ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

しずさん参戦の記

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「お母さん!」

バナナを一房抱えて、玉が浅葱屋敷にジャンプした。
僕も今朝の聖域での用事を終わらせたので、玉の後を追う。

・荼枳尼天にバナナスイーツを、それぞれ4人がご馳走する。
・ついでに玉が、それをコンペティションにしちゃった

事を、なんだかテンション上がり気味の玉に、上手く説明出来るとは思えないし。

「あら、おはよう玉。今朝はゆっくりですね。あらあら、おはようございます婿殿。」
そこには、新しく出来たテーブルでお茶を飲んでいるしずさんがいた。

そうそう、このテーブル。
2×4材とコンパネとボンドと治具だけ届けて、組み立ては青木さん達に投げっぱなしジャーマンだったから気にはしていたのよ。
設計図は渡したけど、何せ日曜大工がどれだけ出来るか不明な女性陣だけ。
こういった作業は、多分しずさんは経験しているのだろうけど。

「ふむふむ。」
2×4材なのであらかじめ角は落としてあるし、テーブル台にしたコンパネも、丁寧にヤスリがけしてある。
紙やすりをたっぷり持たせたのと、ニスの重ね塗りを指導しておいたのが正解だったか。

うちの食卓にかかっているビニール製のテーブルクロスに、玉が趣味で繕った白い布クロスの2重掛け。
これは玉にせがまれて、夕べコピー品を届けておいたもの。
僕が買った一輪挿しには、玉が元の家から持ってきて、大切に育てている一輪草が、白い小さな花を咲かせている。

椅子は、ベンチタイプに設計しておいた。
長方形のテーブルには最大6人座れるし、足元には丸く穴を開けてぽん子とちびの餌皿がハマるような細工をした簀が置いてある。

ベンチには、どこから持ってきたんだか、座布団が並んでいて、ぽん子とちびが既に丸くなっていた。

しずさんのお茶碗は青いガラス製。
こういったハイカラなものは、玉がホームセンターのワゴンのお買得コーナーから拾ってくる。
僕的には、もっと良いものを買って差し上げたいんだけど、何しろ玉さんが自分のお小遣いで丁寧に選んでいる姿を見ると、何にも言えないので。
中には冷蔵庫で冷やした緑茶が氷と一緒に入っていた。

しずさん的にも、そんな生活は今までしてこなかっただろう。
さりげない装いにも、楽しそうな雰囲気を感じる。

テーブルに並んだお茶請けにはお煎餅が詰まっていた。
でもまぁ、時刻的に朝ご飯の直ぐ後くらいなので、食休みになんとなく並べただけなんだろう。

僕の姿に気がついたぽん子が、右前脚で今まで自分が寝ていた場所をとんとんと叩くので、彼女を膝の上に乗せてそこに腰掛ける。
ぽん子はそのまま、また寝てしまった。
ちびはというと、あれま寝たまんまだ。
まぁ、玉を見つけたモルちゃんが大急ぎて走って来たので、玉の膝の上は諦めたのだろう。

ぽん。

玉はモルちゃんを抱き上げつつ、バナナをテーブルの上に置いた。

「あら、久しぶりね。バナナってここに来てから食べなかったわね。」
「バナナは傷みやすいし、我が家の定番果物ではなかったから、普段からキープしてないんですよね。」
「でも、殿が新しく育て始めました。今は荼枳尼天様の方で採れますよ。納戸に吊るしておくので、お母さんもいつでも食べられますよ。」
「あらあら、婿殿がですか?」


かくかくしかじか。


あぁ説明するのも面倒くさい。

「神様にお供えする甘味、ですか?」
「荼枳尼天は、しずさんと玉のお供えも好きなんですよ。しずさんがこっち専任になったから、たまには食べたくなるみたいですよ。」
「あらあら。光栄ですね。」
「玉はばななのお饅頭を作るつもりです。」
「そうねぇ。そうしたら、私はどうしようかしら。」

僕らが現れた事を察して、モーちゃんと神馬がやって来た。
玉としずさんがバナナをあげると、嬉しそうに食べ始めた。

「そうか、この仔達のおやつにもなるな。」
だったら、浅葱の力でいつでも食べられるようにはした方が良いか。
でもバナナは高カロリーだし、糖度も高いかなぁ。ぶつぶつ。

「そうだ。これから本屋さんに行きましょう。玉も色々調べたいです。」
「ん?」

話が別方向に動き出したぞ?

「ねぇ殿、ばななのすいぃつって何があるんですか?」
「パフェとかチョコバナナとか。僕は男だからわざわざ食べないからなぁ。」
「ちょこばなな?」
「お祭りの屋台で、最近、というか昭和末期くらいからの定番化したものかな。バナナの実を丸ごとチョコレートでコーティング…んんと、表面を覆ったものですね。」
「ねぇ、殿。玉達の知ってるお祭りとは違います。」

あぁそうか。
玉がうちに来てから、お祭りって行った事なかったか。

「婿殿。私達の言うお祭りは、豊年祭みたいなものですよ。農業や狩猟の豊作・大漁を神様にお願いするだけの、特に浮かれたものではないですね。稲藁で作った神様の前で、奉納の踊りを踊って、お酒を頂くくらいですかね。そりゃ、いつもよりはご馳走を頂きますけど。」

しずさんは神職として、地域の信仰を仕切っていただけに、本やネットで調べるよりも説得力が違う。

「干した真菰で作った稲藁を使って、蛇や馬を作りましたものですよ。」
それは確か、玉にお願いされて市川の博物館に行った時の展示物にあったな。
玉がなんとも切ない顔をして、黙って眺めていたから、よく覚えている。
そうか、本人は語らなかったけれど、あの展示からまだ再会出来ていなかったしずさんとの生活を思い出していたんだなぁ。

駄目だね、僕は。
そんな玉の気持ちを汲み取れなかった。
今更ながら、海より深く反省。

僕のテンションが少し落ちた事を察したのだろう。
ぽん子が尻尾で僕のほっぺを叩いた。

「わふ」
しっかりしなさい。
「はい。」

そうだな。
少し遠出して、◯ックオフの大型店舗をハシゴして(新刊書店は玉が嫌うから。まぁ料理本なら新刊・古本に内容の差は無いだろう)、バナナスイーツを喫茶店で実食して貰おうか。
あと、家のPCでレシピを検索して印刷しても良いし。
あとあと、スイーツ作りならば、専用の調理器具が有っても良いな。

「面白そうですね。しずさん、久しぶりに買い物に行きましょう。玉、準備を手伝ってあげてね。」
「はい!です。任されました。」
「あらら?私も行くの?」
「ここだと材料も道具も知識も、しずさんにだけ不利なんですよ。多分優勝候補は青木さんでしょうけど、どうせなら皆んな一生懸命に美味しいスイーツを作って、皆んなで美味しく食べましょう。」

ぽん子、また後でな。
「わふ」
1日1回来てくれるだけで良いわ

君はお妾さんみたいな事を言うな。

★  ★  ★

玉としずさんが出かける準備をする間(着替えと片付け)、一足先に部屋に戻った僕はスマホを開いた。
ふむふむ。
松戸駅の東西口にそれぞれ◯ックオフがあるのか。
あと、馬橋にも1軒あるな。

この3軒をハシゴするとして、あとは。
喫茶店を1軒、洋菓子店3軒をチョイス。PCで検索し直して印刷っと。

さて。
今日はしずさんか来るって事は玉は後ろか。
居間のガラステーブルの下から箱を取り出した。
通称・玉の箱。

いや、僕の部屋はモノが少ないので、どこにでも置けば良いんだけど。
玉は基本的に、自分の荷物はミニマムにまとめているのですよ。
テーブル下は、アナログモノ。
読み差しの本。地図。筆記用具。
そこから地図を取り出して、目的地にポストイットを貼っておく。

居間の隅には玉の箱2があって、そっちはデジタルモノ。
アマゾンタブレットや任天堂のゲーム機などがまとめてある。
ゲームはアクションやレースゲーム。
あとRPG。
青木さんが矢切に住んでいた頃は、玉がネットで対戦したり協力プレイしてたりしてましたが、今では普通にそこに並んで遊んでたりしてます。

僕はというと、アクション性に高いゲームは、反射神経がついていけないので、玉の相手になりません。

ふむ。
玉の地図も、道路のマーキングが埋まってきてるなぁ。
今日予定するルート、もう殆どマーク済みか。
あ、そうだ。
後でゼンリンの住宅地図を買ってあげよう。
新品で無ければ、玉も遠慮なく受け取ってくれるし。

★  ★  ★

「では行きましょう。」
いつもの赤いピーコートにスニーカー、肩掛けの帆布バックを下げた玉が施錠をする。
「新しい古本屋ですね。ちょっと楽しみですね。」
「駐車場が別にあるから探すの面倒くさいし、電車1本で行ける街ではないので、今まで行かなかったんですけどね。」

義母を連れた若夫婦の体ですな。
まぁ、これもこれで。
……いずれ、体じゃなくて、本物にしないとならないんだよなぁ。
まぁいっか。

親娘で楽しそうに語らっている姿を眺めながら、駐車場に続くいつもの坂道を僕らは下って行くのだった。
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