
「わ、私もですか!?」
「カイラのはアティカ、お前が選んでやれ。これからは互いにレティシア嬢の世話を任せる。親睦も深めておけ」
「承知いたしました」
驚きを隠せないカイラを余所に、話が進んでいく。レティシアは抱き締められながら慌ててセシリアスタに声を発する。
「そんな、恐れ多いです! 自分でどうにかできますっ」
「レティシア」
敬称なしで、名を呼ばれる。至近距離で真っすぐ視線を重ねられ、更に頬が赤くなっていく。
「これは私の我侭だ。どうか、その我侭を叶えて欲しい」
「~~~~っ」
美貌の青年に目尻を下げ、首を傾げられては断りたくても断れない。レティシアは耳まで真っ赤に染めながら、小さく頷くしか出来なかった。
12
お気に入りに追加
2,681
あなたにおすすめの小説
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
幸せな帝国生活 ~「失敗作」と呼ばれていた王女、人質として差し出された帝国で「最重要人物」に指定される~
絢乃
恋愛
魔力が低いと蔑まれ「失敗作」扱いだった王女ソフィアは、人質として宗主国の帝国に送られる。
しかし、実は彼女の持つ魔力には魔物を追い払う特殊な属性が備わっていた。
そのことに気づいた帝国の皇太子アルトは、ソフィアに力を貸してほしいと頼む。
ソフィアは承諾し、二人は帝国の各地を回る旅に出る――。
もう失敗作とは言わせない!
落ちこぼれ扱いされていた王女の幸せな帝国生活が幕を開ける。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる