瑞稀の季節

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日光東往還

餃子パーティ

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「あははは、やっぱり生酒は美味しいなぁ。」
「そうだろう。そうだろう。関宿城は関宿の銘酒だからな。」

なるほど。
これが泥酔した南さんか。
目が座って正座して体育座りして、いやもうM字開脚して、とにかく笑ってる。
なんでも笑ってる。
あはははゲラゲラ笑ってる。

お父さんは、これ酒豪の部類に入るのかな?南さんと同じペースで盃を飲み干しているのに、顔色一つ変えずに娘さんの盃にお酒を足したり、水を与えたり、おつまみをあげたりして、娘さんが変に悪酔いしないようにしている。
とは、社長の観察。

「ほら。野菜とかお寿司とかを南さんの前に出しているよ。唐揚げとかソーセージとかあるのに、南さんの前から脂物は遠ざけてる。」
「社長、このウインナー、見覚えがありますね。」

「あぁそれね。」 
南さんのお母さんが、にっこり笑って私に更に網焼きハムステーキを勧めてくれる。ありがとうございます。

「沙織が先生との取材で買って来たお肉屋さんのハム・ウインナーですよ。ウチのお父さんが気に入って、定期的に通販してるんですよ。」
あぁ、あったねぇ。
大多喜街道を歩いた時だっけ?


「南さんて笑い上戸なのよ。私達と呑んでいる時は、ずっとニコニコしながら楽しい事だけ喋っているの。愚痴とか悪口とか絶対言わないの。こういう酔い方が出来る人はいいね。」
「お姉ちゃんも見習うべきでは?」
「私は酔う前に寝ちゃうから。家でもたまに、お正月とか飲むけど直ぐ寝室に篭っちゃうでしょ。」
「お父さんが、せっかく大人になったのに、お姉ちゃんと飲めないってぷつぷつ言ってるよ。」

「なので先生。理沙との縁談が正式に進んだら、お父さんの世話もお願いしますね。」
「へ?僕?」
「多分、うちの父とは気が合うと思いますので。」
「あぁ、ウチの社長はジジ転がしババ転がしだからね。」
「理沙、お父さんもお母さんも、まだ50代ですよ。お年寄り扱いしたら可哀想です。」
「少なくとも、お母さんはもう社長に丸め込まれているわよ。早く正式に挨拶に来ないかしらってソワソワしてる。」
「理沙くん。それに対して、僕はどう返事したらいいのかわからないよ。」
「大丈夫。社長はお母さんの中ではとっくに私の旦那様だから。」


でなければ、避妊はちゃんとしなさいとか、お姉ちゃんには良い人居ないのかしらねぇとか、私に言わないでしょ。
出来れば私が還暦迎えた後に、お婆ちゃんになりたいのよ、子作りはあと3年我慢してね、とか。
…お姉ちゃんにも、言えないけど。


「あはは。理沙ちゃんって言いましたか。先生のお嫁さん。」
「まだ目指せ!お嫁さんなんですけどね。」
「僕の前で言われてもなぁ。」
「ほら、社長は否定もしないし、別に困らないし。」
「先生。改めて理沙をお願いしますね。」
「葛城くん。そんな他所様の家でお願いされてもねぇ。」
「お願いしますね。」
「お願いしますね。」
「お願いしますね。」

私とお姉ちゃんと、南さんのお母さんのジェットストリームアタックだ。

「あのねぇ。」

ところで、南さんの家で1番美味しいおかずは、胡瓜のお漬物でした。
なんだろう。
皮はパリッとしているのに、肉はしっかり浸かっていて柔らかい。
なのに青臭く無くて甘いの。
しかも、おかか醤油をかけると、その肉の厚みと甘さが良い感じ。

ご飯も甘くて美味しいし、本当にお漬物だけで1食満足して、お腹いっぱいに出来る。

「社長のところのご飯もお漬物も美味しいですけど、こちらのご飯も美味しいですね。」
「僕のウチのは、単にブランド米なだけだよ。茨城の農家さんでご馳走になった自主流通米が美味しくて、分けてもらった事があるけど、どうしても家ではその思い出が再現出来なかった。あれは水とか火加減とかが、ウチの直火炊きジャーじゃ再現出来ないんだろう。漬物は祖母から受け継いだ糠床を母が育てているだけだよ。」 
 
「………お姉ちゃん、この家に嫁に行くプレッシャーを思い知れ。」
「私はスーパーのお惣菜で満足してくれる男を探すわ。」

★  ★  ★

南さん親子にはお酒が入り、さすがに若葉マークのお母さんにワーゲンバスで送ってもらうには気が引けるのです(何しろ近隣駅は、遠い遠い東武線の川間か幸手だ。それぞれ違う路線だし)、タクシーを呼んで貰いました。
長距離だよ(経費をここで高額消費じゃぁ)と一言追加したら、靴を履いて、玄関先でぺこぺこ頭を下げあっていたら、来ちゃいました。

「先生、お嫁さんと一緒にまた来てね。」

「ギャハハ。」

「…あと、ウチのバカ娘にお婿さんを探して来てね。」
「すみません。急にお邪魔しちゃって。」
「こちらこそ、仕事があったんでしょう?ウチの宿六が全部台無しにしちゃって、ごめんなさい。」

どうも私達の周りの女性はパワフルが過ぎる様だ。

で、私達はホワイト餃子に寄って、お持ち帰り餃子をたんまり買って、そのまんま事務所にタクシーで帰りました。

…なんだったんだ?今月の脇街道。

………

待ってました!
社長の炒飯!
(テレビ画面越しに)周富徳から教わったという富徳炒飯は、ネギと塩胡椒だけで味付けをするシンプルイズベストな炒飯。
また、香付けの胡麻油だのお醤油だのが、地方の名産地を使っているから、さっき(昨日)まであれだけ身近に感じていた日本最大手の醤油屋なんか、ペペペのペィなんだこれがまた。

いや、100均の謎メーカー調味料でもナントカしちゃうのも社長だけど。

「ええと、1個1個剥がして行くのがコツ、と。」

ホワイト餃子のHPを見ながら、お姉ちゃんは鉄板と菜箸をこにゃくにゃやっている。
聞き覚えのない形容詞は、画面見て鉄板見て冷凍餃子を見るお姉ちゃんの視線と右手が落ち着かない様子を表現してみた。

でも、私もお姉ちゃんも、1から10までレシピ通りに作る人なので、(煮焼の時間を間違えなければ)失敗する事はほぼ無い。
きちんと出来る料理に、オリジナリティが無いとか、つまらないとか言う男は、早稲田卒の才女で、黒髪ロングのお美人さんの夫になる資格はないのだ。

あと、私は、私の作る料理に社長は文句を言った事など無いので、私の夫たる資格はあるのだ。
むしろ、亭主の方が美味い料理を作る私の方に問題があるわけだけど、黙れ黙れ!
 
というわけで、私は水餃子を作ってます。
スーパーで買って来た、生餃子です。
この家で餃子パーティといえば、「皮から作る」(皮を買って来るのでは無く)のが普通な変人だらけの餃子大会になるけど、今日はこれで勘弁してやろう!なのですよ。

「今日は夕方から編集部に顔を出す予定だったけど、もうどうでもいいわ。」

正気のお姉ちゃんは、普通に真面目な人の筈ですが、この事務所に来るとどうでも良くなるみたい。
 
「ちぃ」

ほら、ヒロが呆れてる。
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