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花嫁修行
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「じゃあね。お客さん来たから行くよ。」
「くぅ」
聞き分けの良い穴熊くんは、それだけで犬小屋に帰ってくれる。
「……兄さん、あの仔本当に飼ってないの?」
「首輪も飼い紐もついてないだろ。ついでに僕は餌もあげてない。元はお隣のお寺の縁の下に巣を作っていたのがウチによく来るようになっただけ。」
瑞穂くんが餌をあげてるかもしれないけど。
「ふぅん。」
「さて、母さんがおかしくなる前にフォローに入るか。」
「ちょっと?瑞穂がまだ服を着てないかもよ?」
「その為に、この家には襖がたくさんあるだろ(襖で仕切っていても覗きに来るんだけどさ。ウチに出入りする女子達は)。」
「なんか言った?」
「なぁんにも。」
………
さて、僕が暑いのに庭に居た理由に届け物があったからだ。
一応、冠木門を半分開けて庭に居る僕が見えるようにしていたのに、宅配便の配達員は門の外に(祖父が)備え付けた宅配ボックスに置き配して行っちゃったので取りに行かないと。
やれやれ、面倒くさい。
「よっと。」
「なにそれ?」
「知り合いからのお届け物。あ、門を閉めてくれるか。閉めたらセコムるから。」
「はいはい。」
因みにこの宅配ボックス、冷凍・冷蔵機能付き。
お値段、だいたい8マンエン。
高けぇ。
瑞穂くんの暇つぶし用漫画やDVDの馬鹿買いの嵐が一通り済んだし、荷物を送るくらいなら直接持って来る人ばかりなので必要無いかと思ったのに。
「うちの婆さんが、農協絡みの野菜を産地直送したいんだと。」
「瑞穂くんが留守番してるはずですが?」
「二輪で出掛けたり良玄寺の娘と買い物に出たりするらしいぞ。再配達に間に合うようにスケジュールを立てているって聞いたからよ。」
「……まぁ、昼間1人っきりにしていますから、気にはしてましたけど。」
「あっはっはっはっ、余計な心配だぞ光。女は強い!」
「言い切るのもどうかと。」
「って、婆さんが言ってた。」
「…言い返せないじゃないですか。」
と言う事で買い足したそうな。
何してんの?我が家。
荷物を縁側から廊下に乗せて、母を呼ぶ。
ピーちゃんを肩に乗せた母を呼ぶ。
窓が開けっ放しでも、ピーちゃんは逃げようとしない。
母の耳たぶを甘噛みして甘えている。
「大丈夫かな?」
「瑞穂さんなら、寝ちゃっているわ。寝るなら何か着なさいって言ったんだけどねぇ。」
つまりは全裸で寝てんのかよ。
「お義父さんから話は聞いているわ。かなりキツい稽古をしてるんだって?」
「本人の希望ですよ。瑞穂くんは体力なら多分、僕よりあるけど、瑞穂くんの剣道だと1時間は動きっぱなしになるから。」
ガス欠にもなりますな。
さてと、荷物の中身は?
わぁ、明太子だ。
それに飛魚の干物か、これは焼いて食べても、「あご出汁」にしても良い。
ご近所スーパーには売っているの見た事ない。
あははは。うまかっちゃんとニワカ煎餅まで入ってる。
福岡名物が勢揃いだ。
「あら、美味しそうね。」
「瑞稀さんが今福岡に行ってますから。この間、お婆ちゃんちの茄子とか夏野菜を送ったんですけど、そのお返しですね。」
瑞稀さんとは、うちの両親の仲人。
両親が知り合った学校で教頭先生を務めていたとか。
普通、親の仲人と交流のある長男が日本のどこに居るんだって話だけど、我が家は普通じゃない。
いや、単にお隣(良玄寺)さんの引退された前住職とお知り合いとかで。
あと、我が家の菩提寺がお隣さんな繋がりがあるみたい。
だからって、仲人をした夫婦の長男と仲良くなるかね。
まぁ良いや。
「んじゃ、明太子パスタでも作りますかね。」
「瑞穂さんは良いの?」
「2~30分も寝て、美味しそうな匂いがすれば起きてきますよ。…多分、全裸で…。」
「若いわねぇ。私もお父さんも土日は8時過ぎまで寝てるわよ。」
「定年が近いんだから、寝れる時は寝た方が良いよ。爺ちゃんなんか時々来るけど、ただ昼寝だけして帰るし。」
「その間、私が起きても朝ご飯無いのよ!雨戸開けたらお腹空いてやる事なくて、仕方なくチビの散歩行って。チビは良いわね。ご飯があるんだもん。」
「自分で作れば良いじゃん。」
「だ・か・ら。カップ麺にお湯を注ぐしか出来ない私なんです!」
威張られてもなぁ。
「我が家が朝からきちんとご飯を炊くとか、兄さんの良くない慣習が残っているから、ジャーは空っぽだし。」
「それは僕のせいなのかな。」
「パンをトースト出来ても、目玉焼き1つ作れなかった時は、自分に絶望したわい。」
それこそ、知らんがな。
★ ★ ★
「それじゃ、パセリと紫蘇かな。パセリは私が育てているから取って来るね。」
「あぁ母さん。青紫蘇なら池の周りに生えてるよ。」
「了解。」
明太子パスタのレシピを確認した母は、身軽に庭に飛び出して行った。
何しろウチの廊下は長いし玄関も遠いので、ガレージを造った時の廃材で大工さんが上がり框をずらっと並べてある。
元が農家だから、縁の下が高いんだよね。
風通しがいいから、畳が湿気ないと言うメリットはあるけど、上り下りが面倒くさいと言うデメリットもある。
僕や瑞穂くんは、たったか飛び跳ねているけど、後期高齢者の祖父が面倒くさがるのです。
…さっきから何回「面倒くさい」って言ったかなぁ。
母もアラフィフだから、そんなに無理はしないで欲しいんだけど、何しろ実の娘(妹)より義理(予定)の娘(瑞穂くん)が可愛くて仕方ないのと、オカメインコと穴熊におやつをあげたくて、駅からのあの階段を大喜びで登ってくる人なんですな。
ウチの一族はもう、もう。
母は嫁に来た筈だから、祖父に流れる血は受け継いでいない筈。
なのに、何このバイタリティは。
………
ええと。
パスタはこの引き出しに、あったあった。
4人居るから大鍋にボッチャン。
「兄さん、私にも教えなさい。」
「何故に命令系?」
「ピーチャン?」
「私が死なない為です。」
やれやれ。パスタだよ?茹でればできるよ?
インスタントラーメンと同じだよ。
「それじゃ、明太子の皮を剥いてくれ。」
「……………………、どうやって?」
沈黙が長い。
「包丁で一筋ピッと切れ目を入れて、スプーンでこそげは剥がれるよ。」
「………明太子が真っ二つになりましたわ、お兄様。」
「お兄様はやめなさい。」
あと、ピーちゃん。
危ないから妹から離れなさい。
「ピ?」
「ついでに言っておくと、この明太子、一箱で一万円を超えるから。」
「え''」
あ、妹が凍った。
「くぅ」
聞き分けの良い穴熊くんは、それだけで犬小屋に帰ってくれる。
「……兄さん、あの仔本当に飼ってないの?」
「首輪も飼い紐もついてないだろ。ついでに僕は餌もあげてない。元はお隣のお寺の縁の下に巣を作っていたのがウチによく来るようになっただけ。」
瑞穂くんが餌をあげてるかもしれないけど。
「ふぅん。」
「さて、母さんがおかしくなる前にフォローに入るか。」
「ちょっと?瑞穂がまだ服を着てないかもよ?」
「その為に、この家には襖がたくさんあるだろ(襖で仕切っていても覗きに来るんだけどさ。ウチに出入りする女子達は)。」
「なんか言った?」
「なぁんにも。」
………
さて、僕が暑いのに庭に居た理由に届け物があったからだ。
一応、冠木門を半分開けて庭に居る僕が見えるようにしていたのに、宅配便の配達員は門の外に(祖父が)備え付けた宅配ボックスに置き配して行っちゃったので取りに行かないと。
やれやれ、面倒くさい。
「よっと。」
「なにそれ?」
「知り合いからのお届け物。あ、門を閉めてくれるか。閉めたらセコムるから。」
「はいはい。」
因みにこの宅配ボックス、冷凍・冷蔵機能付き。
お値段、だいたい8マンエン。
高けぇ。
瑞穂くんの暇つぶし用漫画やDVDの馬鹿買いの嵐が一通り済んだし、荷物を送るくらいなら直接持って来る人ばかりなので必要無いかと思ったのに。
「うちの婆さんが、農協絡みの野菜を産地直送したいんだと。」
「瑞穂くんが留守番してるはずですが?」
「二輪で出掛けたり良玄寺の娘と買い物に出たりするらしいぞ。再配達に間に合うようにスケジュールを立てているって聞いたからよ。」
「……まぁ、昼間1人っきりにしていますから、気にはしてましたけど。」
「あっはっはっはっ、余計な心配だぞ光。女は強い!」
「言い切るのもどうかと。」
「って、婆さんが言ってた。」
「…言い返せないじゃないですか。」
と言う事で買い足したそうな。
何してんの?我が家。
荷物を縁側から廊下に乗せて、母を呼ぶ。
ピーちゃんを肩に乗せた母を呼ぶ。
窓が開けっ放しでも、ピーちゃんは逃げようとしない。
母の耳たぶを甘噛みして甘えている。
「大丈夫かな?」
「瑞穂さんなら、寝ちゃっているわ。寝るなら何か着なさいって言ったんだけどねぇ。」
つまりは全裸で寝てんのかよ。
「お義父さんから話は聞いているわ。かなりキツい稽古をしてるんだって?」
「本人の希望ですよ。瑞穂くんは体力なら多分、僕よりあるけど、瑞穂くんの剣道だと1時間は動きっぱなしになるから。」
ガス欠にもなりますな。
さてと、荷物の中身は?
わぁ、明太子だ。
それに飛魚の干物か、これは焼いて食べても、「あご出汁」にしても良い。
ご近所スーパーには売っているの見た事ない。
あははは。うまかっちゃんとニワカ煎餅まで入ってる。
福岡名物が勢揃いだ。
「あら、美味しそうね。」
「瑞稀さんが今福岡に行ってますから。この間、お婆ちゃんちの茄子とか夏野菜を送ったんですけど、そのお返しですね。」
瑞稀さんとは、うちの両親の仲人。
両親が知り合った学校で教頭先生を務めていたとか。
普通、親の仲人と交流のある長男が日本のどこに居るんだって話だけど、我が家は普通じゃない。
いや、単にお隣(良玄寺)さんの引退された前住職とお知り合いとかで。
あと、我が家の菩提寺がお隣さんな繋がりがあるみたい。
だからって、仲人をした夫婦の長男と仲良くなるかね。
まぁ良いや。
「んじゃ、明太子パスタでも作りますかね。」
「瑞穂さんは良いの?」
「2~30分も寝て、美味しそうな匂いがすれば起きてきますよ。…多分、全裸で…。」
「若いわねぇ。私もお父さんも土日は8時過ぎまで寝てるわよ。」
「定年が近いんだから、寝れる時は寝た方が良いよ。爺ちゃんなんか時々来るけど、ただ昼寝だけして帰るし。」
「その間、私が起きても朝ご飯無いのよ!雨戸開けたらお腹空いてやる事なくて、仕方なくチビの散歩行って。チビは良いわね。ご飯があるんだもん。」
「自分で作れば良いじゃん。」
「だ・か・ら。カップ麺にお湯を注ぐしか出来ない私なんです!」
威張られてもなぁ。
「我が家が朝からきちんとご飯を炊くとか、兄さんの良くない慣習が残っているから、ジャーは空っぽだし。」
「それは僕のせいなのかな。」
「パンをトースト出来ても、目玉焼き1つ作れなかった時は、自分に絶望したわい。」
それこそ、知らんがな。
★ ★ ★
「それじゃ、パセリと紫蘇かな。パセリは私が育てているから取って来るね。」
「あぁ母さん。青紫蘇なら池の周りに生えてるよ。」
「了解。」
明太子パスタのレシピを確認した母は、身軽に庭に飛び出して行った。
何しろウチの廊下は長いし玄関も遠いので、ガレージを造った時の廃材で大工さんが上がり框をずらっと並べてある。
元が農家だから、縁の下が高いんだよね。
風通しがいいから、畳が湿気ないと言うメリットはあるけど、上り下りが面倒くさいと言うデメリットもある。
僕や瑞穂くんは、たったか飛び跳ねているけど、後期高齢者の祖父が面倒くさがるのです。
…さっきから何回「面倒くさい」って言ったかなぁ。
母もアラフィフだから、そんなに無理はしないで欲しいんだけど、何しろ実の娘(妹)より義理(予定)の娘(瑞穂くん)が可愛くて仕方ないのと、オカメインコと穴熊におやつをあげたくて、駅からのあの階段を大喜びで登ってくる人なんですな。
ウチの一族はもう、もう。
母は嫁に来た筈だから、祖父に流れる血は受け継いでいない筈。
なのに、何このバイタリティは。
………
ええと。
パスタはこの引き出しに、あったあった。
4人居るから大鍋にボッチャン。
「兄さん、私にも教えなさい。」
「何故に命令系?」
「ピーチャン?」
「私が死なない為です。」
やれやれ。パスタだよ?茹でればできるよ?
インスタントラーメンと同じだよ。
「それじゃ、明太子の皮を剥いてくれ。」
「……………………、どうやって?」
沈黙が長い。
「包丁で一筋ピッと切れ目を入れて、スプーンでこそげは剥がれるよ。」
「………明太子が真っ二つになりましたわ、お兄様。」
「お兄様はやめなさい。」
あと、ピーちゃん。
危ないから妹から離れなさい。
「ピ?」
「ついでに言っておくと、この明太子、一箱で一万円を超えるから。」
「え''」
あ、妹が凍った。
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