瑞稀の季節

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御成街道

猿岩石的に

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待ち合わせ場所のファミマに到着。
残念ながら駐車場が狭い。くそ！
店舗に対して垂直に停めるしかない上、おまけにお昼が近いから既に数台先客がいる。
おかげで駐車場の中で切返しが出来ない。

「ちょっと待っててね。ハザード炊いててね。」

私があたふたしているのを見て、お姉ちゃんが直ぐに車を降りた。　
髪の長いお美人さんが、若葉マークを指差して「ごめんない」ポーズをするので、後続車が待ってくれてるんだ。
くそっ！女として差を見せつけられたぞ。

でもおかげで駐車場にお尻から突っ込むことが出来た。
お姉ちゃんが右手を胸に当てて、淑女風に会釈をすると、ピピっと軽くクラクションを鳴らして後続車達は去って行った。
ありがとう後続車。
その女を変にナンパとかしないでくれてありがとう後続車。
仮にそんな事になったら、私は（お姉ちゃんの貞操ではなく）貴方達の身の安全が保証出来ません。

もう少し発想が柔軟だったら警察官になってた武芸百般な、変なスキルが満載の姉です。
高校時代から習っている日本拳法で日本一になった事があります。
時折悪魔の笑みを浮かべるには、それだけの根拠と自信があります。

因みに柔軟な発想とは、早稲田時代に警察官試験のテキストを見ていて、「暗号問題」が何一つ出来なかったからです。

「せっかく公務員になるのならキャリアじゃ無いとつまらないでしょ。だからやめました。」

確かに早稲田からは結構、国家公務員試験に合格してるけどさぁ。

因みにウチの社長は、ひたすら0と1が並ぶ問題の一つを見て、
「ん？これただの2進法じゃん。」
って瞬時に解答を導き出してました。
ウチの社長は、暗号解読だけに関して言えば、警察庁のキャリア組並みの能力持ちのようだ。

そんなウチの社長を間違えてもお姉ちゃんの人身御供には出来ません。
親子揃って、肉親（私達という予定者含む）に心を壊されたら、お義母さんに合わせる顔がありません。

なんてことはおくびにも出しませんよ。
私達がハーレー爺ちゃんの孫娘で、大型特殊免許皆伝父ちゃんの娘である事に、理由はあるんです。
まだ18なのに一生懸命社長を口説いているのは、社長が陰キャで趣味人だから、私のDNAに刷り込まれていそうな葛城家遺伝子をさっさと薄めてくれそうだからなのよ。
あぁ、なんか何言ってるのか、自分でわからなくなってるよ。

でもまぁ出来ればさっさと子供を産んで…って、お姉ちゃんがニコニコ笑いながら窓を叩いてるよう。
怖いよう。
仕方ない。
出ますか。

………

「ま、駐車場に停まって何も買わないのもあり得ないよね。」
「先生は今どの辺なの？」

そういえばそうだ。
社長のご両親話に夢中になってて、社長の存在をすっかり忘れてた。←おい。
私は慌ててイマドコアプリを起動させる。

「ええと、新京成の踏切渡ったとこだね。あと15分くらいで来るかな？」
「そっか。」

お姉ちゃんは左手首に嵌まる時計を見る。
お姉ちゃんの腕時計は、カシオの電波ソーラー。それも男性向けのゴッツイの。
大体12,000円也。
今でこそ女性らしく手首の内側に、それでもやたら大きな文字盤をつけているけど、学生時代は同じくカシオの真っ黒なGSHOCKを外向きにつけてた「漢」だった。

「カシオが安くて丈夫で狂わないのよ。人と会う事が多い仕事だからね。時間時刻は大切。」
「そんな時計してて、男に縁がないって言われてもねぇ。」
「大丈夫よ。裏拳や掌底が間違えて相手の顔面に当てるくらいだから。」
「何が大丈夫なのかわからない、わかりたくないけど、せめて当てるじゃなくて、当たるって言おうよ。」

因みに私の時計はシチズンのいかにも女性向きピンク。
誕生日に社長にプレゼントしてもらったものだ。

「バーゲン品だから、外箱だけもの凄く立派にしてみました。」
「女性へのプレゼントにバーゲン品を買うなよ。…でも社長、ありがと。」

その後、御礼に感激のベロチューをしたかしてないかは内緒。（ヒント・した）

因みにこの時計、後でHPで調べたらシチズン・クロスシー、値段90,000円也。つまり税込みほぼ100,000円じゃねぇか。
こんなエンドモデル、バーゲン品に出るかい！
まったくもう。
まったくもう。
どうして社長は他人の為にばかりお金を使うんだよ！
ってどうしてか知ってるから、お粗末ながら私が付いているんだけどね。

それにだいたい、社長の時計、Q&Qだぞ。
今時デジタル時計だぞ。
中学生じゃないんだぞ。

「いや、中学に上がる時に学生服を近所の用品店で予約した時に景品で貰ったから、小6から使ってるよ。何回電池を交換したかな？今じゃ自分でできるよ。」
「ウガー！」

思わず手首を甘噛みしたぞ。

「小指でなくて良かった。」
「はい？」
「あれあれ。理沙くんには通用しなかったか、伊東ゆかりって言ってね。」
「それより今、何気にどすけべワードが隠れてましたよ。」
「僕も言ってて気がついたけど、せっかく流した交通事故を、それも下ネタを女子高生が拾わないで下さい。」

…とんでもない馬鹿な記憶が浮かび上がって来ちゃった。
閑話休題（それはともかく）。
私達は、高給取りほど、安い腕時計をつけている。
カバンも靴も、別に特に高級品じゃないし（社長のカバンはライトオンだぞ。下着はしまむらのワゴン品だぞ。。ユニクロなら柄が無くなるぞ）、高級ホテルで飛び込みで入ったら、お断りされるだろう。
スイートで何泊も豪遊出来る金はあるんだぞ。（多分経費で落とせるし）
…なんとも情け無い一行だ。

……….

「お疲れ様。」
お疲れ様なのは社長の方だと思うけど、出迎えた私達に対し先ず口を開いたのは社長だった。

「お疲れ様です。」
「体力的に問題はないですか？」

駐車場を利用させて貰ったのは良いけど、さっきのローソンで飲食物は購入済。
で、タオルとかアメニティーものを補給した。　
社長にハンドタオルを渡したけど、3月にしては気温低めな今日なので汗はかいて無いみたい。
そのままカバンに仕舞われた。

「藤崎古道はこの直ぐ先のようですね。時刻が時刻ですし、あまり駐車場を使うわけにも行きませんから、早速行きましょう。」
お姉ちゃんが急かそうとするのを止めて、社長は店内に入って行った。

「あれ。何か買い足りないものあったかな？」
「お手洗いじゃないかな？」

馬鹿姉妹が後を追おうともせず首を傾げていると、直ぐ店長らしきと一緒に出て来た。

「30分くらいで戻りますね。」
「わかりました。それまでに用意しておきます。」

呆れ半分、多少浮かれ気味で店長っぽい人が店内ではなく店の脇から裏に入って行った。

「さて、行こうか。」
「社長、何しに行ったんですか？」
「ん？ただ停めっぱなしってのも申し訳ないから、軽くて日持ちのする不良在庫が有れば100,000円くらいなら引き取るよって交換条件を出した。」
「……とうとう駐車場代が100,000円を越えちゃった。」
「あの、さすがに当社でご負担は無理ですよ。」
「ていうか、社長。ウチでも経費になりません。」
「僕のポケットマネーで払うから。」
「それはいずれ、私のお財布にもなるんですからね。」
「それまでにまた増やしとくよ。」

あぁ。
お姉ちゃんがまた呆れてる。

★ ★ ★

藤崎古道はほんの数十メートルだけ残る台地の坂に取り付いた木製階段だった。
私の検索では辿り着けなかった場所なので、社長のスマホの資料を読み込む事にする。

「家康が、藤の花が綺麗に咲いているのを見て''藤咲“という地名をつけた。だって。」
「また随分と安直につけましたねぇ。」
「地名なんかそんなもんだよ。地形や植生や伝説をそのまんまつけた。逆に言えば、土地の人以外にもわかりやすく、想像し易しいだろう。」
「ふぅん。」
「確か葛城も葛（クズ）の木から来てる筈だ。」
「社長、あまり語感が良くないです。」
「葛は食物にも薬にも道具にもなる万能植物だぞ。」

例によって始まる社長の無駄知識講座。
というか、葛城の語源を知っているんだ。
なんか嬉しいな。

………

「さて、今日はここで終わりです。」
「先生、まだお昼前ですが？」
「この先は明治陸軍と自衛隊が開発に入っていて、真っ直ぐな道路以外残って無いんだよ。だから司馬遼太郎の引き出しになるんだ。僕1人ならこのまま歩けるところまで歩くけど、君達をほったらかしにするから。」

あぁそうか。
逆に言えば、今後私が付いて行くと社長の行動に制限をかける事にもなるわけだ。
これも反省点の一つだね。

「という訳で、ここからは猿岩石状態になります。飛行機ならぬ我が愛車で次なるポイントにひとっ飛びです。」

「？」
「？」

「社長、その猿岩石ってなんですか？」

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