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7.違和感

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初めて訪れた王宮の応接間は、側妃の私室以上に豪奢ごうしゃなつくりをしていた。
殿下にエスコートされ1歩1歩進むたび、既に席についている貴族達から値踏みする様な視線を感じる。
こういった類の視線は、やはり慣れない。

「どうぞ。」殿下が私の席の椅子を引いたので、
「ありがとうございます。」と言い席に座ると首元でネックレスがジャカリと鳴る。

使用人が用意してくれたネックレスはやけに大きくて重量感がある。
ドレスもネックレスが目立つ様にシンプルなものでなく、何故かフリルが沢山ついたデザインのものだ。
晩餐会に行く準備をする時に、使用人が含み笑いをしていたから、多分嫌がらせだろう。髪型と化粧はまともにしてくれているのが、唯一の救いだ。

「これは、これは、側妃殿、お隣の席なんて光栄です。」と真ん丸のお腹に、頭頂部がだいぶ寂しくなっている中年の男性が話しかけてくる。

やばい、名前が分からない、
どうしようと思案していると、主賓席に座っている殿下が

「クトゥル伯爵、体調を崩していたと聞いていたが、大丈夫か?」と助け船を出してくれる。
声をかけられた伯爵は立ち上がり

「殿下のお心遣いたいへん身に染みます。足の親指が腫れ激痛で悶え苦しみましたが、今はこの通りでございます。ミズリー侯爵の悲願である、殿下の立太子を見届けるまでは倒れる訳にはいきませんからな。」と力強く語る。
伯爵が椅子に座ると、高価な椅子が苦しそうにキュイキュイ鳴る。

「息災で何よりだ。じい、私の妻に分かる様に皆の紹介を頼む。」主賓席のすぐ側に座る侯爵にそう声をかける。

「では、まず私から。側妃殿、本日は私主催の晩餐会にお越しいただきありがとうございます。先程お話しにもありました通り、ここに集まっているのは、私をはじめ殿下の立太子を願っている者たちです。以後、お見知りおきを。」と向かいに座るミズリー侯爵が目元が笑っていない笑顔で言い腰掛ける。

そして、侯爵の横に座る女性に目配せをすると、次は彼女が立ち上がり
「お初目にかかります。ミズリー侯爵家のリズリアにございます。殿下とは、婚約者の間柄になります。どうぞよろしくお願いします。」スカートの端を持ち上げ淑女の礼をする。
ミズリー侯爵によく似た顔立ちをした彼女の、切れ長の目は鋭く私を見据える。多分、彼女からすると私は邪魔者でしかないのだろう。
彼女の視線を気にしない様にして、それから次々と挨拶する貴族達の名前と顔を覚えることに集中した。


「いやぁ、それにしても側妃殿は、噂に聞いていた人物とは思えませんな。」ウェルナー子爵と名乗っていた、度の強いメガネをかけている人物が、そう言う。

すると席についていた他の貴族達も
「確かに、成り上がったとは思えない程、素朴な方だ」や
「傾国の美女がくるやもしれないと冷や冷やしたが、側妃殿であれば安心だ」などと間接的に謗られる。

まぁ、美人ではないし、地味なのは事実だし変に反発して軋轢を生みたくないので「
そうですか。」と笑顔で流す。
それにしても、いくら敵対派閥から来たとはいえ、仮にも殿下の側妃を貶すなんて、殿下に無礼を平然と働いていることに違和感を覚える。

「所詮は噂だ。私の妻が誠実な人間ということは君たちも今後分かるだろう。なあ、じい。」と殿下が割って話題を遮る。
ミズリー侯爵が渋々といった様子で

「そうであることをねがっております。」と言う。
するとウェルナー子爵をはじめ貴族が口々に、
「流石、侯爵殿の教えを享受された殿下は聡明であらせられる。」

「侯爵殿譲りの審美眼で噂には惑わされず人の本質をしっかり見定めていらっしゃる。」
と褒め言葉を述べていく。

どの言葉も殿下を褒めている様で、全てミズリー侯爵を褒めているものだと気づいたとき、さっきから感じた違和感の正体に気付いた。

ここにいる貴族達が殿下の立太子を望むのは、殿下に忠誠を誓っているからではなく、ミズリー侯爵がそれを願っているから。
だから殿下は、貴族に指示するときは必ず侯爵を通していたのだと、殿下と侯爵の歪な力関係を理解した。
そして、殿下はずっと味方がいない中戦っていたんだと思うと、心が軋んだ。

殿下の方へ視線を向けると、優しく微笑まれ罪悪感募った。
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