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第二話

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「カリーノ殿下、いくら妹君でも執務室に入ってくるときはノックをしてからでないと。」

「ごめんなさい。アーシュが来ているって聞いたから気持ちがせいてしまって。」

可愛らしく小首を傾げていう。
僕と同じ金の瞳で、アーシュをうっとり見上げる。僕とカリーノは顔立ちが似ているみたいだから、少し前の僕もああ言う顔をしてアーシュを見ていたのかもしれない。

「そう言われてしまうと、叱れなくなります。そういえば、発情期ヒートはもう落ち着いたのですか?」

アーシュがカリーノの銀糸の髪を漉く様に撫でながら、こちらをチラリと伺い見る。
その視線に眉間の皺が深くなるのが自分でもわかった。

「やっと昨日落ち着いたのよ。1週間も続くから、ほんと嫌になっちゃう。
発情期の日数が短い兄様が羨ましいわ。」

体調を気遣われたカリーノは嬉しそうにアーシュを見上げた後、僕に視線を移す。

「予定通りなら、兄様の次の発情期は明後日よね?」

「そうだな」

僕とカリーノの発情期は二人ともほぼ周期通りにくる。それに王太子の座を巡るライバル関係にあるので、お互いの時期はだいたい把握している。そしてカリーノの言う通り、僕の発情期は短く、3日で終わる。

「二人の雰囲気からして、アーシュは今回も兄様の説得に失敗したのね。兄様も頑固よね。
アーシュが相手だったら、私なら喜んですぐに番になるのに。」

そう言うとカリーノはアーシュの腕を抱き、わざと胸を押し当てる。

「そう言っていただけるのは光栄ですが、レトア卿に聞かれたら大変ですよ。」

アーシュはたしなめつつ、カリーノの体を剥がす。

「いいのよ!彼は私のことなんて権力を得るための道具としか思ってないんだから。
だから、彼と番になるなんて死んでも嫌なの!この首輪さえなければ。」

カリーノは首に巻かれてるネックガードに触れる。それには南京錠がついていて鍵が無ければはずせない仕様だ。僕にも同じものがつけられている。僕のガードの鍵は、アーシュが、カリーノの方はレトア卿が持っている。
後ろ盾になる輩はだいたい似ているようだ。
カリーノのその気持ちはおおいに分かる。

「レトア卿には兄弟がいるのだから、番の候補を変えてもらえばいいんじゃないか?」

僕がそう提案すると、カリーノは兄様は分かっていない!と怒り始める。

「私はアーシュがいいの!
父様に立太子の話をされた時は、二人の仲に入る隙なんてないと思って諦めたけど、今は違うみたいだし。
アーシュさえ了承してくれるなら、兄様と私の番候補を交換して欲しいもの!」

カリーノが可愛らしい顔を真っ赤にして、すごい剣幕で言ってくる。
つまり、僕とカリーノの後ろ盾を交換を言っているのだろう。

「僕は、レトア卿が納得するなら、僕達の番候補を交換することに何も異論はない。」

自分の言葉で胸が締め付けられるが、それに気付かないふりをする。
アーシュは何も表情を変えず僕の言葉を聞いてから、カリーノに優しく微笑みかける。

「カリーノ殿下、私と殿下の関係性は昔とは違いますが、私が殿下をお慕いする気持ちは変わりません。
だから殿下以外の方と番になるなんて考えられません。」

慕う?どの口が言うんだ。
一年前、僕の想いを踏み躙ったのは他でもないアーシュ、お前じゃないか。
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