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再会、そして6
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エントランスで使用人たちと共に魔導公爵を待つ傍ら、レティシアは考えごとをしていた。
昨日の今日で婚約者を決めた魔導公爵も凄いが、王都に屋敷を構える魔導公爵がパーティーの後すぐに魔法便を使って文を送ってきたにしても、クォーク邸に来るまでに何時間とかかる。確実にパーティーの直後から用意をしていたに違いない。だが、そこが不思議でならなかった。
(王宮からの婚姻が相当嫌だったのかしら……?)
魔導公爵の元に求婚を申し込んでくる女性は多いと聞いたことがある。その中には、王宮の王女達も含まれていたという。それらの求婚から逃れる為に開いたのが昨日のパーティーではあるのだが、それにしても早すぎる決めようだと思えた。
(まあ、私には関係のないことなのだけれどね……)
目の前では、今か今かと何度も右に左にと移動する父と、何度も懐中時計を確認する母、そして。
「ああ、早く来てくださらないかしらっ、私の旦那さまっ」
既に浮足立っているスフィアの姿が見られた。使用人達より一歩前に立っているレティシアだが、家族三人よりも後ろの方に立たされている。レティシアは目の前の家族を見て溜息を吐きながら、この後の自分のことを考えてしまう。魔導公爵を見送った後、午後を告げる鐘が鳴り次第マーキス辺境伯が迎えに来る算段となっている。その迎えの馬車に乗り込み、グスタット領に向かう。両親からすれば、『不良品』の私を追い出せ、可愛い妹の門出も迎えることの出来るこの日は最高の日となるのだろう――。そう思うと、悲しさと虚しさが同時に込み上げてきた。
どうしても、パーティーのことを思い出すとセシルの姿が脳裏に浮かんでしまう。必ず迎えに行く――そう言ってくれたが、彼との約束は守れそうにない。レティシアはそれが堪らなく辛かった。
「魔導公爵様がいらっしゃいました!」
門の側に立っていたフットマンからの声に、スルグは足を止め、一つ咳払いをする。フットマンが扉を開けるのを、静かに待つ。
ゆっくりと、扉が開いた。
「ようこそ。遠い所からお出でくださいました、魔導公爵様」
スルグの挨拶を受けながら、純白のコートの裾をはためかせ魔導公爵がエントランスに入ってくる。使用人共々、レティシアも深くお辞儀をした。
「構わん。楽にしろ」
セシリアスタの声に、使用人共々ゆっくりと顔を上げる。意外なことに、従者は三人しか連れていなかった。パーティーの時は遠目にしか見えなかったが、白銀の髪にアイスブルーの瞳、端正のとれた容姿は美しいの一言でしか表せない。ふと、視線があった気がしたのは気のせいだろうか――。
「魔導公爵さまっ」
スルグの横に、スフィアが立った。深々とカーテンシーをし、セシリアスタを出迎える。
「この度は私を選んでくださり、光栄ですわ」
微笑みながら言葉を掛けるスフィアを、じっと見つめた。スフィアの頬が赤く染まっていく。
「勘違いをしているようだから言っておくが、お前なんぞ選んでいない」
だが、発せられたその一言に、スフィアの表情と体が固まった。スッとスフィアの横を通り抜け、此方に向かってまっすぐ歩いてくる。何故? レティシアの疑問に、誰も答えてはくれる人はいない。
「ま、魔導公爵様っ」
スルグの声を背に聞きながら、セシリアスタは歩みを止めない。動揺するスルグとユノアなぞ構うことなく、セシリアスタはレティシアの前で止まった。急に目の前に来た青年に、レティシアは体が強張る。
「君を迎えに来た。レティシア嬢」
そう言いながら、セシリアスタは微笑んだ。
昨日の今日で婚約者を決めた魔導公爵も凄いが、王都に屋敷を構える魔導公爵がパーティーの後すぐに魔法便を使って文を送ってきたにしても、クォーク邸に来るまでに何時間とかかる。確実にパーティーの直後から用意をしていたに違いない。だが、そこが不思議でならなかった。
(王宮からの婚姻が相当嫌だったのかしら……?)
魔導公爵の元に求婚を申し込んでくる女性は多いと聞いたことがある。その中には、王宮の王女達も含まれていたという。それらの求婚から逃れる為に開いたのが昨日のパーティーではあるのだが、それにしても早すぎる決めようだと思えた。
(まあ、私には関係のないことなのだけれどね……)
目の前では、今か今かと何度も右に左にと移動する父と、何度も懐中時計を確認する母、そして。
「ああ、早く来てくださらないかしらっ、私の旦那さまっ」
既に浮足立っているスフィアの姿が見られた。使用人達より一歩前に立っているレティシアだが、家族三人よりも後ろの方に立たされている。レティシアは目の前の家族を見て溜息を吐きながら、この後の自分のことを考えてしまう。魔導公爵を見送った後、午後を告げる鐘が鳴り次第マーキス辺境伯が迎えに来る算段となっている。その迎えの馬車に乗り込み、グスタット領に向かう。両親からすれば、『不良品』の私を追い出せ、可愛い妹の門出も迎えることの出来るこの日は最高の日となるのだろう――。そう思うと、悲しさと虚しさが同時に込み上げてきた。
どうしても、パーティーのことを思い出すとセシルの姿が脳裏に浮かんでしまう。必ず迎えに行く――そう言ってくれたが、彼との約束は守れそうにない。レティシアはそれが堪らなく辛かった。
「魔導公爵様がいらっしゃいました!」
門の側に立っていたフットマンからの声に、スルグは足を止め、一つ咳払いをする。フットマンが扉を開けるのを、静かに待つ。
ゆっくりと、扉が開いた。
「ようこそ。遠い所からお出でくださいました、魔導公爵様」
スルグの挨拶を受けながら、純白のコートの裾をはためかせ魔導公爵がエントランスに入ってくる。使用人共々、レティシアも深くお辞儀をした。
「構わん。楽にしろ」
セシリアスタの声に、使用人共々ゆっくりと顔を上げる。意外なことに、従者は三人しか連れていなかった。パーティーの時は遠目にしか見えなかったが、白銀の髪にアイスブルーの瞳、端正のとれた容姿は美しいの一言でしか表せない。ふと、視線があった気がしたのは気のせいだろうか――。
「魔導公爵さまっ」
スルグの横に、スフィアが立った。深々とカーテンシーをし、セシリアスタを出迎える。
「この度は私を選んでくださり、光栄ですわ」
微笑みながら言葉を掛けるスフィアを、じっと見つめた。スフィアの頬が赤く染まっていく。
「勘違いをしているようだから言っておくが、お前なんぞ選んでいない」
だが、発せられたその一言に、スフィアの表情と体が固まった。スッとスフィアの横を通り抜け、此方に向かってまっすぐ歩いてくる。何故? レティシアの疑問に、誰も答えてはくれる人はいない。
「ま、魔導公爵様っ」
スルグの声を背に聞きながら、セシリアスタは歩みを止めない。動揺するスルグとユノアなぞ構うことなく、セシリアスタはレティシアの前で止まった。急に目の前に来た青年に、レティシアは体が強張る。
「君を迎えに来た。レティシア嬢」
そう言いながら、セシリアスタは微笑んだ。
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