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第二十三話

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「お話というのは?」

「リドール帝国の第一王子がヴィルム殿下を側室にご所望されていると陛下から話があった。リドール帝国との婚姻は小国であるエステートを守ることに繋がると私と陛下は考えている。言いたいことは分かるな?」

すでに来客用の一人がけソファに座る父とローテーブルを挟んだ反対側のソファに腰掛け話を促す。予想通りの話をされる。この縁談の話が持ち上がった時から父がこの決断をすることはなんとなく予測はしていた。

「ヴィルム殿下のことは諦めて身をひけと?殿下の発情期が終わる度に、まだ番になっていないのか。と催促していたのは父上の方だったのに、見事な掌返しですね」

「この状況ならば当然だろう。それに催促したのは、発情期の殿下と同衾どうきんしているにも関わらず、一向に番にならないばかりか、お前の匂いが付いていることが殿下の耳に入らない様にお前が他の貴族に根回しなんて回りくどい事をしていたからだ。ただ逆にお前が殿下を番にしていたら、殿下かリドール帝国の王子に見初められることはなかっただろうから、よくやったなアーシュレイ。」

父の言葉に苛つき、心のうちで舌打ちをする。
発情期のヴィルを愛でた多幸感を毎度、番になる様に催促してぶち壊してきた癖に。それに王子と謁見した時はヴィルの発情期が終わってすぐだと知っていて、王子がヴィルを見初めたと本気で思っているのだろうか。そうだとしたら大分浅慮ではないか。

「ヴィルム殿下の気持ちを無視して番になるなんて私の本意ではなかっただけです。
それに申し上げにくいのですが、シャロル王子はヴィルム殿下を見初めた訳ではないとお気づきですよね?」

「ん?何が言いたい?」

「そのままの意味です。シャロル王子は我が国の王位継承の条件がアルファと番うことと知った上で他のアルファの匂いが染みついた殿下を選ばれたのです。内部の人間関係を知らなければ大抵のアルファは殿下が立太子すると考え、それなら継承権を失うカリーノ殿下を娶る方がスムーズにいくと考えるのではないでしょうか?」

「その状況だからこそ、王子が殿下に心を奪われたと考えなければ辻褄が合わないのではないか?」

「確かに殿下は麗しく愛らしい方ですが、王子が一目惚れした訳ではありません。
殿下が有力貴族の子息の私と非常に密接な関係だと勘違いをしたのです。殿下を娶ることで、我が家もリドール帝国側に引き入れればエステートを思いのままに出来ると考えたのでしょう」

俺が知っている事実と推測したことを伝えれば、父は眉間の皺を深くする

「…それは、あくまで推測の域を出ないのではないか。」

「確かに一部は推測ですが、顔合わせをした日に王子からこれは政略結婚だと聞かされました。王子が殿下に惚れているなら、王子ひいてはリドール帝国を思うがままに出来るとお考えになられたのでしょうが、そう上手くはいかないですよ。ならば、私が殿下と番になり殿下を立太子させた方が、我が家にはよろしいのでは?」

家の繁栄は父が一番優先している事柄なのでそこをつついてやるのが最も効く。

「……。お前の言い分は最もだ。しかし、リドール帝国相手に断ることはできない」

「そうですね。なので、こちらから断るのではなく、リドール側から断ってもらえば無駄な波風はたちません」

「そんなことできるのか?」

俺の思惑通り父が食い付いてくる。

「もちろんです。なので私にお任せください。ただ父上に一つお願いがあります」

「なんだ?」

「陛下にヴィルム殿下の輿入れは反対だと、レトア侯爵がいる場で進言していただきたいのです」

「…分かった。ただ、進言する以上はお前の案が失敗なんて許されないぞ。」

「きっとうまくいきます」 

ヴィル達を軽視している陛下も、有力貴族の言葉を無視することはできない。それに権力に固執しているあの男が、巡ってきた絶好の機会に必ず飛びつくはず。

こちらの件は大方目処はついた。後は臍を曲げてるカリーノをなんとかすれば、ヴィルの憂いを全て解決できる。










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