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シジミとハコベ
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「ワァ!スシ!」
居間から瑞穂くんの歓声が聞こえる。
まぁ、寿司桶に入っている物は普通寿司でしょうな。
たまに素麺が水に浸かっていたりするけど、まだ素麺の季節じゃないし。
重箱には、どうせ伊勢海老とかローストビーフとか。
僕が普段見ることも食べることもない、いつものスーパーでは売ってない食べ物が詰まっているに違いない。
そりゃ高級ホテルの一流料理人が作る料理ですから、美味しくない筈がないですよ。
僕のお腹が空いていれば、僕もそこにいるけど。まだ無理です。
というか、まだ食うか瑞穂くん。
君、帰りの車で動けなくなって、ガレージから玄関まで僕がおぶって行った事を忘れたか?
女の子1人おんぶしながら、セコム解除して穴熊くんにぴょんぴょん飛びつかれて、玄関の鍵を開ける苦行がどれだけきつかったか。
なまじ広いだけに、歩いても歩いてもつかないし。
背中じゃ、瑞穂くんがえずいてるし。
あぁ、ピーちゃんが呆れて近よりゃしない。
いつもなら不器用に飛んで迎えてくれるのに。
そんな駄目少女をソファに降ろしてあげて、胃薬をあげた時。
「なんでヒカリはヘイキなの?」
って聞きやがりましたな。
僕は馬鹿喰いしなかっただけだぞ。
あと、快食快便様が僕には憑依しているから、迂闊に胃薬なんか飲もうものなら、明日便秘になること。
堅い◯んちで穴が痛くなることが、わかっているからさ。
と言う事で、僕は1人台所に立つ事にする。
食べ物なんて、見てるだけで吐きそうだもん。
………
シジミはアサリほど砂は出ないと聞いていたけど、1日経てばそれなりにはやっぱり出ているね。
砂抜きは要らないって聞いたけど、あれは嘘か。
このシジミはそのまんま水と一緒に鍋にイン!
ほらほら、茹だって来たらシジミの口がパカって開くよ。
同時にアクが浮いてくるので、おたまで丁寧に掬い取ります。
「ピーチャン」
あれ?ピーちゃんが飛んできた。
無理矢理体当たりしてきた。
肩によじ登ってきた。
瑞穂くんとじいちゃんは、あっちの部屋だよ?
「どうしたの?」
「ぎゅる。」
「あぁ、大丈夫だよ。僕だけ働いてて心配してくれてるのかな。」
「ぎゅるぎゅる。」
「ありがとな。」
(僕が好きで食べてる)ペヤングの空き容器に、こないだピーちゃんが食べ散らかた豆苗の根っこを浸けといた物が、また生え揃ってきたので、こちらを君に贈答しよう。
「ぎゅる!」
この仔は僕らと一緒に何かする事が大好きで、例えば僕がご飯を作っていると、僕の肩に乗って来て僕の手元を熱心に覗き込むし、僕らがご飯を食べていると、お腹が減っていようがいまいが必ず食卓に鎮座ましましている。
一応、瑞穂くんのそばにいるので、自分の主人が瑞穂くんな認識はきちんとあるんだろう。
ただし、さすがに人間が食べているものをオカメインコにあげる訳にはいかないので、こんな豆苗とか、料理のネタが絞られそうな小松菜の残りをあげている。
ピーちゃん的には僕らの真似が出来ればそれで良いらしく、ある程度食べればOKらしい。
食べ終わったら、瑞穂くんの肩によじ登って行く。
箸やお茶碗を持ちながらピーちゃんを登らせる瑞穂くんは、まるでピーちゃんのお母さんだ。
豆苗は水栽培で勝手に増えるけど、小松菜だの水菜だのは、そうそう食べないので瑞穂くんが買って来ても始末に困るのですよ。
小松菜って、なんに使うんだ?
おひたし?炒め物?お漬物?
食べ方わからないから、冷蔵庫の中で溶けちゃうんですよ。
などなど悩んでいた昨日の事。
いつものように、週末の家庭菜園の手入れに電車賃を使ってわざわざ実家から来た母が、ハコベの種を買って来て、菜園に植えてましたんですよ。
種なんか売ってんだ。
「光、春の七草は言える?」
「ええと、セリナズナゴギョウハコベラ…。」
「はい、ストップ。ハコベラがハコベよ。雑草じゃなくて野草なの。食べられるの。だから栽培もします。」
「ふぅん。」
あ、瑞穂くんが種の袋見て、首傾げてる。
「?」
「瑞穂ちゃんにはわからないかな。」
「スペインに七草粥を食べる風習はないでしょうし、そもそも材料が揃いそうにないよ。」
「それもそうか。」
で、庭の「私ゾーン」と名付けられた菜園でハコベを植えてました。
母が。
ウチの庭は無闇に広いし、南側は崖上だから、とにかく陽当たりはいいんだよ。
夏になったら穴熊くん、どうするんだろ。
「私ゾーン」は、穴熊くんが入らないようになんとフェンスで囲ってます。
勿論、こんな無駄遣いと無意味な事をしたのは祖父です。
だって塀の外は、一面ウチの畑(耕直さないとダメだけど)だもん。
高い金出して金属フェンスを建てる家庭菜園がどこの世界にある?
母は、その耕していない広大な畑を歩き回って、自生しているハコベを山ほど採って来てピーちゃんにプレゼントしてました。
ウチの敷地内に生えてるなら、わざわざ育てる必要ないじゃん。
とは、言えませんよ。
両親(と妹)には逆らわないんです。
………
「あ、沸いた。」
鍋からはアクが出なくなったので、醤油と調理酒を加えて、あと隠し味に味醂を少々。
これでアルコール分が抜けるまで一煮立ち。
祖父も後藤さん達も多分車で来てるだろうし、警察関係者を酒気帯び運転で帰すわけにいかないし、何より僕が「すまし汁」を美味しく食べられない。
「ピーチャン」
「あ、こらこら。」
「チー!」
「そら、熱いだろう。」
おたまでお椀によそっているところにピーちゃんが顔を出して来た。
飛び跳ねが1滴、顔に当たって目を白黒してる。
まったくこの仔は、本当に好奇心旺盛だな。
★ ★ ★
うわぁ。
すまし汁をお盆に乗せて(ピーちゃんを頭に乗せて)戻ると、2つあった巨大な寿司桶が殆ど空になってる。
僅かに残っている赤身とか卵焼きとか、多分普段僕が食べてる寿司弁当より美味しいんだろうなぁ。
そう言えば、この街には回転寿司なるものがない。
大学周りは県都で栄えているけど、回転しない寿司しかない。
気軽に寿司を外食できる環境じゃないな。
回転してもしなくても、お寿司屋さんに瑞穂くんを連れて行かないと、周りの大人たちに叱られそうだ。
やれやれ。
「光さん。海老の殻はこちらだとどうなるのかしら。」
祖母が伊勢海老の頭と尻尾を別皿に分けてくれていた。
「ウチの方だと生ゴミと一緒に出来ないのよ。カルシウム分が処理場を傷めるからって。」
うむ。
さすがは長年に渡って主婦をしているだけはある。
瑞穂くんは、ええと。
あぁ、やっぱり食べ過ぎてひっくり返ってる。
「ウチはオーブンでカチカチに焼いて、ミルで粉々にします。母が肥料にするんですよ。」
「あら、お母さんたら節約ママでしたか。」
「生物の教師だからかどうかは知りませんけど、実家の花壇や菜園にはそうしてますよ。卵の殻とか栄螺の殻とか。」
「それじゃ、このままにしておいて良い?」
「ええ。この家だと好きな事が出来るスペースがありますからね。Amazonでコンポストを買い足してますよ。わざわざ受け取り日時を指定して、実家からやって来てます。」
更に僕が(僕が学校に行っている間は、瑞穂くんとお隣さんが)、庭掃除で出た落ち葉や生ゴミを集めているので、定期的に腐葉土が作られる。
コンポストがいっぱいになると新しいコンポストを買い足すので、庭の隅っこには様々なコンポストが並んでいる。
変な庭だ。
「旨え。この汁っ子、相馬が作ったのか?」
はい、ゴリラにすまし汁を賞賛されました。
「お味噌汁でなく、おすましをちゃっちゃと作っちゃうって、師匠やっぱり女子力高いわぁ。……ワタシより…。」
なんか旧姓水野さんに恨めしそうな顔されましたけど、見てないふりします。
毎日、お隣さんに同じ顔されてるから。
「卵の殻か。昔、ウチの畑でも蒔いてたな。」
「あら今更気がつきました?カルシウムを畑の土に混ぜると、作物の根つきが良くなるんですよ?」
「あぁ済まん婆さん。俺は警察に居放しで畑の方はトラクターかけるだけだったしな。」
「お義父さんから農協の切符を受け継いだから、形の上だけですけど農家だったんですよ。私。」
農協の切符?
「あぁ、資格証の事だ。一応入会資格があるらしいが、死んだ親父が全部整えてたみたいだな。まぁ、種だの肥料だの以外は警察の共済の方が便利だったからよ。」
「なんか、じいちゃんとばあちゃん、結構好き放題してたんだね。」
「だから、この歳まで保っているのよ。お互いの領域は大切にしなさいね。あなた達。」
「は、はい。」
旧姓水野さんが居住まいを正したけど、ゴリラの方はげんなりして、僕のワイシャツを引っ張っている。
「なぁ、お前はどう思う?」
「…僕の許嫁とやらは、食うだけ食ってひっくり返っている自由人ですから。」
ピーちゃんが呆れたのか、瑞穂くんの髪を引っ張る遊びを始めて、おのれの飼い主に悲鳴を上げさせてますけど。
「鶏飼うか。」
「なんですか、唐突に。」
シジミの中身まで丁寧に食べて、殻を伊勢海老と一緒に几帳面に集めていた祖父がボソッと言った。
この破天荒な祖父は、こう言った掃除や身繕いがとても丁寧だ。
多分、祖母の薫陶だろう。
僕も瑞穂くんを、そう育てないとならないのだろうか?
「あの、いくら元農家の古家とはいえ、鶏小屋作れる程スペースないですよ?」
引っ越して来て3ヶ月。
僕と祖父と母で結構いじってしまったし、祖父は更に池の水を循環させる為に水路を庭に掘るって言ってるし。
なんかその方が、夏場の極端な気温上昇が抑えられるらしい。
そう言えば祖父の家は、庭の左右隅に池を掘って、水路で繋いでいたな。
あれ、水路はきちんと流れていたけど、どうやってんだ?
「西側の立木を斬っちまえば、なんとでもなんだろう。」
「え?あの木って、前の農家さんが意味が合って植えたんじゃないんですか?」
「ただの日除け風除けだよ。昔のガラスはペラッペラだったからな。永く日に当たれば劣化するし、そんなガラスは強い風が吹くだけで割れたんだ。」
「はぁ。」
「世話は瑞穂にでもさせとけ。どうせ昼間はぐうたらしてんだろ。」
バレてるぞ、瑞穂くん。
「まぁ、全部は夏が終わってからだ。先ずはスペインの方を片付けないとな。」
「はぁぁぁ。」
本当に面倒くさい。
居間から瑞穂くんの歓声が聞こえる。
まぁ、寿司桶に入っている物は普通寿司でしょうな。
たまに素麺が水に浸かっていたりするけど、まだ素麺の季節じゃないし。
重箱には、どうせ伊勢海老とかローストビーフとか。
僕が普段見ることも食べることもない、いつものスーパーでは売ってない食べ物が詰まっているに違いない。
そりゃ高級ホテルの一流料理人が作る料理ですから、美味しくない筈がないですよ。
僕のお腹が空いていれば、僕もそこにいるけど。まだ無理です。
というか、まだ食うか瑞穂くん。
君、帰りの車で動けなくなって、ガレージから玄関まで僕がおぶって行った事を忘れたか?
女の子1人おんぶしながら、セコム解除して穴熊くんにぴょんぴょん飛びつかれて、玄関の鍵を開ける苦行がどれだけきつかったか。
なまじ広いだけに、歩いても歩いてもつかないし。
背中じゃ、瑞穂くんがえずいてるし。
あぁ、ピーちゃんが呆れて近よりゃしない。
いつもなら不器用に飛んで迎えてくれるのに。
そんな駄目少女をソファに降ろしてあげて、胃薬をあげた時。
「なんでヒカリはヘイキなの?」
って聞きやがりましたな。
僕は馬鹿喰いしなかっただけだぞ。
あと、快食快便様が僕には憑依しているから、迂闊に胃薬なんか飲もうものなら、明日便秘になること。
堅い◯んちで穴が痛くなることが、わかっているからさ。
と言う事で、僕は1人台所に立つ事にする。
食べ物なんて、見てるだけで吐きそうだもん。
………
シジミはアサリほど砂は出ないと聞いていたけど、1日経てばそれなりにはやっぱり出ているね。
砂抜きは要らないって聞いたけど、あれは嘘か。
このシジミはそのまんま水と一緒に鍋にイン!
ほらほら、茹だって来たらシジミの口がパカって開くよ。
同時にアクが浮いてくるので、おたまで丁寧に掬い取ります。
「ピーチャン」
あれ?ピーちゃんが飛んできた。
無理矢理体当たりしてきた。
肩によじ登ってきた。
瑞穂くんとじいちゃんは、あっちの部屋だよ?
「どうしたの?」
「ぎゅる。」
「あぁ、大丈夫だよ。僕だけ働いてて心配してくれてるのかな。」
「ぎゅるぎゅる。」
「ありがとな。」
(僕が好きで食べてる)ペヤングの空き容器に、こないだピーちゃんが食べ散らかた豆苗の根っこを浸けといた物が、また生え揃ってきたので、こちらを君に贈答しよう。
「ぎゅる!」
この仔は僕らと一緒に何かする事が大好きで、例えば僕がご飯を作っていると、僕の肩に乗って来て僕の手元を熱心に覗き込むし、僕らがご飯を食べていると、お腹が減っていようがいまいが必ず食卓に鎮座ましましている。
一応、瑞穂くんのそばにいるので、自分の主人が瑞穂くんな認識はきちんとあるんだろう。
ただし、さすがに人間が食べているものをオカメインコにあげる訳にはいかないので、こんな豆苗とか、料理のネタが絞られそうな小松菜の残りをあげている。
ピーちゃん的には僕らの真似が出来ればそれで良いらしく、ある程度食べればOKらしい。
食べ終わったら、瑞穂くんの肩によじ登って行く。
箸やお茶碗を持ちながらピーちゃんを登らせる瑞穂くんは、まるでピーちゃんのお母さんだ。
豆苗は水栽培で勝手に増えるけど、小松菜だの水菜だのは、そうそう食べないので瑞穂くんが買って来ても始末に困るのですよ。
小松菜って、なんに使うんだ?
おひたし?炒め物?お漬物?
食べ方わからないから、冷蔵庫の中で溶けちゃうんですよ。
などなど悩んでいた昨日の事。
いつものように、週末の家庭菜園の手入れに電車賃を使ってわざわざ実家から来た母が、ハコベの種を買って来て、菜園に植えてましたんですよ。
種なんか売ってんだ。
「光、春の七草は言える?」
「ええと、セリナズナゴギョウハコベラ…。」
「はい、ストップ。ハコベラがハコベよ。雑草じゃなくて野草なの。食べられるの。だから栽培もします。」
「ふぅん。」
あ、瑞穂くんが種の袋見て、首傾げてる。
「?」
「瑞穂ちゃんにはわからないかな。」
「スペインに七草粥を食べる風習はないでしょうし、そもそも材料が揃いそうにないよ。」
「それもそうか。」
で、庭の「私ゾーン」と名付けられた菜園でハコベを植えてました。
母が。
ウチの庭は無闇に広いし、南側は崖上だから、とにかく陽当たりはいいんだよ。
夏になったら穴熊くん、どうするんだろ。
「私ゾーン」は、穴熊くんが入らないようになんとフェンスで囲ってます。
勿論、こんな無駄遣いと無意味な事をしたのは祖父です。
だって塀の外は、一面ウチの畑(耕直さないとダメだけど)だもん。
高い金出して金属フェンスを建てる家庭菜園がどこの世界にある?
母は、その耕していない広大な畑を歩き回って、自生しているハコベを山ほど採って来てピーちゃんにプレゼントしてました。
ウチの敷地内に生えてるなら、わざわざ育てる必要ないじゃん。
とは、言えませんよ。
両親(と妹)には逆らわないんです。
………
「あ、沸いた。」
鍋からはアクが出なくなったので、醤油と調理酒を加えて、あと隠し味に味醂を少々。
これでアルコール分が抜けるまで一煮立ち。
祖父も後藤さん達も多分車で来てるだろうし、警察関係者を酒気帯び運転で帰すわけにいかないし、何より僕が「すまし汁」を美味しく食べられない。
「ピーチャン」
「あ、こらこら。」
「チー!」
「そら、熱いだろう。」
おたまでお椀によそっているところにピーちゃんが顔を出して来た。
飛び跳ねが1滴、顔に当たって目を白黒してる。
まったくこの仔は、本当に好奇心旺盛だな。
★ ★ ★
うわぁ。
すまし汁をお盆に乗せて(ピーちゃんを頭に乗せて)戻ると、2つあった巨大な寿司桶が殆ど空になってる。
僅かに残っている赤身とか卵焼きとか、多分普段僕が食べてる寿司弁当より美味しいんだろうなぁ。
そう言えば、この街には回転寿司なるものがない。
大学周りは県都で栄えているけど、回転しない寿司しかない。
気軽に寿司を外食できる環境じゃないな。
回転してもしなくても、お寿司屋さんに瑞穂くんを連れて行かないと、周りの大人たちに叱られそうだ。
やれやれ。
「光さん。海老の殻はこちらだとどうなるのかしら。」
祖母が伊勢海老の頭と尻尾を別皿に分けてくれていた。
「ウチの方だと生ゴミと一緒に出来ないのよ。カルシウム分が処理場を傷めるからって。」
うむ。
さすがは長年に渡って主婦をしているだけはある。
瑞穂くんは、ええと。
あぁ、やっぱり食べ過ぎてひっくり返ってる。
「ウチはオーブンでカチカチに焼いて、ミルで粉々にします。母が肥料にするんですよ。」
「あら、お母さんたら節約ママでしたか。」
「生物の教師だからかどうかは知りませんけど、実家の花壇や菜園にはそうしてますよ。卵の殻とか栄螺の殻とか。」
「それじゃ、このままにしておいて良い?」
「ええ。この家だと好きな事が出来るスペースがありますからね。Amazonでコンポストを買い足してますよ。わざわざ受け取り日時を指定して、実家からやって来てます。」
更に僕が(僕が学校に行っている間は、瑞穂くんとお隣さんが)、庭掃除で出た落ち葉や生ゴミを集めているので、定期的に腐葉土が作られる。
コンポストがいっぱいになると新しいコンポストを買い足すので、庭の隅っこには様々なコンポストが並んでいる。
変な庭だ。
「旨え。この汁っ子、相馬が作ったのか?」
はい、ゴリラにすまし汁を賞賛されました。
「お味噌汁でなく、おすましをちゃっちゃと作っちゃうって、師匠やっぱり女子力高いわぁ。……ワタシより…。」
なんか旧姓水野さんに恨めしそうな顔されましたけど、見てないふりします。
毎日、お隣さんに同じ顔されてるから。
「卵の殻か。昔、ウチの畑でも蒔いてたな。」
「あら今更気がつきました?カルシウムを畑の土に混ぜると、作物の根つきが良くなるんですよ?」
「あぁ済まん婆さん。俺は警察に居放しで畑の方はトラクターかけるだけだったしな。」
「お義父さんから農協の切符を受け継いだから、形の上だけですけど農家だったんですよ。私。」
農協の切符?
「あぁ、資格証の事だ。一応入会資格があるらしいが、死んだ親父が全部整えてたみたいだな。まぁ、種だの肥料だの以外は警察の共済の方が便利だったからよ。」
「なんか、じいちゃんとばあちゃん、結構好き放題してたんだね。」
「だから、この歳まで保っているのよ。お互いの領域は大切にしなさいね。あなた達。」
「は、はい。」
旧姓水野さんが居住まいを正したけど、ゴリラの方はげんなりして、僕のワイシャツを引っ張っている。
「なぁ、お前はどう思う?」
「…僕の許嫁とやらは、食うだけ食ってひっくり返っている自由人ですから。」
ピーちゃんが呆れたのか、瑞穂くんの髪を引っ張る遊びを始めて、おのれの飼い主に悲鳴を上げさせてますけど。
「鶏飼うか。」
「なんですか、唐突に。」
シジミの中身まで丁寧に食べて、殻を伊勢海老と一緒に几帳面に集めていた祖父がボソッと言った。
この破天荒な祖父は、こう言った掃除や身繕いがとても丁寧だ。
多分、祖母の薫陶だろう。
僕も瑞穂くんを、そう育てないとならないのだろうか?
「あの、いくら元農家の古家とはいえ、鶏小屋作れる程スペースないですよ?」
引っ越して来て3ヶ月。
僕と祖父と母で結構いじってしまったし、祖父は更に池の水を循環させる為に水路を庭に掘るって言ってるし。
なんかその方が、夏場の極端な気温上昇が抑えられるらしい。
そう言えば祖父の家は、庭の左右隅に池を掘って、水路で繋いでいたな。
あれ、水路はきちんと流れていたけど、どうやってんだ?
「西側の立木を斬っちまえば、なんとでもなんだろう。」
「え?あの木って、前の農家さんが意味が合って植えたんじゃないんですか?」
「ただの日除け風除けだよ。昔のガラスはペラッペラだったからな。永く日に当たれば劣化するし、そんなガラスは強い風が吹くだけで割れたんだ。」
「はぁ。」
「世話は瑞穂にでもさせとけ。どうせ昼間はぐうたらしてんだろ。」
バレてるぞ、瑞穂くん。
「まぁ、全部は夏が終わってからだ。先ずはスペインの方を片付けないとな。」
「はぁぁぁ。」
本当に面倒くさい。
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