上 下
24 / 30

23

しおりを挟む
 最初は一言、二言だけだったスレイとの会話も、何時しか世間話をするようくらいなっていた。
 スレイとの会話は楽しく、特にリューイの知らない土地の話は興味を引くものばかりだった。次第に会話を重ねるうちに、二人の仲は親密になっていった。

 彼の露店には数々の果物のドライフルーツが陳列され、スレイとの仲が親密になるにつれ、定期的に買い出しに行くようになっていた。中でもインジルはルヴァインもお気に召したようで、リューイは買い出しに行くと必ずインジルを買い求めに彼の店に立ち寄るようになった。




 スレイの露店に行くようになってから二週間が経ったある日のこと。
 何時ものように女性客で賑わう店に出向き、インジルを買い求めた。
「スレイ、インジル頼むわ」
「はいはい」
 何時も通りの注文に、スレイは微笑みながら陳列されたインジルを手に取っていった。人数分のインジルが詰められた袋を手渡され、リューイはそれを受け取ろうと手を伸ばす。その際、スレイに手を握られた。

「リューイ、大事な話があるんだ……」
「スレイ?」
 ぎゅっと手を握られ、真っすぐ見つめられる。今まで見たことないスレイの真剣な瞳に、リューイは首を傾げた。
「ごめんなさい。少し店を空けますね」
 そう言いつつ、スレイは他の客に声を掛けながら店を一時閉め、リューイの手を引き路地裏に向かって歩きだした。
「ちょ、スレイ!?」
 スレイに手を引かれるまま、リューイは路地裏に連れて行かれた。




「おい、スレイ! 何処まで行くんだよっ」
 手を引かれながら、リューイは声を上げる。漸く歩みを止めたスレイの背中を見ながら、リューイは周りを見渡す。
 結構奥まで来てしまったな……。
 この街は路地裏が迷路のように入り組んでいる。奥に行けば行くほど道が細分化され、見ず知らずの人間が入り込んでしまえば確実に迷うくらいだ。

 そんな所まできて、スレイは何をしたいというんだ?
 リューイは考えるが、答えは浮かんでこなかった。


「……」
「スレイ?」
 無言で背を向けたままのスレイに、リューイは声を掛ける。ゆっくりと振り返った彼は、漸く手を離してくれた。
「ごめん。急に連れ出して」
「いや……」
 急に謝られて、虚を突かれる。
 本当に彼は何がしたいのだろうか?
 そう思っていると、スレイは深呼吸し、リューイの瞳を見つめてきた。
「……好きなんだ、君のことが。僕と付き合って欲しい」
 その言葉に、目を見開く。
 まさか、彼からそんなことを言われるとは思わなかった。何時から、そんなことを思っていたのだろうか……。だが……。

「……悪い、それは出来ない」
 リューイは申し訳なさに俯きながら、彼の告白を断った。
「……理由を聞いても?」
 微かに震える声に、「大事な奴がいる」と答える。すると、彼は「そこまで大切な人なのかい?」と訊ねてきた。
「悪い……でも、アイツ以外は嫌なんだ」
 そう、顔を上げはっきりと告げる。瞬間、スレイに腕を強く掴まれ引き寄せられた。先祖返りとはいえ、獣人の力には敵わない。抱き寄せられそうになったリューイは、引き寄せられる力を利用し彼の腹に拳を繰り出した。
「グッ」
 咄嗟に離された腕を胸元に当て、リューイは蹲った彼が落とした袋を手に取る。痛みに蹲るスレイを見下ろしながら、リューイは言葉を発した。
「俺は、アイツ以外は要らない。アイツがいいんだ」
 そう発すると、スレイは顔を上げリューイを見つめた。悲しい表情だった。
 それでも、俺の意思は変わらない。ルヴァイン以外は嫌なんだ。

「……そっか」
 目を閉じ、スレイは息を吐く。深呼吸をし、ゆっくりと立ち上がった。その際、リューイは一歩後ろに下がる。
「ごめん。自分勝手で軽率な行動だった」
 そう謝る彼は、小さく微笑んだ。
「この気持には蓋をする。もう、開けないよ。ただ、友人としてはいさせて欲しい」
 そう話す彼は、頭を下げてきた。リューイは悩み、考える。
「……二人きりになるとか、そういったのも無しだからな」
「誓うよ」
 顔を上げたスレイは、もう何時もと変らない営業スマイルを浮べていた。
 そんな彼に、リューイは小さく微笑み、背を向けた。

 何時も以上に買い物に時間をかけてしまった。きっと皆、心配している。
 そう思いながら、路地裏を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼に成る者

なぁ恋
BL
赤鬼と青鬼、 二人は生まれ落ちたその時からずっと共に居た。 青鬼は無念のうちに死ぬ。 赤鬼に残酷な願いを遺し、来世で再び出逢う約束をして、 数千年、赤鬼は青鬼を待ち続け、再会を果たす。 そこから始まる二人を取り巻く優しくも残酷な鬼退治の物語―――― 基本がBLです。 はじめは精神的なあれやこれです。 鬼退治故の残酷な描写があります。 Eエブリスタにて、2008/11/10から始まり2015/3/11完結した作品です。 加筆したり、直したりしながらの投稿になります。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

俺は好きな乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい

綾里 ハスミ
BL
騎士のジオ = マイズナー(主人公)は、前世の記憶を思い出す。自分は、どうやら大好きな乙女ゲーム『白百合の騎士』の世界に転生してしまったらしい。そして思い出したと同時に、衝動的に最推しのルーク団長に告白してしまい……!?  ルーク団長の事が大好きな主人公と、戦争から帰って来て心に傷を抱えた年上の男の恋愛です。

甘えた狼

桜子あんこ
BL
オメガバースの世界です。 身長が大きく体格も良いオメガの大神千紘(おおがみ ちひろ)は、いつもひとりぼっち。みんなからは、怖いと恐れられてます。 その彼には裏の顔があり、、 なんと彼は、とても甘えん坊の寂しがり屋。 いつか彼も誰かに愛されることを望んでいます。 そんな日常からある日生徒会に目をつけられます。その彼は、アルファで優等生の大里誠(おおさと まこと)という男です。 またその彼にも裏の顔があり、、 この物語は運命と出会い愛を育むお話です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...