ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

梨と池

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梨。
不器用な僕だけど、果物の皮を剥くくらいは出来るので、果物ナイフでショリショリ剥きまして。
「玉がぱくぱく食べまして。」
「食べるのは構わないけど、後で別の料理を作るのでそれを踏まえて食べなさい。」
「むむむむむむ。それはもっと美味しく食べられるって訳ですね!」
夕べは梨の色が気持ち悪いとか言ってた気もしますが
「殿が美味しいって保証するお料理は、たいてい玉にとっても美味しいですから。」
玉に乗せられた訳ではないけれど。では一つ。行きますか。

ー梨料理あれこれー

・梨のコンポート

材料:梨、砂糖、レモン
1.皮を剥いた梨をレモン果汁を足した砂糖水で煮ます
2.梨の実が透けてきたら鍋からあげて冷やす
3.出来上がり
うん、簡単だった。

・梨ジャム

材料:コンポートと同じ
1.梨を半分はすりおろし、半分は角切りにします。
2.レモン果汁を足した砂糖水で煮ます。ただし砂糖は引いちゃうくらいどかどかと。
3.砂糖が焦げない様に煮込みます。
4.砂糖が溶けてなくなったら出来上がり。


・梨シャーベット

材料:上に同じ
1.梨をフードプロセッサーで細かくします。
2.レモン果汁を加えた砂糖水に入れて凍らせます。
3.出来上がり。
………。つまんない!
ネットでレシピを調べて作ってみたけど、やっぱり梨は冷蔵庫でよく冷やしたものを皮剥いて食べる。
これが1番だ。

ぱくぱくぱくぱく。

まぁ、うちのもお玉さんが幸せそうな顔して食べてるからいっか。
「いいです。殿の料理は玉の口に合うのです。」
「せっかくだから、玉の料理も食べてみたいけどね。」
「だから玉は死にたく有りませんてば。殿を殺したくないのですって。」
仮に料理を頼んだら、玉は何を作る気なんだろう。
「佳奈さんが花嫁修行中だそうなので、佳奈さんに作って貰いなさい。」
なんで彼女が出てくるの?
「いいですか?どんな料理が出てきても、美味しいって言うのが男性としての礼儀ですからね。」
…青木さんも、やっぱり残念な女性の様だ。

りん。
メールだ。誰だろう。 
『残念な女っていうなあー!!』
…あの子は超能力者か、それともストーカーで天井裏にでも居るのかな?
「佳奈さんに伝えた犯人は玉でした。」
「お前か。」
「私だ。」

★  ★  ★

という訳で、今日も聖域に来ました。
毎日ここに来る様になって一つ、気がついたことがある。
「聖域にいると、水晶の外では時間が経たないらしい。」
そこで今日はもう一つ調べ物。
そのついでにもう一つ実験実験。
それは池作りです。
 
茶店の方では、水道管に繋がっていない蛇口から水が出るというトンチキな現象が起こりました。
そもそも「浅葱の力」自体が超常現象なんだけど。
だったら、どこまでそのトンチキな力が働くのか。 
毎回、少しずつ試していこうというわけです。
茶店の縁台に外から持ってきた目覚まし時計を置いときます。

玉は、昨日作った畑にキャベツとトマトを植え終えると、隣の神社に飛んで行きます。
「園芸なら、玉にお任せ~!」
さっき大家さんに聞いた事を忠実に実行しているだけですが、変に工夫しないマニュアル通りの生真面目さは失敗しないでしょ。
「殿ぉ~?お水貰っていいですかぁ~?」
「お好きにどうぞ。」
夕べ花火に使ったバケツを聖域に持ち込んで、茶店の中からえっちらおっちら神社に運んでいきました。
隣の神社は、玉が1,000年に渡って守ってきた、玉の大切な場所なので、来たら取り敢えず拭き掃除を欠かさないみたい。

僕は僕で、じゃじゃ~ん。スコップ~。
(CVは大山さんでも水田さんでもどちらでも可。)
いつ、どこで使ったのかも覚えてないけど、木の柄に赤い三角の持ち手をつけた、オーソドックスな大スコップを取り出して、取り敢えず神社と茶店の間あたりに穴を掘る。
あぁ、これまたプリンユにスプーンを突き立てる様に、サクサク掘れていく。
あ、そういえばまだプリンを買ってない。
「まだプリンを買って貰って無い。」
玉がヒョイと神社の明かり取りから首を出す。
「危ないからそんなとこから首出して無いで、ちゃんと掃除しなさい。」
「夕べ、買って貰い忘れたのです。玉は忘れませんよ。」
「玉も忘れてたんでしょ。」
「……これから忘れないのです。」 
「そうですか。」
「そうですよ。」
言いたいだけ言うと掃除に戻った玉はほっといて、
「またほっとかれました…。」
コホン。
穴掘りに戻ります。大体ニ畳くらいの大きさ、深さは膝丈くらいかな。瓢箪型に形を整えておく。
さて、次に。

「石!」

ズサン。ちょうどいい量と大きさの石が、穴の中に落っこちてきた。
えぇと。これは凝灰岩かな。水が漏れない様なきめの細かい、大谷石みたいな石以外を想像したのだけど。
あと、僕は当然石なんかに大した知識もない訳で。
つまり、これは。
僕の求めに応じて「浅葱の力」が反応してくれた、謂わば「言霊」とでも言う、謎パワーだ。
謎パワーとかいい加減な定義でどうにでもなるぞ。
なんでもありか?ご先祖様。国麻呂様。
なんでもありなら、なんでもしちゃうぞ。
うっふっふっふ。

穴に入ると石を穴に沿って並べます。
「セメント!」
「早強剤!」
うわぁお。出てくる出てくる。
穴は忽ち凝灰岩で覆われて、その隙間には早強剤で強化されたセメントが染み込んでいく。

とてとてとてとて。 
「とてとてとてとて。」
自分の足音を自分で発音する人は、我が国には1人しかいませんな。
「とてとてとの?何作ってんですか?」
「どこのお殿様ですか、それは?」
お社の中の掃除が終わったのだろう。竹箒を担いでやって来た。
って言うか、巫女装束だよ玉さん。
僕の視線に気がついたのか、竹箒を肩に担いでクルリと回る。
「決めたのです。聖域に、お社にいる時は巫女の玉。それ以外は殿の従者玉で居ようと。だから着替えます。」
「玉は家族にした覚えがありますけど、従者にした覚えは有りませんよ。」
「いいえ。お社の御祭神様は殿と親しくなっていましたから。巫女としての玉は、殿の従者である事が一番自然なのです。」
そういえば、この娘は神職なんだよね。食いしん坊だけど。
「なので、聖域の外では、玉は殿の家族として、殿のご飯を沢山食べるのです。」
…イミガヨクワカラナイ。
あと巫女装束で竹箒を肩に担ぐのは辞めた方がいいと思う。
「おーでかーけでーすかー?」
掃き掃除を始めた玉ですが、結局自分から言ってるし。あの台詞。


次は、と。
穴に向かって溝を掘って行く。
その終点は茶店の裏の岩壁にたどり着く。
「もっかい岩!」
一度分かると話が早い。板状の凝灰岩が溝を3面張りして行く。トゥロロロロ。
なんだこのオノマトペ。
玉に釣られて、我が家ではやたら変な音がする様になりましたな。

溝と穴が繋がったのを見て岩壁に手を当てる。
「湧水!」
岩壁に人の頭程度の穴が開き、そこから清水が溢れ出して来た。清水は溝を駆け、穴にせせらぎの音を立てて流れ込んでいく。

という訳で、瓢箪池完成。
ええと。排水口を作ってなかったけど、一定の水位から上に来ないな。
まぁ、なんでも有りな空間だし。気にしたら負けという事で。

最後にもう一言。
「橋!」
板状の岩がもう一枚。瓢箪の括れに渡されて橋が架かる。
うん、溝に響くせせらぎと、池に落ちる小さな滝の様な水音。これはこれで。この聖域に小さなサンクチュアリーが出来た。

茶店の縁台に帰ってみる。
目覚まし時計はやっぱり止まっている。
聖域に来る前には普通に動いていた。電池も交換したばかりだ。
腕時計を見てみる。やはり動いていない。
つまり、この聖域では時間が流れない。
聖域で時が流れないのなら、聖域の外、水晶玉の外でも時間は流れない。

この「時間」は何に使えるだろうか?

「殿ぉ~、池が出来てますぅ~。」
呑気な巫女さんが1人。君は僕の作業を見ていた筈ですが?
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