上 下
5 / 32

4.王家の特別な力

しおりを挟む

「殿下、頼もしいお言葉ありがとうございます。義兄としても安心いたしました。」とイザベラ義兄様が、見つめ合っていた私達の空気に割って入ってくる。

それで、夢の様な雰囲気から醒める。
圧を感じ視線を殿下の背後に移すと、ミズリー侯爵が、いい気になるなよ。とでも言いたげに睨みつけてきた。

「人の恋路を邪魔する奴は、馬にけられるらしいから、帰りに馬車馬に蹴られない様に気をつけるんだよ。」

殿下は、雰囲気を壊されたことが面白くなかったみたいで、義兄様にチクリと嫌味を言う。

「ご心配ありがとうございます。これから、夫婦としての時間は沢山あると思うので、存分に愛を睦みあってください。それよりも殿下、毒を飲まれてお身体は大丈夫なんですか?」

義兄様がサラリと爆弾発言をしてから、殿下の体調を気遣う。

確かに、毒を飲んで顔をしかめていただけだったけど、体調は大丈夫だろうかと、伺う様に殿下に視線を戻す。

「あぁ、毒程度なら問題はない。我々、王族は光の魔法の加護で、無毒化できる。シアー卿は知っていると思っていたが。」と殿下は何事もない様に話す。

「王族の方々には毒が効かないという噂は聞いたことがありましたが、まさか本当だとは思いませんでした。」義兄様が冷静にそう言う。

「まぁ、毒が効かないなんて俄かには信じられないのも無理はないさ。」殿下は朗らかに笑う。

田舎出身の私は、王族が持つとされている力は御伽話の中だけだと思っていたが、その力は実在したのだと知った。

* * *

この国に住む者ならば、誰もが知っている御伽話、シュテルンと王子様。

民が戦争に振り回された時代。
長い長い戦いに人々は傷つき、どの国も疲弊していった。

そんな中、とある小国の姫君、シュテルンは不思議な力を持っていた。
それは、人々を癒す力。他人の怪我や病気を治す事ができる特別なもの。

後に光の魔法と呼ばれる、その力を我が物にしようと他の国々から幾度となく侵略を受けていた。
そして、とうとう国が陥落の危機に陥ったときに隣の大国の王子が援軍を引き連れやってきた。
しかし相手の兵力の方が上回っており、厳しい戦いを強いられた。
シュテルンは王子達のため惜しみなく力を使い、王子や援軍は思いに答える様に一丸となり力を発揮した。
そして無事侵略を跳ね除けることができた。

共に戦い、恋に落ちたシュテルンと王子は無事に結ばれ、二人の間には、王子と同じ赤い瞳に金髪の髪、それにシュテルンの力を継いだ子供に恵まれた。
その後、王子家族は、幸せに暮らし、国も繁栄していったとさ。めでたし、めでたし。

この王子とシュテルンの子の末裔が、我が国の王族。光の魔法を持つ特別な血筋だからこそ、王族は尊いのだと、この国の民は信じている。

* * *
「王家の力については、この辺で。ツィーリィ、今日は疲れただろう?部屋まで案内するよ。」

殿下が握った私の手を引こうとした時

「殿下、そろそろ執務のお時間になりますので、ご案内は使用人に任せては?」とミズリー侯爵が殿下に声をかける。

「いや、彼女は私の大切な妻だ。部屋まで私が送り届けたい。あと、じい、執務が終わったら側妃付きの使用人達を集めてくれ。彼らには、教育が必要なようだ。」

殿下は周囲を見渡しながら言うと、お仕着せを着た女性たちはバツが悪そうな顔をしていた。

「…分かりました。」ミズリー侯爵は、渋々といった様子で返事をした。

「じゃあ、行こうか。」と殿下は私の顔を見る。その瞳は、優しく私を見つめていた。
しおりを挟む

処理中です...