35 / 98
強制送還
しおりを挟む
「qué?qué?qué sucedió?qué me pasó?」
「perdiste」
「mentir…」
「Esto es!Hikari!mi maestro.mi esposo」
お面(何て言うんだ?マスク?)を取って、しばらく呆然としていたマルティナさんは、僕の顔を見て、瑞穂くんの顔を見て、ようやく事態を飲み込めたらしい。
同時にパニックになった様だ。
スペイン語だから何て言ってるのかわからないけど、何か瑞穂くんが威張っているのはわかった。
「やれやれ。」
どうやら、ひと段落出来そうだ。
道場の隅に行って面を外したら、誰かに頭をどやされた。
「?」
祖父と後藤警部補と、知らないスーツ姿の女性が3人ほど、勝手に道場に上がり込んでいた。
「誰?」
「フェンシング協会の人だ。マルティナが空港から逃げ出したから、追いかけて来た。」
「いや、爺ちゃん?何故ここだとわかったの。あと、セコムしていた筈だけど。」
この家は、とにかく変な人がよく勝手に入って来る家で、マルティナさんみたいなのがまた入って来られても困るから、セットし直した筈なのに。
「マルティナの居場所は瑞穂から連絡があった。セコムは契約に俺の名前も入っているし、外し方くらい知ってる。」
なるほど、瑞穂くんは入浴方々、洗面所あたりで祖父にヘルプを求めていたのか。
…そんなにマルティナさんが嫌なんだ。
「何故、後藤さんまでいるんですか?」
「後藤はたまたま空港機動隊に用があって来てたから、パトカーでこの人達を送らせた。」
「公私混同…。」
「何言ってんだ。マルティナはVIP待遇の来賓だぞ。何かあったらどうする?」
僕と瑞穂くんは、そのVIP待遇の来賓に酷いことをしましたけど。
「と言う事で、マルティナ嬢は県警で保護するよ。」
すっかり呆れ果てた後藤警部補が、協会の人に指示して、フェンシング姿のままのマルティナさんを取り押さえた。
…まるで、逮捕されたみたいだ。
「ここが相馬の新居か。手入れが大変そうだな。」
「わかります?」
「俺ん家も、実家は農家だから。お前も警視監には苦労してそうだなぁ。」
「わかります?」(2度目)
「大学が始まって落ち着いたら、さっさと道場に出てこいよ。まったく俺の婚約者を籠絡しやがって。」
「それも、祖父の陰謀ですよ。」
「おかげで''相馬師匠''に負けるな!って五月蝿えんだよ。こっちは学生時代から稽古して稽古して稽古して稽古して、やっと日本一になったってのによ、相馬一族は軽々と越えて行きやがる。相馬の小さな婚約者にも勝てなかったって、水野が苦笑いしてたぞ。え?師匠様よ?」
瑞穂くんは小さくないけどなぁ。
「勘弁して下さい。瑞穂くん1人に振り回されているのに、他所様の奥様まで面倒見きれません。」
「Por favor hazme tu discípulo!」
「Rechazo」
「Quieres casarte conmigo!」
「Rechazo!!!」
何やら喚き散らしては瑞穂くんに言い返されている、マルティナさん退場。
協会の人が、
「聞かなくて良いですよ。大変ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした。」
と、ぺこりと頭を下げて帰って行った。
いや、スペイン語なんて僕にはわかりませんから。
…どうも、碌でもない事を言ってそうだけど。
「じゃあな。あ、そうそう。結婚式はお前の婚約者も出席しろよ。水野はお前らのファンになったみたいだからさ。」
無職の15歳と大学生の18歳にファンが出来ました。
何だこれ?
外に出てみると、制服を来た警官がもうお1人。
冠木門に立っていて、パトカーが外に停まっているのが見えた。
回転灯が回っているなぁ。
良玄寺と我が家しか無い、寂しい一角で良かった。
まるで我が家から逮捕者が出たみたいじゃないか。
「試合を見ていたが、フェンシング代表くらいじゃ、お前の相手にはならんか?」
「それこそインチキ技ですよ。カッチリ基礎が出来てるから崩しやすいだけです。瑞穂くんとの交流があったにせよ、マルティナさんは剣道には慣れていないでしょうし。大声出したらビビっちゃいましたし。」
「女には厳しい孫だな。」
さっき一瞬、瑞穂くんの尻に敷かれた様な気もしますが。
★ ★ ★
「フヒィ。」
朝から疲れる日だよ。もう。
道着のまま、せっかく敷いたからと人工芝に寝っ転がった。
いつのまにかチャッカリ穴熊くんが帰って来ていて、犬小屋で寝ていた。
君の家は、隣の縁の下だよ?
瑞穂くんがトテトテ歩いて来て、僕の枕元にゆっくり座った。
いや、直ぐそこに、せっかく買って、せっかく作ったベンチがありますが。
「ヒカル!ウワキハユルサナイ」
「はい。ごめんなさい!…今、なんて?」
「ソレダケ、ウフフ」
「??」
今日は頭からクエスチョンマークがたくさん溢れる日だ。
「ほんの少し見ないうちに、庭が随分変わったな。」
代わりにベンチに腰掛けたのは祖父だった。
穴熊くんは、一瞬片目を開けたけど、祖父とわかると、また直ぐ目を閉じた。
「こいつがこっちに居る時間が増えている様なのですよ。だから悪戯されても大丈夫な様に色々弄ったんです。」
「その穴熊は、すっかり寝呆けているようだが?あれあれ、呑気に大欠伸してやがる。」
「多分、良玄寺さんで可愛がられていたんですね。良玄寺さんの娘さんからよく遊びに来ますから、その流れで僕らに気を許しているんだと思います。祖父もここのところ、毎日来てますしね。」
「お前には来客が絶えんからの。」
あの、瑞穂くんを含めて肉親以外ほぼ初対面なんですが。
ここ数日で、何人知り合いが増えたんだか?
「ところで、瑞穂や。」
「ナニ?オジイ」
「さっきの声、全部聞こえとったぞ。」
「エ''、ムチュウニナッテテ、キガツカナカッタ……。」
「ん?さっきの口喧嘩ですか?スペイン語だから何言ってるか、わかりませんでしたけど。」
「ヒカリハ、ワカラナクテイイノ!」
「はぁ?」
「ふむ。順調かの。」
「ハイ」
「?」
「perdiste」
「mentir…」
「Esto es!Hikari!mi maestro.mi esposo」
お面(何て言うんだ?マスク?)を取って、しばらく呆然としていたマルティナさんは、僕の顔を見て、瑞穂くんの顔を見て、ようやく事態を飲み込めたらしい。
同時にパニックになった様だ。
スペイン語だから何て言ってるのかわからないけど、何か瑞穂くんが威張っているのはわかった。
「やれやれ。」
どうやら、ひと段落出来そうだ。
道場の隅に行って面を外したら、誰かに頭をどやされた。
「?」
祖父と後藤警部補と、知らないスーツ姿の女性が3人ほど、勝手に道場に上がり込んでいた。
「誰?」
「フェンシング協会の人だ。マルティナが空港から逃げ出したから、追いかけて来た。」
「いや、爺ちゃん?何故ここだとわかったの。あと、セコムしていた筈だけど。」
この家は、とにかく変な人がよく勝手に入って来る家で、マルティナさんみたいなのがまた入って来られても困るから、セットし直した筈なのに。
「マルティナの居場所は瑞穂から連絡があった。セコムは契約に俺の名前も入っているし、外し方くらい知ってる。」
なるほど、瑞穂くんは入浴方々、洗面所あたりで祖父にヘルプを求めていたのか。
…そんなにマルティナさんが嫌なんだ。
「何故、後藤さんまでいるんですか?」
「後藤はたまたま空港機動隊に用があって来てたから、パトカーでこの人達を送らせた。」
「公私混同…。」
「何言ってんだ。マルティナはVIP待遇の来賓だぞ。何かあったらどうする?」
僕と瑞穂くんは、そのVIP待遇の来賓に酷いことをしましたけど。
「と言う事で、マルティナ嬢は県警で保護するよ。」
すっかり呆れ果てた後藤警部補が、協会の人に指示して、フェンシング姿のままのマルティナさんを取り押さえた。
…まるで、逮捕されたみたいだ。
「ここが相馬の新居か。手入れが大変そうだな。」
「わかります?」
「俺ん家も、実家は農家だから。お前も警視監には苦労してそうだなぁ。」
「わかります?」(2度目)
「大学が始まって落ち着いたら、さっさと道場に出てこいよ。まったく俺の婚約者を籠絡しやがって。」
「それも、祖父の陰謀ですよ。」
「おかげで''相馬師匠''に負けるな!って五月蝿えんだよ。こっちは学生時代から稽古して稽古して稽古して稽古して、やっと日本一になったってのによ、相馬一族は軽々と越えて行きやがる。相馬の小さな婚約者にも勝てなかったって、水野が苦笑いしてたぞ。え?師匠様よ?」
瑞穂くんは小さくないけどなぁ。
「勘弁して下さい。瑞穂くん1人に振り回されているのに、他所様の奥様まで面倒見きれません。」
「Por favor hazme tu discípulo!」
「Rechazo」
「Quieres casarte conmigo!」
「Rechazo!!!」
何やら喚き散らしては瑞穂くんに言い返されている、マルティナさん退場。
協会の人が、
「聞かなくて良いですよ。大変ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした。」
と、ぺこりと頭を下げて帰って行った。
いや、スペイン語なんて僕にはわかりませんから。
…どうも、碌でもない事を言ってそうだけど。
「じゃあな。あ、そうそう。結婚式はお前の婚約者も出席しろよ。水野はお前らのファンになったみたいだからさ。」
無職の15歳と大学生の18歳にファンが出来ました。
何だこれ?
外に出てみると、制服を来た警官がもうお1人。
冠木門に立っていて、パトカーが外に停まっているのが見えた。
回転灯が回っているなぁ。
良玄寺と我が家しか無い、寂しい一角で良かった。
まるで我が家から逮捕者が出たみたいじゃないか。
「試合を見ていたが、フェンシング代表くらいじゃ、お前の相手にはならんか?」
「それこそインチキ技ですよ。カッチリ基礎が出来てるから崩しやすいだけです。瑞穂くんとの交流があったにせよ、マルティナさんは剣道には慣れていないでしょうし。大声出したらビビっちゃいましたし。」
「女には厳しい孫だな。」
さっき一瞬、瑞穂くんの尻に敷かれた様な気もしますが。
★ ★ ★
「フヒィ。」
朝から疲れる日だよ。もう。
道着のまま、せっかく敷いたからと人工芝に寝っ転がった。
いつのまにかチャッカリ穴熊くんが帰って来ていて、犬小屋で寝ていた。
君の家は、隣の縁の下だよ?
瑞穂くんがトテトテ歩いて来て、僕の枕元にゆっくり座った。
いや、直ぐそこに、せっかく買って、せっかく作ったベンチがありますが。
「ヒカル!ウワキハユルサナイ」
「はい。ごめんなさい!…今、なんて?」
「ソレダケ、ウフフ」
「??」
今日は頭からクエスチョンマークがたくさん溢れる日だ。
「ほんの少し見ないうちに、庭が随分変わったな。」
代わりにベンチに腰掛けたのは祖父だった。
穴熊くんは、一瞬片目を開けたけど、祖父とわかると、また直ぐ目を閉じた。
「こいつがこっちに居る時間が増えている様なのですよ。だから悪戯されても大丈夫な様に色々弄ったんです。」
「その穴熊は、すっかり寝呆けているようだが?あれあれ、呑気に大欠伸してやがる。」
「多分、良玄寺さんで可愛がられていたんですね。良玄寺さんの娘さんからよく遊びに来ますから、その流れで僕らに気を許しているんだと思います。祖父もここのところ、毎日来てますしね。」
「お前には来客が絶えんからの。」
あの、瑞穂くんを含めて肉親以外ほぼ初対面なんですが。
ここ数日で、何人知り合いが増えたんだか?
「ところで、瑞穂や。」
「ナニ?オジイ」
「さっきの声、全部聞こえとったぞ。」
「エ''、ムチュウニナッテテ、キガツカナカッタ……。」
「ん?さっきの口喧嘩ですか?スペイン語だから何言ってるか、わかりませんでしたけど。」
「ヒカリハ、ワカラナクテイイノ!」
「はぁ?」
「ふむ。順調かの。」
「ハイ」
「?」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい
四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』
孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。
しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。
ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、
「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。
この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。
他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。
だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。
更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。
親友以上恋人未満。
これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる