ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

小さな実

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『対処法は一つだけじゃ。今のところな。』

今のところ?ですか。

『巫女っ子は、巫女としての能力に開花すれば、いずれは1人での対処も出来ようよ。じゃが、浅葱の娘には永久に無理じゃ。あやつには確かに、お主に通づる血を感じる。じゃが、いかんせん血が薄い。例えばこの先、お主と結ばれてお主の稚児を宿したりすれば、その稚児を媒介としてある程度の開花は見込めるが、それはあくまでも“子“に対する''母“の想いであって、お主と浅葱の娘の繋がりではない。』

……なんか青木さんに対する扱いとシュミレートが、玉とはえらい差がありますね。

『だから危険じゃと言う事じゃて。あの2人は、お主の言う“祠“に魅入られておる。もう一度言うぞ。次に“祠“に魅入られたら、あの2人は独力での脱出は不可能じゃ。お主達がこの儂の家に吸い寄せられたのは、あの2人がいたからじゃ。』

……うぅん。基本的に僕から100メートル離れない玉はともかく、青木さんは確かに不味いね。
考えてみたら、あの人は春日部で普通に買物に行こうとしていて引き込まれた訳だし。
僕らとの再会で、彼女も色々巻き込まれているそうだし。

『手をお出し。』

なんですか?その変な位置からの命令形は?

とか考えたけど、相手は神様だった。
この神様、本当に気安す過ぎ。
なんか勘違いするじゃないか。

『?。構わんぞ。儂はお主を友と認識しておる。

僕が割と困ります。  

『割とじゃな。なら良いわい。嫌われて無ければ良い。』  
 
いや、だから。あのね。

『いいから早よ手を出せ。ほれ。』

…神様に急かされる様な人生を送るとは思わなかった。 


★  ★  ★

「それで授かったのが、これだよ。」

なんかもう色々疲れたので、神様との会話を終えると、手近なチェーン店の焼肉屋に逃げた。
祠からも佐倉城からも逃げて。佐倉の東は、将門と縁が深くて不味いと聞いたので、西の臼井の街中の店を探しましたよ。ええええ。

僕はもう面倒くさいので、適当に石焼きビビンパセットを頼んでグッタリモードに突入中。
女性陣も一応空気を読んで神妙にしているけど、
「遠慮とかすんなよ。1人2,000円以上食べないと、店から出しません!」
と、割と強めに乱暴に言ったので。
声を荒げる事もまずしない僕にビビったか、2人とも人形みたいにコクコク頷いて、それでもメニューを見ているうちに元気を取り戻して、キャラキャラ騒ぎ出してくれたよ。
やれやれ。

「ねぇ殿。このお店、お値段お得気味だから、2,000円って結構食べでがありますよぅ。」
「いや、デザートとドリンク込みなら、ほんの少しの贅沢で、ちょうどいいと思って設定したんだけど。」
「でも菊地さん。ランチメニューが出ているのに、グランドメニュー頼む気ないわあ。だって菊地さんもお安いセットじゃない。何、自分は600円で、私達には2,000円て。」
「僕はおじさんだから、こんなもんでいいの。君らは若いんだから、たくさん食べなさい。」
「貴方は田舎のおばあちゃんか?」
「市川に住んでるおじさんです。」

てな感じで、遅めの昼食を終えて。
僕はセットについていたコーヒーで食休み、彼女達はドリンクバーで得体の知れないミックスジュースの作成とおかわりがある程度落ち着いたのを見計らって、冒頭部に戻る。

彼女達、特に青木さんには身の危険に関わるから。

荼枳尼天が話してくれた、彼女達に起こり得るであろう危険性を話す。

「前から言われてたけどね。確かに私1人じゃどうしようもないし、なかった。」
「いつも殿と一緒に居ますけど、玉は大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないけど、玉はいつも僕のそばに居るから、その分だけ危険性は減る。それでも常に僕の視界に居る訳では無いから。例えば、今日みたいに出先で興味に惹かれてヒョイと脇に擦れたり、或いは女子トイレの中で何かがあっても、僕には玉が何処に行ったかわからない。」
「むう。」
僕と玉と、そして荼枳尼天との縁(えにし)がどこまで通じているか、わからないもん。

「ねぇ菊地さん。祠で危険な事ってなんなの?私は閉じ込められた以外には体験して無いから。」
「そう言えば、玉も怖い目にはあった事ありません。」
いや、玉さん。貴女は相当怖い目にあってるでしょ。

「人の怨み辛みや邪念。そう言ったものが集まり、形となっていたり、なっていなかったり。形になって居る時は人間っぽい形をした何かが襲ってくるし、時を経て形すら取れなくなった奴にあった時は、アメーバーみたいな不定形に取り憑かれる。いずれも“それ“が持つ不快感を味合わされる事になる。常に誰かの悪意を浴びつつける様になる訳だよ。そして、玉は知っている様に、祠では死ねない。何百年経とうとね。僕には逃げる術があったけど。」
「……。」
「……。」
「現代日本に於いても、行方不明者は沢山居る。全部が全部、事件や事故に巻き込まれたり、或いは自らの意思で消えた訳でもないだろう。もしかしたら、祠に飲み込まれて、何かに永遠に苦しめられてる人が何十人、何百人と居るかもしれないし、…多分居るだろう。」

「…神様はそれを警告しに来てくれたんだ。」
「玉も益々お勤めに励まないとなりませんねぇ。」
「そこで、だよ。僕が授かったものがこれになる。」

テーブルにコロンと転がした、二つの丸いもの。薄茶色の木の実だ。
2人が興味津々で、それぞれ手に取った。
「なんだろ。なんの実かわかりますか?」
「あぁ、玉わかります。銀杏ですよこれ。あの踏むと臭い奴です。」
「ゲゲっ。あれかぁ、茶碗蒸しに入ってたら残す奴だ。」
「殿が作ってくれる茶碗蒸しには必ず入ってますね。海老根と銀杏。」
「私の時は入れないでね。」
「好き嫌いは駄目ですよ!」
茗荷と大葉が大嫌いな玉が言ってもなぁ。

★  ★  ★

「それで、この銀杏をどうするんですか?食べるの?」
「銀杏2個だけあってもどうしたいいんでしょう。串焼きとかにしますか。」
「玉ちゃん、私、食べたくない。」
「好き嫌いは駄目ですよ。」
あぁ、女子ばかりだと話が進まない。

「聖なる高みにて、陽に捧げよ。荼枳尼天の言葉だ。」 
「何そのゲームみたいなの。クエストなの?これ?」
「わりかしガチにやばい案件なので、軽くは見れないと思いけど。」

「でも、殿、佳奈さん。荼枳尼天様が仰った事ですから、悪ふざけの類いではありませんよ。絶対に。」
荼枳尼天は自らが信仰する神ゆえ、絶対な玉なので、青木さんもそれ以上何も言わない。ふざけない。

「聖なる高み、かぁ。どう言う意味だろう。」
「荼枳尼天様は、玉達をお救いしようとして下さっている訳ですから、そんなに厳しい条件ではない筈ですよ。」
「だったら、もっとそのものズバリのものを教えてくれていいのにぃ。」
「ねぇ殿。お分かりになりますか?」
「わからなくもない。」
「え!」
青木さん、驚き過ぎです。

★  ★  ★

「聖なる高みだろ。単純に考えれば良いんだ。神様が言う聖なる高みってなんだと思う?」
「修行の末に悟りを開いた者ですね。」
「それは神職を生業とする玉の目線だね。神様はどちらかと言うと、普通の人の青木さんを心配する口調だった。」
「普通って言われて、なんと答えたらいいのかしら。」
普通の女と言われる事が、大層ご不満らしい。

「普通の青木さんは高みと聞いて、どう考える?」
なので、揶揄ってみた。
「普通って言うなぁ!」
はい、期待通りの返事を頂きました。
なんとかって言うなぁって言うのは、青木さんの持ちネタだけど、元ネタってあるのかな。

「だったら、単純に高低じゃないの?聖なる高いところ。って意味わかんないけど。」
この人は、なんだかんだ言って頭の回転が非常に速い。いつでもポンポン返って来るので、話をしていて気持ちが良い。

「そうだね。高所にある寺院へ行けと言う事だと思うよ。」
「はぁ。」
「殿、何処ですかねぇ。」
「知らない。」
「おい。」「おい。」
「何処でもいいんじゃないかなぁ。」
「おい。」「おい。」

実際、神様はそのくらいフリーカードにしてると思うよ。
でなければ、あれだけどうとでも取れる言い方をするとは思えない。

さて、明日は遊びに行く予定だったけど、何やら仕事が出来ちゃったか。
2人の視線が少し痛いけど、ほかに手掛かり無いし、明日まで考えてみよう。
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