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TS聖女の悩みごと 3
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順調に村々を巡回し、残り一つの村となったある日、珍しくも私達は野盗に襲われてしまった。
これまでにも何度か襲われることはあったが、今回のように大人数での襲撃はなかった。
咄嗟に、私は【障壁】を張る。これで私の方は安全だ。何度か剣で切りかかられたりもしたが、効果がないとわかった瞬間には背後からグレイヴが相手に切りかかる。何時もならばここで【治癒】を施すのだが、数が多く彼に治療をする間もなかった。
次第にどんどんと増えていく傷。場所によっては重症とも思える箇所に剣が突き刺さる。声を上げながら野盗達に切りかかる彼を、無事でいてと願いながら見つめた。
幸いにも、私はグレイヴのお陰で無傷だった。彼の活躍もあって、賊は追い払うことに成功したが、その代わりに彼は相当な傷を負ってしまう。
剣を地面に突き刺しそれに体を預ける彼の元に急いで駆け寄る。急いで【治癒】を施す。【治癒】は本来、外傷や病を癒す為に用いられる。だが、今のグレイヴは内臓にも損傷があった。出血も多く、このままでは死神にご対面することになるだろう。
「横になって」
地べたに座り込み、脂汗を滲ませ浅い呼吸を繰り返す彼を横に寝かせ膝枕をする。鉄の胸当てを急いで外し呼吸を少しでも楽にさせると、胸に手を当て再び【治癒】を行った。グレイヴの体が柔らかな光に包まれ少しだけ表情が和らいだが、内臓への傷は相当なものだった。
青白い顔の彼を見て、覚悟を決める。
「文句は言わないでくださいね」
念を押し、そっと目を閉じ顔を寄せていく。血色が悪い白っぽくなった彼の唇に口づけをし、そのまま【治癒】をする。魔力は体液に流れる。それを応用し、彼に唾液と共に【治癒】の魔力を流し込んだのだ。
喉が上下に動くのを振動で感じながら、更に唾液を彼の口内に流し込んでいく。
すると急に、動くようになったらしい手で後頭部を押さえこまれ、舌が咥内へと押し入ってきた。
「ん!? んんっ、ん、う……っ」
予期しない行為に、目を見開く。咥内を蹂躙され、舌を絡ませられる。
息苦しさに唇を離そうにも頭を押さえ込まれ、息継ぎも出来ない。酸欠からか目に涙が浮かぶ。【治癒】を施していた際に彼の胸に乗せていた手で力なく胸を叩くと、漸く解放してくれた。
「ぷは……っ、はぁ、はぁ……」
顔は羞恥と酸欠とが混ざり、真っ赤に染まっている。瞳は潤み、荒い呼吸を繰り返す。咄嗟にぽってりとした唇を隠し、顔を見ないようにし彼の傷の具合を確認しようと視線を逸らす。
するとズボンの一部が膨らんでおり、更に頬を赤く染め上げた。
「この……変態!」
自身の渾身の力で思い切り頬を叩き、膝に乗せていた頭を押し飛ばす。
「いや待てって! これはその、生理現象でな!?」
「寄るなロリコン!」
見た限り、彼の傷は完治したようだった。ホッとしつつも、頬を膨らませズカズカと次の村へと向かって行く。
「おい、待てって!」
背後から聞こえるグレイヴの声を聞きながら、ロランは足早に村を目指した。
見た限り、それなりに大きそうだったな……。などと想像してしまい、大きく頭を振った。
最後の村に到着すると、聖女を待っている人でごった返していた。まずはグレイヴの格好をどうにかすべく、浴室を借りることにする。その間に、ロランは重症な人から順番に並んでもらい、【治癒】を施していった。暫くすると湯あみを済ませたグレイヴが背後に陣取り、無茶をしないか見張っている。
だが、出来ることならば今日中に大半の人の治療を終えておきたい。出来る限り表情には出さず、治療を続けて行った。
「村長さん、続きは明日でもいいですか?」
思いがけないグレイヴの言葉に、村長は「え?」と驚嘆した。それには私も驚きを表し、目を瞬かせる。
「こいつ、村に来る前に大きな【治癒】をしてるんすよ。顔色も悪くなってきてるし、明日に伸ばせないですかね」
「私はまだ出来ますっ」
彼の言葉に反論する。だが、彼は呆れ顔で溜息した。
「馬鹿言うな。顔色悪いんだよ、お前」
指摘されると、村長までグレイヴの意見に賛同した。
「村長さんまで……」
「幸い、残りは怪我の軽い者達です。明日また、お願いします」
そう言われてしまうと、何も言えない。やむを得ず、今日の治療を終えた。
「私はまだ出来ました」
不満を露わにするロランに、グレイヴは嘆息する。
「お前なぁ……。自分の限界を見誤るなよ」
「見誤ってないです。まだ無茶は出来ました」
食い下がろうとしないロランに彼は再び息衝くと、腕を引き自身の腕の中に閉じ込めた。
「もう! そうやってはぐらかす!」
腕の中から抜け出そうと暴れる。抵抗を抑えるべく、グレイヴは腕に力を籠めた。
「はぐらかしちゃいないって。……あのな、何の為に護衛がいると思う」
突拍子もない言葉に、小首をかしげる。
「それは……言葉の通り護衛でしょう?」
「そう。聖女を守るためだ。それは無茶な治療をしている聖女を止めるのも含まれてる」
言われて、目を丸くする。
「今じゃこの地方の聖女はお前一人だ。そんなお前に何かあったら、困るのは皆だ」
そうだった。簡単なことなのに忘れていた。
申し訳なさに、彼から視線を逸らす。すると、ゆっくりと頭を撫でられ「今日はもうゆっくり休め」と囁かれた。
撫でられる心地よさに、ロランはゆっくりと目を閉じた。
これまでにも何度か襲われることはあったが、今回のように大人数での襲撃はなかった。
咄嗟に、私は【障壁】を張る。これで私の方は安全だ。何度か剣で切りかかられたりもしたが、効果がないとわかった瞬間には背後からグレイヴが相手に切りかかる。何時もならばここで【治癒】を施すのだが、数が多く彼に治療をする間もなかった。
次第にどんどんと増えていく傷。場所によっては重症とも思える箇所に剣が突き刺さる。声を上げながら野盗達に切りかかる彼を、無事でいてと願いながら見つめた。
幸いにも、私はグレイヴのお陰で無傷だった。彼の活躍もあって、賊は追い払うことに成功したが、その代わりに彼は相当な傷を負ってしまう。
剣を地面に突き刺しそれに体を預ける彼の元に急いで駆け寄る。急いで【治癒】を施す。【治癒】は本来、外傷や病を癒す為に用いられる。だが、今のグレイヴは内臓にも損傷があった。出血も多く、このままでは死神にご対面することになるだろう。
「横になって」
地べたに座り込み、脂汗を滲ませ浅い呼吸を繰り返す彼を横に寝かせ膝枕をする。鉄の胸当てを急いで外し呼吸を少しでも楽にさせると、胸に手を当て再び【治癒】を行った。グレイヴの体が柔らかな光に包まれ少しだけ表情が和らいだが、内臓への傷は相当なものだった。
青白い顔の彼を見て、覚悟を決める。
「文句は言わないでくださいね」
念を押し、そっと目を閉じ顔を寄せていく。血色が悪い白っぽくなった彼の唇に口づけをし、そのまま【治癒】をする。魔力は体液に流れる。それを応用し、彼に唾液と共に【治癒】の魔力を流し込んだのだ。
喉が上下に動くのを振動で感じながら、更に唾液を彼の口内に流し込んでいく。
すると急に、動くようになったらしい手で後頭部を押さえこまれ、舌が咥内へと押し入ってきた。
「ん!? んんっ、ん、う……っ」
予期しない行為に、目を見開く。咥内を蹂躙され、舌を絡ませられる。
息苦しさに唇を離そうにも頭を押さえ込まれ、息継ぎも出来ない。酸欠からか目に涙が浮かぶ。【治癒】を施していた際に彼の胸に乗せていた手で力なく胸を叩くと、漸く解放してくれた。
「ぷは……っ、はぁ、はぁ……」
顔は羞恥と酸欠とが混ざり、真っ赤に染まっている。瞳は潤み、荒い呼吸を繰り返す。咄嗟にぽってりとした唇を隠し、顔を見ないようにし彼の傷の具合を確認しようと視線を逸らす。
するとズボンの一部が膨らんでおり、更に頬を赤く染め上げた。
「この……変態!」
自身の渾身の力で思い切り頬を叩き、膝に乗せていた頭を押し飛ばす。
「いや待てって! これはその、生理現象でな!?」
「寄るなロリコン!」
見た限り、彼の傷は完治したようだった。ホッとしつつも、頬を膨らませズカズカと次の村へと向かって行く。
「おい、待てって!」
背後から聞こえるグレイヴの声を聞きながら、ロランは足早に村を目指した。
見た限り、それなりに大きそうだったな……。などと想像してしまい、大きく頭を振った。
最後の村に到着すると、聖女を待っている人でごった返していた。まずはグレイヴの格好をどうにかすべく、浴室を借りることにする。その間に、ロランは重症な人から順番に並んでもらい、【治癒】を施していった。暫くすると湯あみを済ませたグレイヴが背後に陣取り、無茶をしないか見張っている。
だが、出来ることならば今日中に大半の人の治療を終えておきたい。出来る限り表情には出さず、治療を続けて行った。
「村長さん、続きは明日でもいいですか?」
思いがけないグレイヴの言葉に、村長は「え?」と驚嘆した。それには私も驚きを表し、目を瞬かせる。
「こいつ、村に来る前に大きな【治癒】をしてるんすよ。顔色も悪くなってきてるし、明日に伸ばせないですかね」
「私はまだ出来ますっ」
彼の言葉に反論する。だが、彼は呆れ顔で溜息した。
「馬鹿言うな。顔色悪いんだよ、お前」
指摘されると、村長までグレイヴの意見に賛同した。
「村長さんまで……」
「幸い、残りは怪我の軽い者達です。明日また、お願いします」
そう言われてしまうと、何も言えない。やむを得ず、今日の治療を終えた。
「私はまだ出来ました」
不満を露わにするロランに、グレイヴは嘆息する。
「お前なぁ……。自分の限界を見誤るなよ」
「見誤ってないです。まだ無茶は出来ました」
食い下がろうとしないロランに彼は再び息衝くと、腕を引き自身の腕の中に閉じ込めた。
「もう! そうやってはぐらかす!」
腕の中から抜け出そうと暴れる。抵抗を抑えるべく、グレイヴは腕に力を籠めた。
「はぐらかしちゃいないって。……あのな、何の為に護衛がいると思う」
突拍子もない言葉に、小首をかしげる。
「それは……言葉の通り護衛でしょう?」
「そう。聖女を守るためだ。それは無茶な治療をしている聖女を止めるのも含まれてる」
言われて、目を丸くする。
「今じゃこの地方の聖女はお前一人だ。そんなお前に何かあったら、困るのは皆だ」
そうだった。簡単なことなのに忘れていた。
申し訳なさに、彼から視線を逸らす。すると、ゆっくりと頭を撫でられ「今日はもうゆっくり休め」と囁かれた。
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