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はじまりは、あの日

32.心配

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『続いての話題はT市の問題で…』

「また、この問題…。みんなもう聞き飽きたから別のニュースやればいいのに。」

「そうだね。」

車のカーオーディオから、連日ニュースでやっている内容が聞こえてきて助手席に座るマカナちゃんが辟易した様子で言うのも無理がない。

川奈さんと水族館デートをした日から2週間、どのテレビ番組もこのニュースを取り扱っている。
問題が発覚してすぐ、川奈さんが謝罪会見を行なったが沈静化する気配がなく今に至る。
川奈さんからは落ち着いたら連絡すると言われたきり、音沙汰はない。こんな時、無理やり会いに行っても川奈さんの手を煩わせそうで、何もできない自分の不甲斐なさが憎い。

「こんなにニュースになって、スパダリ市長が辞めたりしたらやだな。」

マカナちゃんがシュンとしながら言う。

「スパダリ市長?」

「スーパーダーリンの略!前にうちの高校に講演に来た時に、リアル スーパーダーリンって女子の間で話題になってた。」

確かに川奈さんはスーパーダーリンだよな。デートのエスコートとかうまいし。

「スパダリ市長もマカナちゃんみたいに思ってくれる人がいるなら、まだ頑張ろうって思うんじゃないかな。」

「そうだといいなぁ。私みたいなのも個性って公の場で断言できるのは市長はスパダリ市長くらいだもん。」

マカナちゃんは自分の長い黒髪を摘む。その指先は綺麗なネイルが施され、顔もバッチリ化粧されている。服装も今風の女の子らしいものだ。その容姿から発せられる声が低いことと喉仏があることに違和感を抱くくらい今どきの女子高生にしか見えない。

「確かに、川奈さん以外の市長が言ってるの聞いたことないかも。そういえば、支店長がうちの娘がますます可愛くなって悪い虫がついたらどうしよう。って心配してたよ。」

「何それウケる。叔父さん何の心配してるのさ。寄ってくる訳ないじゃん。」

「いやいや、支店長の心配はよくわかるよ。会う度、マカナちゃん可愛くなっていくもん。」

「田浦くん、いつの間にそんな褒め上手になったの?叔父さんの誕生日プレゼント選ぶの付き合ってもらうし何か奢ろうか?」

「いや、流石にマカナちゃんにご馳走になれないよ。俺も支店長にはいつもお世話になってるし。」

「そっかぁ。そういえば田浦くん彼女できた?」

「え?何で?」

「なんか女の扱いがうまくなってる。」

女の第六感というやつなのだろうか。物凄く鋭い。女の扱いが上手くなったかは分からないが、対川奈さんスキルは徐々に上がってると自分でも思う。

「マカナちゃん、着いたよ。」

タイミングよくT市のショッピングモールに着く。駐車場をグルグルと回るが土日で混んでいて道路に面した場所しか空いていなかったので、そこに停める、

「ごめん。モールまで少し歩く場所になっちゃった。」

「全然大丈夫。行こ行こ!」

車から降りたマカナちゃんが俺の手を引いて歩く。

今日、川奈さんに会いに行こう。話を聞くことしかできないけど、川奈さんを応援している人がいることを伝えたい。そう心に決めた。




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