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はじまりは、あの日

12.ずるい俺が望むこと side.K

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「俺、結婚するかも」

数年前、5年付き合った恋人から他の女と結婚すると突如告げられた。

嫌だと言って縋ることも、おめでとうと笑顔で言うこともできず、

「分かった」
の一言で俺達の関係は終わった。

その時のことを今でも鮮明に思い出せるのは、俺の初めての失恋だったから。

毎夜、どうすれば良かったのかと答えの出ない自問自答を繰り返し、戻らないことを理解しても感情がそれに追いつかず、嘆き、瞼を泣き腫らした。

嗚咽で喉が枯れた朝を迎えたのは何度あっただろう。時の流れが気持ちの昂りを落ち着かせてくれても、心に刺さったままの棘は消えなかった。

だから、恋愛なんてしないと心に決めた。…そう決めたはずだったんだ。


あの日も、いつもの様に彼との情事を思い出し自分を慰めていた。
別れてから数年も経つのに、彼への未練を断ち切れず不毛なことだと分かっていても、体は与える快感に従順に反応する。

熱に浮かされ扉が開いた事にも気づかず、体が高みに昇りつめる時、君と目があった。
見られていることに高揚感を覚え果てた。

体の昂りが収まり冷静になった頃、その事が恥ずかしく思い心がささくれ立った。
なぜか君が赤面していて、それが心のささくれにひっかかり、反応している君の体に触れた。

触れなければ良かったんだ。

抵抗できず、されるがままの君があの時はただ可愛いと思った。
久々に感じた人の肌の温もりな魔が刺したのかもしれない、君に近づき、反応を楽しんで、それで終わりだと思ってた。


でも、君から触れられ、いつもと違う君の男の顔を見た時、数年前に蓋をして閉じ込めてた感情が揺り動かされた。

心が嬉しいと叫び体は気持ちのままに反応した。気持ちは自覚したが心に刺さった棘が疼き、まだ癒えていない傷跡の痛みが俺を臆病にする。

感情に振り回され、また傷つくのはごめんだ。
一目惚れした君が俺を知る度に、その思いが冷めるかもしれない。
欲情と愛情を混同した一時の気の迷いだったと思うかもしれない。

君が冷静になった時、彼の様に離れていくくらいなら初めからないほうがマシだと思い君の気持ちを最低な言い方で突っぱねた。

それでも追いかけてきてくれる君に、想いは募る。
だけど、失恋の痛みを思うと一歩が踏み出せない。
気持ちに従って、その胸に飛び込めたら、どんなに幸せだろう。

願わくば、余計なことを何も考えられないくらい君に抱き潰されてしまいたい。

そうしたら、君が好きだと素直に言えるはずだから。
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