ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

ちょっとした後日談

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さあ、今日のお昼は、殿が大好きな鶏皮です。
殿は今日も頑張って、神様と仏様のお願いを叶えていました。
だから、玉のご飯をご褒美にしましょう。
鶏皮は殿が大好きだから、玉も大好きになりました。

玉は今までお肉は殆ど食べた事、ありません。
ありませんでした。

10日おきに立つ市には四つ脚や二つ脚のお肉が並ぶ事がたまにありました。
四つ脚は大体、死んじゃった馬や牛です。二つ脚は、猟師さんが狩をして捕まえた鴨とか山鳩です。

お母さんは村で巫女さんをしてましたから、氏子さんからたまに頂く機会もあったそうですが、お断りをしていたそうです。
お魚はいいけど、お肉は駄目。
理由はわからないけど、ケジメにしていたとか。

でも、玉は殿のところにお世話になってから、お肉の美味しさに負けちゃいました。
巫女失格です。
お母さんは、唐揚げを食べて負けちゃいました。
巫女失格です。

でもでも。
荼枳尼天様も一言主様も、玉やお母さんが奉納するお肉料理を美味しく頂いているそうですよ。
だから、いいのかな?

最初に殿が作ってくれた鶏皮料理は「照り焼き」でした。
七輪で炭焼き・網焼きをしたので、余分な脂が全部落ちて、落ちた脂が炭の香りを立てる、美味しい美味しい料理でした。
他にも、柔らかめに揚げた唐揚げとか、お店で売ってる焼き肉のタレで焼いただけとか、細かく千切りにして塩胡椒だけで焼くとか、鶏皮のお煎餅とか。
「独身男の手抜き料理だよ。」
って殿はご謙遜なさいましたけど、玉には他に例えようのないご馳走でした。

ペローン。
「ペロペローン。」

冷蔵庫の一番上の棚に、はっぽうすちろおると、さらんらっぷに梱包された白い鶏皮があったので、まな板の上に並べます。
6枚も入ってました。
1人2枚ずつですね。

まずは布巾で、鶏皮の水気を取ります。
表裏を忘れずに。

薄力粉を振って、余計な粉をぱんぱんとはたきます。ぱんぱん。
数が多いので、ふらいぱんじゃなくて鉄板で炒めましょう。
鶏皮は脂がキツいので、裏面を下にして弱火でじっくりと火を通します。
余計な油は要りませんね。

脂がしっかり皮から出たら、裏返してぶつぶつがある表面を焼きますが、この時に「越乃寒梅」って書いてあるお酒と、すりおろしたわさびを加えます。
じゅうじゅう。
きゃんぷに行った時に殿が出してくれたのですが、殿は晩酌を滅多にしないので、玉が調理酒で使ってます。
お婆ちゃんや佳奈さんは呆れていますけど、殿が好きに使いなさいって仰るので、好きに使ってます。

わさびは、荼枳尼天様のお社の川で、殿が育てたわさびです。
ほんのちょっとで凄く辛いのに、すぐに辛味が抜けて行く不思議な味がします。
お刺身にちょっとつけると最高ですよ。

前は大根おろしでわさびを擦ってたんですが、佳奈さんが専用のザラザラしたわさびおろしを見つけて来ました。
鱶の皮で作ってあるそうです。
大根おろしよりも細かく擦れるので、もっと辛く、もっと美味しくなりました。

「ほう。全然違うね。」
「でしょ。駅前のスーパーの鮮魚コーナーで見つけたんだよ。」

殿が関心してました。
佳奈さんは鼻高々で自慢してました。 

佳奈さんは、殆ど玉達とご飯を食べるのですが、お菓子や消耗品を買う為に1日1回は、会社帰りにすうぱあに行くそうです。
大体殿が用意出来ちゃう玉んちは、買い物には殆ど出ませんしねぇ。
殿がわざわざ買いに行く物は、大抵玉かお母さんの物ですし。

お酒とすりおろしたわさびで炒めた鶏皮は、お醤油、お砂糖、塩胡椒でも味を整えます。
最後に、輪切りしたれもんを乗せて出来上がり。

玉特製
鶏皮の照り焼きわさび風です。

あと、いつもの糠漬けと、あと、お母さんが作ってくれた金平牛蒡と、あ、おみおつけがないや。

「佳奈さぁん。おみおつけお願いしていいですかぁ?」
「あ、任せて玉ちゃん!」

和室で殿と、何か話していた佳奈さんが、台所の椅子に掛かっている佳奈さん用のえぷろんをつけて、直ぐにお隣に来てくれました。

おみおつけは佳奈さんに勝てないんですよねぇ。
あ、普通のおみおつけなら玉も普通に作れますよ。
でも佳奈さんのおみおつけは、殿の好みにぴったしなんですよ。
同じお味噌と同じ出汁を使っているんですけどねぇ。どうしてだろう。
「女としての歴史」が違うからなのかなぁ。

★  ★  ★

今日のお昼はどうしようかしら。
今までは、朝と夜しか食べなかったのだけど、ここに来てからは3食食べる様になりました。
婿殿と暮らしている玉が3食食べているから、時々お昼ごはんを持って来てくれるのよ。

ぽんちゃんやちびちゃんは、お昼はおやつだけね。
食べ過ぎると駄目ですよって婿殿が言い聞かせていたので、うちの仔達はおやつをあげても食べ切らないんですよ。

わん
『だって食べ過ぎて太ったら、あの人に嫌われちゃうでしょ』

ぽんちゃんはそう言うの。
でも私の作るおやつも気に入ってくれてるので、我慢出来ずに食べちゃった時は、お庭をいっぱい走ってるの。
だいえっとだそうですけど。
女心は玉も狸も変わらないのね。

「さてと。」
婿殿のお屋敷には冷蔵庫と言う魔法の箱があるの。
その中はいつも冷えているので、生鮮食品が沢山入ってます。
氷が冷えているのが嬉しいわね。
冷蔵庫の中は自由に使いなさいと婿殿の許可を得ているのですよ。
仮にあちらで使う食材だったとしても、婿殿は自由にまた出せますから。

おや?あまり見た事の無い食材がありますね。
白い皿の下を覗いて見れば、あぁやっぱり狸の印がありました。
この狸の印は、婿殿がそのお力で現出させた食材の証です。

つまり、玉が欲しがった物か、婿殿のお薦めって言う事です。

あ、これ。鶏の皮ですね。
婿殿の大好物と、玉から聞きました。
という事は、今頃婿殿に喜んでもらいたくて台所で頑張っているのかしら。

そろそろお嫁入りと言う事で、玉にも炊事を仕込もうと考えていた矢先にアレに巻き込まれましたからねぇ。
婿殿に嫁入りしてからは、しばらく炊事にだけ手を出さなかった様ですが、もう一人前でしょうね。
婿殿に恥ずかしくない娘ですよ。

あの甘えん坊で人見知りで、面倒くさがり屋が、好きな人が出来るだけであれだけ変わりますかねぇ。
でも、婿殿も佳奈様も、玉の周りの人が出来た人ばかりですしね。
お父さんも不器用でしたけど、努力の才能だけはある人でした。
そんな血を継いだのかしらね、玉も。

さてさて。
せっかくの鶏の皮だから、何か作りましょう。
お肉がないから、私の好きな唐揚げは無理なのね。
いや、鶏肉は冷蔵庫の別の棚にあるから、そっちで作ればいいんだけど。
娘が鶏皮で頑張っているなら、私も負けてられないわ。

ええと。今朝、玉が焼いたコッペパンが余ってるわね。
パンは保存が効くから、食べ切ってないのよね。
玉の焼くパンは、母親の贔屓目を引いても美味しいから。
うちの仔牛ちゃんが乳を出せる様になれば、乳を練り込んでもっと甘く美味しくなるって言ってたわね。
それも楽しみだなぁ。

「あっちは照り焼きを作っておったぞ。」
「おや。」

神様がいきなり出てこられました。
婿殿と一緒にされたら困りますよ。
荼枳尼天様とは長くいましたけど、荼枳尼天様からの御宣託はあっても、会話をする様な事はありませんでした。
なのに、こちらの神様ったら私の様な端巫女まで相手なされます。

「浅葱が来たら礼を言っておいてくれんか。直接礼を言いに行ったら、あ奴ら食べ過ぎて伸びとった。」
何してんのよ婿殿は。

「玉は邪魔しませんでしたか?」
「ちっこい巫女の方か?浅葱の娘もじゃが、あの2人なら浅葱の力になっておるぞ。1人が右に立てば左に、1人が上に行けば下に。常に対となり陰に日向に浅葱を助けておる。」
「そうですか。」
良かった。
玉は玉の居場所をきちんと作っているのね。

「ではの。」
「はい。」
「……………。」
「あの、まだ何か?」
「う、うむ。あ奴らの昼飯が美味そうだったからのぅ。」
やれやれ。
うちの神様も食いしん坊ですね。
「わかりました。お供えしておきますね。」
「うむ、楽しみにしてるぞ巫女よ。礼という訳でもないが、そこに生えている蜜柑を一本差し替えておこう。」

というわけで、私も鶏皮でちょっと頑張らないとならない羽目に陥りました。
厄介な婿を迎えると、義母の私も大変ですね。
私にも努力の才能が有れば良いのに。

では食材集めに、とりあえず畑に行きましょうか。冷蔵庫からは鶏皮と卵でいいかしら。あ、あと牛乳もね。
ええと。アレを作るならばレタスだけど、サラダ菜でもいいのね。
あ、あと。おネギと大根を一本抜いときましょ。

卵は茹でておきまして。
鶏皮は七輪で焼いちゃいます。
味付けは、私の大好きな唐揚げ粉です。
おネギは細かく刻んで、玉が持って来てくれた魔法の水、麺つゆにお塩を足した出汁に混ぜます。
焼き上がった鶏皮に、このお出汁をたっぷりかけて、大根おろしと一緒にサラダ菜で包みます。

玉が作ってくれたコッペパンの真ん中に包丁を入れて、輪切りにした茹で卵と一緒に挟んで、軽くマヨネーズをかけます。
あとは、牛乳を添えて、鶏皮パンの出来上がり。

たっぷり残った大根は、麺つゆで煮込んで田楽にしましょう。
これはぽんちゃん達のおやつ。
お味噌を味醂とお酒で割って、味噌田楽のタレにしますかね。
うふふ。
晩御飯のおかずも出来ちゃいました。

玉。
貴女はもう立派なお嫁さんです。
ここから見ていても、掃除も洗濯もちゃんと出来ているし、ご飯も作れてますね。
目の前でサラダ菜を齧ってぷいぷい言ってる天竺鼠の懐き方と、抱っこの仕方を見ても、いつでも母になれるでしょう。

あとは婿殿の言う事をきちんと聞いて、頑張りなさい。
頑張り続けなさい。
婿殿は貴女には勿体ない程、立派な方です。
貴女を絶対に幸せにしてくれます。
うふふ。
私は貴女の事ならば、なんでも知っているんですよ。

母はいつも、いつまでもここで貴女を応援してますよ。



あ、あと神様の御礼と言うのは、蜜柑の木が一本、甘夏になってました。
とりあえず一個食べてみたら、少し酸っぱいけど甘さも十分ある甘夏でした。

玉に頼めば、またジャムにしてくれるかしら。
それともシャーベット、いやいや甘味にも。
うふふ。飽きませんね、ここ。
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