ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

あらまぁ

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「おぉい、ご飯だぞう。」
あ、殿だ。
殿が寝室の窓に立ってます。

「殿の目に光が戻ってますよ。」(こそこそ)
「大丈夫なの、かな?(こそこそ)あ、ありがとうございます。鴨と辛子蓮根ですね。」
『うちも旦那様が帰ってきたから、妹ちゃんの相談室は終わりね。駄目だったら、後でメールして。上手く行ってもメールしてねぇ。』
「はぁい。」

良かったぁ。
殿はどうやら元通りに戻って下さったみたいです。
玉にはまだ、あんな風な殿のお世話が出来る女では有りませんでした。
駄目だなぁ、玉。
まだまだ精進しないと。
お母さんにも殿のお世話を任されているのに。

「2人して庭で何してたんだ?ここは台地の端だし、夜だから風が吹いて冷えるだろ。」
「ちょっとね。女の内緒話だよん。」
「です。」
「はぁ。」

ふむふむ。
口調はいつもの殿ですね。
佳奈さんを先に上がってもらって、まず雨戸をころころ閉めます。
殿が仰るには、今時の家は窓を小さくして雨戸って無いそうですね。
えあこんがあるから、昔みたいに窓を全開にして風を入れる必要がないからだって。
そういえば、浅葱屋敷は南側の外壁一面ずっと大きな窓ですね。
がらす戸を閉めて、かーてん閉めて。

さて、洗面所行って手を洗いまして。
殿のお部屋の洗面所はお湯が出るので、備え付けであるぽんぷ式の液体石鹸で手を泡だらけにして洗うのが玉は大好きです。

玉がさっきまで雑巾を縫っていた、お婆ちゃんが沢山貰って来た''お年賀''のたおると違って、お手拭きやばすたおるは、殿がふかふかのものを用意して下さるので、ぱんぱんと手を拭くのも大好きです。気持ち良いですから。
お洗濯の時も、柔軟剤をたくさん入れちゃいます。

「ぱんぱん。」

殿が元通りになって下さったみたいなので、玉もご機嫌で、思わず口に出しちゃいました。

………

台所に行くと、殿と佳奈さんがお席に座って待っていてくれました。
あれ。玉のお茶碗にご飯がよそってありますね。
あ、ご飯は炊き込みご飯です。
具はお魚ですかね。
皮が赤いから鯛かなぁ。
おみおつけは、あれ?おみおつけというか、この具沢山で澄んだ汁は、おすましですかね。

「早く席に着きなさい。」
「はい。」
「いただきますよ。」
「いただきます。」
「です。」

えぇと。
今晩の献立は、お魚の焼き物と鰤大根ですかね。
鰤?じゃないや。お肉に見えますね。
あれれれ?

「ね。この肉、このぶつぶつの皮が鶏肉みたいだけど、なんだろ。少し固めで味随分濃いね。」
「鴨だよ。固いのは野生の鳥だから、よく動いて筋肉が発達しているからだな。ほら地鶏とかもブロイラーと違って肉は固いだろ。」
「地鶏なんて、そんな高いもの食べた事ないわよ。」
「うちは、故郷の隣の特産品だったからね。」
「あぁ、オデコの広いそのまんまの人が知事してたとこか。」
「あの人、若い人に言わせると、最初から県知事で政治家の人らしいぞ。」
「私でギリギリ軍団の人って知ってるかな。あ、あっちも殿だ。」

じどりってなんだろう。
固いの?

「玉ちゃん。鴨だよ。鴨。」
「ですね。」

さすがは妹さんです。
殿の事は、一から十までご存知でした。
でしたら。

「食べましょう佳奈さん。」
「だね。」
思わず2人して、にっこりしちゃいました。
だったら、殿をほっときましょう。

あ、珍しい。
殿がお酒を召し上がってます。
でしたらでしたら、玉はお酌をしないと。
殿にお酌することは、玉の特権ですよ。
こればかりは佳奈さんに渡しませんよ。
でしたら。

★  ★  ★

お酒は1合だけ。
「十四代」って初めて聞いた日本酒だ。
我が家のお酒は、大体結構な希少品ばかりなのだけど、何故かシンクの下に入っている。

へぇ。甘いお酒だね。
あと、香りがいいなぁ。

青木さんにも勧めてみたけど、アラの煮込焼きに合う調味料を探すのに忙しいみたいだ。

魚の脂と、身の中まで染み込んだ味醂醤油が炭に落ちて登ってくる煙に燻されて、更に味に深みが出ている。
七味・胡椒・山椒・粉山葵。
うん。どれも味変で楽しいよね。

こうして今夜も美味しいご飯を頂きました。
お酒もたまには美味しいね。

………

さてと。
洗い物を終えて、テーブルを吹いて。
お茶を薄めに淹れて食休み。

僕が背筋を伸ばすと、うちの同居人とほぼ同居人が居住まいを正した。

僕が少し変わった事も、戻った事も、玉は気が付いていたから、青木さんと庭で何かしていたんだし。
一通り考えもまとまったから。

今晩は、一つ先に進む事にしよう。


「僕が考えていたのは。僕が考えないとならない事は。君達の事だ。」

「はい。」
「はい。」

2人が静かに返事をしてくれる。

「僕は今日、神様から、荼枳尼天から神託を受けた。それは、間もなく何か大変な事に僕らが巻き込まれてしまうと言うものだ。」

「……。」
「……。」

「ぶっちゃけちまおう。おそらくそれは、君達の身の安全に関わる事だ。僕ではない。何故なら僕は既に、我が家の氏神である一言主から、五体満足で老衰死すると決まっていると言われているから。」

「……。」
「……。」

「そこで君達の事なんだけど。君達も今回死ぬ事はない。いや、もしかしたらどちらかが死ぬかもしれない。死ななくても、手足の1~2本引きちぎれるかもしれない。」

「……。」
「あの。」

先に青木さんが耐えきれなくなった。

「私達の未来が随分とあやふやに予言してるけど、危ない目に遭うのは決定なの?」

「わからない。でも多分決定なんだろう。荼枳尼天の眷属たるフクロウ君に水晶を貰って指輪に加工した事も、その指輪を使って避難する先をみんなで整備して、しずさんという管理人を置いたのも、全てその日に繋がっていく為だった。」

「つまり、いざとなったら水晶に、お母さんの所に逃げ込めるだろうと?」
「でも、君達はおそらくそれを選ばない。自ら危険で困難な道を選択する。」
「貴方に私達の何がわかっているの?」
「何にもわからないよ。」

「ただね。僕の死んだ母が死ぬ前に、僕の未来についての''経験談''を話してくれたんだ。母が言うには、僕が妻子を連れて逢いに来てくれた。妹もね。」

「母が死ぬ前に残してくれた幾つかの事は、実は今まで全部的中している。何故なら母は知っていたから。母は浅葱の血を引く人間だったから。」

「……。」
「……。」

「でもその時、どんな女性を何人連れて来たとかは、言ってない。」

そりゃそうだろう。

「僕はね。」







「君達を。五体満足で、僕との赤ちゃんを抱いてくれる君達2人を、僕のお嫁さんですって母に紹介したい。」





「何人嫁を連れて行こうと、母はおそらく知っているし、認めてくれる。」




「母が死ぬ前日。意識を失う直前に、最後に僕にかけてくれた言葉。僕が母と約束した事は。」







「幸せになるって事だから。」








………

「ありがとう。やっと貴方から、私と玉ちゃんをどう思っているか、聞けた気がする。」
「でも、だったら玉達がお母さんの所に隠れていちゃいけないんですか?」

「それで良いなら、それでも良いよ。でも。」

「青木さんは、それでも危険に立ち向かわないとならない事情があるんじゃないか?玉にも、いや玉だけじゃなく、しずさんにも事情があるんじゃないか?」

「何故そう言い切れるの?」

「でなければ、僕に何柱の神が乗馬を課してくる意味がない。僕に機動力を必要とする事態があるとすれば。」

「それは君達ひとりひとりが向き合わなければならない事情があるからだ。」

………

私が向き合わなければならない事か。

ある。
私にはある。

あの日の約束、いやアイツに誓いを立てに行かないとならない。
でも。
私は、あの日、アイツに説教出来る程の人間になったのだろうか。

なった。
絶対になった。

だってさっきのあの人の言葉は、間違いなく私と玉ちゃんへのプロポーズだ。
だったら、私はアイツを救いに行かないとならない。
アイツを救うだけの価値が、アイツにはある。

その為に、私はどうしたらいいの?

………

玉は殿の御内儀になれる。
玉は殿の御子を産む事が出来る。
玉と殿の子供に、玉の味を伝える事が出来る。

嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。

あの日、崩れかけたお社で、殿に出逢って、殿に助けてもらって。
それから玉は一生懸命に殿に仕えて来ました。

殿が行う様々な奇跡に立会い、微力ながらもお手伝いをして。
掃除と洗濯しか出来なかった玉が、御漬物を漬けて、ぱんを焼いて、ご飯を作って、毎日毎朝、殿に、佳奈さんに、お婆ちゃんに、お母さんに食べて貰えるようになりました。

でも、まだ玉にはやらなくてはならない事があるようです。
なんでしょう。

殿があれだけ悩んでいらしたんです。

玉は何をしないとならないんでしょうか。

………

2人とも考え込んでしまった。
一応、間接的にとは言え、プロポーズのつもりだったけどなぁ。
脅かし過ぎたかな?

でも、2人とも怖がっている様子も、不安がっている様子も伺えないな。

改めて2人に宣言しないとならない。

「君達が五体満足で僕の母に逢いに行ってくれるには、その障害を乗り越えるには、まだ君達は力が足りません。」

「だから、今週末に新たな神様に逢いに行きます。」

「時間が有りません。必ず時間を空けて下さい。」

「日本神話最強の戦神に、助力願います。」
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