上 下
32 / 32

31.あなたじゃなきゃ

しおりを挟む
「ツィーリィは僕の妃だから、男爵家に戻るには離縁しなきゃいけないでしょ?でも僕は離縁する気はないよ」

「それは…」

殿下の言葉を都合よく受け取ってしまいそうになり、改めて聞き直す。

「僕の側にずっと居て欲しい。シアー卿から解放されても、

直接的な言葉は一切ないけど、離さないと言われ胸が高鳴る。

「私はあなたを手にかけようとしたのに、側にいて居てもいいのですか?」

「あれはツィーリィの意思じゃないでしょ。でも、確かにあの時、泣きそうな顔で僕を慰めてくれた君だから側に居て欲しいと思ったんだ」

暗殺を失敗した直後、私は殿下から折檻を受けた。その時、私を責めている殿下の方が辛く泣きそうな顔をしていたから、思わず慰めたんだ。そしたらその後すぐに、殿下の態度が急変して戸惑ったのを思い出した。
あの時は二人揃って泣きそうな顔をしていたらしい。

「他の誰かじゃダメなんだ。ツィーリィ、君がいい。ツィーリィは僕じゃイヤ?」

殿下は私の手をギュッと握り、真っ直ぐ見つめる。その顔は真剣そのもので、殿下の言葉に嘘がないのが分かった。

「私も…殿下がいいです。殿下じゃなきゃ、嫌」

全てを言い終わる前に殿下に体を引き寄せられ、殿下の腕に包み込まれた。

「ツィーリィ……。愛してる」

殿下はそう言うと、私の頬に手を添える。
殿下に真っ直ぐ見つめられ、くすぐったい照れた気持ちになり、目をつぶる。

すると、唇に何か柔らかなものが触れた。殿下は私の頬を指で撫で、唇を重ね合わせる。

「ツィーリィ……」

殿下に名前を呼ばれ、目を開くと殿下の整った顔が間近に見え心臓が、忙しなく脈打つ。初めてのキスのドキドキも相まって、殿下の顔を見ることができず、ギュッと目を瞑った。

「顔が真っ赤になってる。可愛い」

殿下は私の頬を撫でてから、前髪を掻き分ける。そしてあらわになった額に軽くキスをしてから、再び唇を重ねた。でも、さっきまでの軽いキスではなく、食べられてしまいそうな程、深いキスだった。

「ん……」

唇の柔らかさを確かめるように喰むようにキスをされる。しばらくその状態が続き息苦しさから少し唇を開いた。するとその隙を見逃さず、殿下は舌を割り込ませてきた。

「んん……!」

思わず殿下の胸にしがみついた。そして深い口づけに溺れる。でも全然嫌じゃなくて、むしろ気持ちいいくらいで……私はいつしか夢中になっていた。
どれぐらい口づけを交わしていたのか分からないけど、気づくとソファに押し倒されていた。

「ツィーリィ……」

熱っぽく私を見つめる殿下の瞳にドキッと心臓が跳ねる。

「殿下…」

「殿下じゃなくて名前で呼んで」

殿下が私の額に自分の額を合わせ、甘えた声音で言う。

「ラヴェル…様」

「ふふっ。様もいらない。もう一回呼んで」

殿下の温もり、声、香りに、心は反応し鼓動は高鳴る。

「ラヴェル…」

「あぁっ、可愛いなぁっ!もうっ」

照れくさくて、か細い声になったが、しっかり殿下には聞こえたみたいで、彼は私をギュッと抱きしめた。そして

「ツィーリィ、君に触れてもいい?」

耳元で囁くように問いかけた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

殿下!婚姻を無かった事にして下さい

ねむ太朗
恋愛
ミレリアが第一王子クロヴィスと結婚をして半年が経った。 最後に会ったのは二月前。今だに白い結婚のまま。 とうとうミレリアは婚姻の無効が成立するように奮闘することにした。 しかし、婚姻の無効が成立してから真実が明らかになり、ミレリアは後悔するのだった。

20回も暗殺されかけた伯爵令嬢は自ら婚約破棄を突きつけて自由を手に入れます

長尾 隆生
恋愛
国を守る役目を担ったフォレスト辺境伯の長女アンネ=フォレスト。 彼女は第一王子イグニスとの婚約が決まって以来、何度も暗殺されそうになる。 その黒幕が王子を始め王族だと知ったアンネは、王族が揃う謁見の間でイグニス王子に婚約破棄をたたきつけ辺境領へ戻ることにした。 アンネの行いに激高した王族と、メンツを潰され恥をかかされた王国最強の剣士である近衛騎士団長ガラハッドは軍を上げてアンネを追いフォレスト辺境伯に攻め込んだのだったが、そこには長年国を外敵から守ってきた最強の辺境軍と令嬢が待ち構えていて……。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

処理中です...