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強制送還

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「qué?qué?qué sucedió?qué me pasó?」
「perdiste」 
「mentir…」
「Esto es!Hikari!mi maestro.mi esposo」

お面(何て言うんだ?マスク?)を取って、しばらく呆然としていたマルティナさんは、僕の顔を見て、瑞穂くんの顔を見て、ようやく事態を飲み込めたらしい。
同時にパニックになった様だ。

スペイン語だから何て言ってるのかわからないけど、何か瑞穂くんが威張っているのはわかった。

「やれやれ。」
どうやら、ひと段落出来そうだ。

道場の隅に行って面を外したら、誰かに頭をどやされた。

「?」

祖父と後藤警部補と、知らないスーツ姿の女性が3人ほど、勝手に道場に上がり込んでいた。

「誰?」
「フェンシング協会の人だ。マルティナが空港から逃げ出したから、追いかけて来た。」
「いや、爺ちゃん?何故ここだとわかったの。あと、セコムしていた筈だけど。」

この家は、とにかく変な人がよく勝手に入って来る家で、マルティナさんみたいなのがまた入って来られても困るから、セットし直した筈なのに。

「マルティナの居場所は瑞穂から連絡があった。セコムは契約に俺の名前も入っているし、外し方くらい知ってる。」

なるほど、瑞穂くんは入浴方々、洗面所あたりで祖父にヘルプを求めていたのか。
…そんなにマルティナさんが嫌なんだ。

「何故、後藤さんまでいるんですか?」 
「後藤はたまたま空港機動隊に用があって来てたから、パトカーでこの人達を送らせた。」
「公私混同…。」  
「何言ってんだ。マルティナはVIP待遇の来賓だぞ。何かあったらどうする?」

僕と瑞穂くんは、そのVIP待遇の来賓に酷いことをしましたけど。

「と言う事で、マルティナ嬢は県警で保護するよ。」
すっかり呆れ果てた後藤警部補が、協会の人に指示して、フェンシング姿のままのマルティナさんを取り押さえた。
…まるで、逮捕されたみたいだ。

「ここが相馬の新居か。手入れが大変そうだな。」
「わかります?」
「俺ん家も、実家は農家だから。お前も警視監には苦労してそうだなぁ。」
「わかります?」(2度目)

「大学が始まって落ち着いたら、さっさと道場に出てこいよ。まったく俺の婚約者を籠絡しやがって。」
「それも、祖父の陰謀ですよ。」
「おかげで''相馬師匠''に負けるな!って五月蝿えんだよ。こっちは学生時代から稽古して稽古して稽古して稽古して、やっと日本一になったってのによ、相馬一族は軽々と越えて行きやがる。相馬の小さな婚約者にも勝てなかったって、水野が苦笑いしてたぞ。え?師匠様よ?」

瑞穂くんは小さくないけどなぁ。
「勘弁して下さい。瑞穂くん1人に振り回されているのに、他所様の奥様まで面倒見きれません。」



「Por favor hazme tu discípulo!」
「Rechazo」
「Quieres casarte conmigo!」
「Rechazo!!!」

何やら喚き散らしては瑞穂くんに言い返されている、マルティナさん退場。

協会の人が、
「聞かなくて良いですよ。大変ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした。」
と、ぺこりと頭を下げて帰って行った。

いや、スペイン語なんて僕にはわかりませんから。
…どうも、碌でもない事を言ってそうだけど。

「じゃあな。あ、そうそう。結婚式はお前の婚約者も出席しろよ。水野はお前らのファンになったみたいだからさ。」
無職の15歳と大学生の18歳にファンが出来ました。
何だこれ?

外に出てみると、制服を来た警官がもうお1人。
冠木門に立っていて、パトカーが外に停まっているのが見えた。
回転灯が回っているなぁ。

良玄寺と我が家しか無い、寂しい一角で良かった。
まるで我が家から逮捕者が出たみたいじゃないか。

「試合を見ていたが、フェンシング代表くらいじゃ、お前の相手にはならんか?」
「それこそインチキ技ですよ。カッチリ基礎が出来てるから崩しやすいだけです。瑞穂くんとの交流があったにせよ、マルティナさんは剣道には慣れていないでしょうし。大声出したらビビっちゃいましたし。」
「女には厳しい孫だな。」

さっき一瞬、瑞穂くんの尻に敷かれた様な気もしますが。

★  ★  ★

「フヒィ。」

朝から疲れる日だよ。もう。

道着のまま、せっかく敷いたからと人工芝に寝っ転がった。
いつのまにかチャッカリ穴熊くんが帰って来ていて、犬小屋で寝ていた。
君の家は、隣の縁の下だよ?

瑞穂くんがトテトテ歩いて来て、僕の枕元にゆっくり座った。
いや、直ぐそこに、せっかく買って、せっかく作ったベンチがありますが。

「ヒカル!ウワキハユルサナイ」
「はい。ごめんなさい!…今、なんて?」
「ソレダケ、ウフフ」
「??」
今日は頭からクエスチョンマークがたくさん溢れる日だ。

「ほんの少し見ないうちに、庭が随分変わったな。」
代わりにベンチに腰掛けたのは祖父だった。
穴熊くんは、一瞬片目を開けたけど、祖父とわかると、また直ぐ目を閉じた。

「こいつがこっちに居る時間が増えている様なのですよ。だから悪戯されても大丈夫な様に色々弄ったんです。」
「その穴熊は、すっかり寝呆けているようだが?あれあれ、呑気に大欠伸してやがる。」
「多分、良玄寺さんで可愛がられていたんですね。良玄寺さんの娘さんからよく遊びに来ますから、その流れで僕らに気を許しているんだと思います。祖父もここのところ、毎日来てますしね。」
「お前には来客が絶えんからの。」

あの、瑞穂くんを含めて肉親以外ほぼ初対面なんですが。
ここ数日で、何人知り合いが増えたんだか?

「ところで、瑞穂や。」
「ナニ?オジイ」
「さっきの声、全部聞こえとったぞ。」
「エ''、ムチュウニナッテテ、キガツカナカッタ……。」 
 
「ん?さっきの口喧嘩ですか?スペイン語だから何言ってるか、わかりませんでしたけど。」
「ヒカリハ、ワカラナクテイイノ!」
「はぁ?」
「ふむ。順調かの。」
「ハイ」
「?」
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