34 / 93
プロポーズと試合
しおりを挟む
「瑞穂くん…?」
「チガウチガウ!ワタシハノーマル!」
よりによって、けったいな単語がスマホから流れて来た瞬間に、瑞穂くんが風呂から帰って来た。
まぁ、他所様の国はLGBTQだの、同性婚だのに理解があるそうですけどねぇ。
『我が国では、同性婚は法律で肯定されています』
「そうですか。」
「スペインデハ、ケッコンデキルノ16サイカラダヨ」
「はい?」
『そこら辺は、知恵と勇気とガッツで』
「ナントカナルワケナイデショ!」
「………。」
ストーカー?
これはあれかな?
我が家の来客名物、厄介な人かな?
『瑞穂、スペインに帰って、私と結婚しよう』
「ワタシハ、ヒカリトケッコンスルノ!」
『駄目だ!瑞穂は私の嫁だ!』
「ワタシハ、ヒカリノオヨメサンニナルタメニ、ニホンニキタノ!」
『むむむむ』
「グギギギ」
これ、どうしようか。
あ、空気を読んだ穴熊くんがこっそり帰って行く。
薄情者~!
今まで寝ていたじゃないか。
………。
「ヒカリハツヨイヨ!ワタシノシショウダモン」
『瑞穂より私の方が強いじゃない!』
「más fuerte!Hikari!」
「soy más fuerte!」
あぁもう、スペイン語で口喧嘩を始めちゃったよ。
何言ってるのかわからないじゃん。
出来れば逃げ出したいけど、後で叱られそうだし。
いや、だしじゃなくて、絶対叱られる。
郷(スペイン)のいざこざを、こんな東の果ての田舎町まで持ち込まないで欲しいなぁ。
ずずぅ。
あぁ、お茶が美味しい。
昨日、あまりにも多い来客用の、少しお高い茶葉を買っておいて良かった。
祖父が買ってくれた和菓子がまだあるし。
あぁでも、お煎餅以外はそろそろ賞味期限だなぁ。
羊羹はともかく、お饅頭とどら焼きは早く食べないと。
「ヒカリ!」
「はい!」
せっかく現実逃避してたのに、なんか瑞穂くんに怒られた。
というか、何故に首筋を両手で掴まれてるの?僕。
「カチナサイ」
「はい?」
「ワタシトヒカリノミライノタメニ!」
『ちっぽけな日本人に、私が負ける訳無いじゃん!』
「はいぃ?」
『良い瑞穂。私が勝ったらスペインに帰るわよ!』
「ヒカリガマケルワケナイ!」
…本当に厄介な人が来た。
★ ★ ★
なんでもマルティナさんとやらは、フェンシング、エペのスペイン代表なんだそうだ。
フェンシングなんか知らないよ。
白い格好して、お面を被って、棒で突き合うって事だけは知ってる。
けど、多分それが日本人が持つフェンシングに対する印象の最大公約数だろうなぁ。
オリンピックの時に日本人がメダルを取ればニュースで流れるくらいだよね。
瑞穂くんは、「突き」の練習の為にフェンシングクラブに通っていて(年齢制限がある技だからねぇ)、そこにいたマルティナさんに見初められたらしい。
つまり、僕のところに来た理由は、彼女のアタックから逃げて来たって事かい。
『一応、日本フェンシング協会の招待で来ました』
「その招待はどうしたんですか?」
『逃げました』
おいおい。
って言うか、なんで僕ん家がわかるんだよ。
って、祖父か瑞穂くんのお婆さんの仕業以外にないだろうなぁ。
やれやれ。
………
と言ってもだ。
我が家の道場は板張りだし、ルールがよくわからないフェンシングには一切対応してないだろう。
大体、僕が全くわからない。
「エペニハコウゲキケンガナイカラ、ドコデモイツデモセメテイイヨ」
「エペとか、攻撃権とか言われてもなぁ。」
しかも先様は、フェンシング用のプロテクターとマスクで完全防備な上、テレビでしか見た事の無いレイピア?でやる気満々なのだ。
そりゃ、フェンシングの仕事で来たならマイ防具くらい持ってくるわなぁ。
それに対して僕はというと、面・胴・小手に竹刀。つまり、いつもの剣道フルセットだ。
なんだこの、異種格闘技戦は?
あと、僕の視力は普通に左右1.5なので、我が家にはメガネという物がない。
サングラスなんて洒落た物だってないから、レイピアで面の隙間をつかれたら、自慢じゃ無いが簡単に死ぬ自信がある。
剣道だって、竹刀のささくれが相手の目を突いてしまう死亡事故が起こるんだ。
なんでこんな事になったかと言うと
「光は最強なので、防具なんか要らない!」(要約)って買い言葉を買った15歳が居るからです。
やれやれ。
やれやれやれやれ。
………
「Rassemblez ! Saluez !」
審判を買って出た瑞穂くんから号令が掛かった。
…何言ってんだか、わからない。
とりあえずマルティナさんが頭を下げたので真似をする。
「Allez!」
その言葉と同時に、マルティナさんが飛び出して来た。
早い。いや、疾い。
早さで言えば、瑞穂くん以上だ。
けど、言っちゃあなんだけど、祖父とは比べ物にならない。
突きに特化した剣術と、なんでもアリな剣術では、当然後者の方が捌き方を知っている。
マルティナさんの攻撃を、竹刀の剣先だけでいなし続ける。
フェンシングは前後の移動が基本なのだろう。
でも剣道は、前後どころか、「上下左右」にバランスを崩す事なく動き回る化け物がいる訳で。
上下ってなんだよ。
格闘技って、空中や着地の時に隙だらけになるから、ジャンプ技は普通禁じ手にするのに、そいつには隙が生まれないんだぜ。
まぁ、そんな事出来るのは、勿論祖父だけど。
あんなのに鍛えられた僕には、世界チャンプらしいマルティナさんの動きを読む事は容易いわけで。
ただ問題が1つ。
竹刀で、どう攻めよう。
やっぱり突き以外は使っちゃ不味いよなぁ。
マルティナさん、面も小手も空きっぱなしだから、いつでも1本取れるけど。
「格上」が「格下」に合わせてあげた方がいいだろう。
「!?」
僕は前に踏み込むと同時に、体(たい)を左に振った。
マルティナさんの重心が一瞬傾くけど、それで充分。
僕の竹刀の剣先は、マルティナさんの喉元にピタリと止められていた。
「おおおお!」
同時に気迫を(祖父がインチキと言う丹田から)捻り出すと、何もしていないのにマルティナさんが吹き飛んだ。
大袈裟な。
フェンシングの試合は3分5本勝負らしいけど、あとは一方的だった。
マルティナさんから精度が消えた。
祖父の言う「馬鹿」でも「素人」でもない、基礎が身体に叩き込まれた世界チャンプなだけに、よりわかりやすくなった動きは丸わかりのレベルまで落ちた。
僕は竹刀を1度もマルティナさんに触れる事なく、ただマルティナさんの心をへし折り続ける事に成功した。
「Rassemblez ! Saluez !」
それが試合終了の合図なのだろう。
フェンシングと剣道。
白と黒。
2つの競技者の戦いは、白い姿のフェンシングが、礼の後、頽れた。
…この道場で試合をすると、どっちかが倒れる事、多くないかな。
「チガウチガウ!ワタシハノーマル!」
よりによって、けったいな単語がスマホから流れて来た瞬間に、瑞穂くんが風呂から帰って来た。
まぁ、他所様の国はLGBTQだの、同性婚だのに理解があるそうですけどねぇ。
『我が国では、同性婚は法律で肯定されています』
「そうですか。」
「スペインデハ、ケッコンデキルノ16サイカラダヨ」
「はい?」
『そこら辺は、知恵と勇気とガッツで』
「ナントカナルワケナイデショ!」
「………。」
ストーカー?
これはあれかな?
我が家の来客名物、厄介な人かな?
『瑞穂、スペインに帰って、私と結婚しよう』
「ワタシハ、ヒカリトケッコンスルノ!」
『駄目だ!瑞穂は私の嫁だ!』
「ワタシハ、ヒカリノオヨメサンニナルタメニ、ニホンニキタノ!」
『むむむむ』
「グギギギ」
これ、どうしようか。
あ、空気を読んだ穴熊くんがこっそり帰って行く。
薄情者~!
今まで寝ていたじゃないか。
………。
「ヒカリハツヨイヨ!ワタシノシショウダモン」
『瑞穂より私の方が強いじゃない!』
「más fuerte!Hikari!」
「soy más fuerte!」
あぁもう、スペイン語で口喧嘩を始めちゃったよ。
何言ってるのかわからないじゃん。
出来れば逃げ出したいけど、後で叱られそうだし。
いや、だしじゃなくて、絶対叱られる。
郷(スペイン)のいざこざを、こんな東の果ての田舎町まで持ち込まないで欲しいなぁ。
ずずぅ。
あぁ、お茶が美味しい。
昨日、あまりにも多い来客用の、少しお高い茶葉を買っておいて良かった。
祖父が買ってくれた和菓子がまだあるし。
あぁでも、お煎餅以外はそろそろ賞味期限だなぁ。
羊羹はともかく、お饅頭とどら焼きは早く食べないと。
「ヒカリ!」
「はい!」
せっかく現実逃避してたのに、なんか瑞穂くんに怒られた。
というか、何故に首筋を両手で掴まれてるの?僕。
「カチナサイ」
「はい?」
「ワタシトヒカリノミライノタメニ!」
『ちっぽけな日本人に、私が負ける訳無いじゃん!』
「はいぃ?」
『良い瑞穂。私が勝ったらスペインに帰るわよ!』
「ヒカリガマケルワケナイ!」
…本当に厄介な人が来た。
★ ★ ★
なんでもマルティナさんとやらは、フェンシング、エペのスペイン代表なんだそうだ。
フェンシングなんか知らないよ。
白い格好して、お面を被って、棒で突き合うって事だけは知ってる。
けど、多分それが日本人が持つフェンシングに対する印象の最大公約数だろうなぁ。
オリンピックの時に日本人がメダルを取ればニュースで流れるくらいだよね。
瑞穂くんは、「突き」の練習の為にフェンシングクラブに通っていて(年齢制限がある技だからねぇ)、そこにいたマルティナさんに見初められたらしい。
つまり、僕のところに来た理由は、彼女のアタックから逃げて来たって事かい。
『一応、日本フェンシング協会の招待で来ました』
「その招待はどうしたんですか?」
『逃げました』
おいおい。
って言うか、なんで僕ん家がわかるんだよ。
って、祖父か瑞穂くんのお婆さんの仕業以外にないだろうなぁ。
やれやれ。
………
と言ってもだ。
我が家の道場は板張りだし、ルールがよくわからないフェンシングには一切対応してないだろう。
大体、僕が全くわからない。
「エペニハコウゲキケンガナイカラ、ドコデモイツデモセメテイイヨ」
「エペとか、攻撃権とか言われてもなぁ。」
しかも先様は、フェンシング用のプロテクターとマスクで完全防備な上、テレビでしか見た事の無いレイピア?でやる気満々なのだ。
そりゃ、フェンシングの仕事で来たならマイ防具くらい持ってくるわなぁ。
それに対して僕はというと、面・胴・小手に竹刀。つまり、いつもの剣道フルセットだ。
なんだこの、異種格闘技戦は?
あと、僕の視力は普通に左右1.5なので、我が家にはメガネという物がない。
サングラスなんて洒落た物だってないから、レイピアで面の隙間をつかれたら、自慢じゃ無いが簡単に死ぬ自信がある。
剣道だって、竹刀のささくれが相手の目を突いてしまう死亡事故が起こるんだ。
なんでこんな事になったかと言うと
「光は最強なので、防具なんか要らない!」(要約)って買い言葉を買った15歳が居るからです。
やれやれ。
やれやれやれやれ。
………
「Rassemblez ! Saluez !」
審判を買って出た瑞穂くんから号令が掛かった。
…何言ってんだか、わからない。
とりあえずマルティナさんが頭を下げたので真似をする。
「Allez!」
その言葉と同時に、マルティナさんが飛び出して来た。
早い。いや、疾い。
早さで言えば、瑞穂くん以上だ。
けど、言っちゃあなんだけど、祖父とは比べ物にならない。
突きに特化した剣術と、なんでもアリな剣術では、当然後者の方が捌き方を知っている。
マルティナさんの攻撃を、竹刀の剣先だけでいなし続ける。
フェンシングは前後の移動が基本なのだろう。
でも剣道は、前後どころか、「上下左右」にバランスを崩す事なく動き回る化け物がいる訳で。
上下ってなんだよ。
格闘技って、空中や着地の時に隙だらけになるから、ジャンプ技は普通禁じ手にするのに、そいつには隙が生まれないんだぜ。
まぁ、そんな事出来るのは、勿論祖父だけど。
あんなのに鍛えられた僕には、世界チャンプらしいマルティナさんの動きを読む事は容易いわけで。
ただ問題が1つ。
竹刀で、どう攻めよう。
やっぱり突き以外は使っちゃ不味いよなぁ。
マルティナさん、面も小手も空きっぱなしだから、いつでも1本取れるけど。
「格上」が「格下」に合わせてあげた方がいいだろう。
「!?」
僕は前に踏み込むと同時に、体(たい)を左に振った。
マルティナさんの重心が一瞬傾くけど、それで充分。
僕の竹刀の剣先は、マルティナさんの喉元にピタリと止められていた。
「おおおお!」
同時に気迫を(祖父がインチキと言う丹田から)捻り出すと、何もしていないのにマルティナさんが吹き飛んだ。
大袈裟な。
フェンシングの試合は3分5本勝負らしいけど、あとは一方的だった。
マルティナさんから精度が消えた。
祖父の言う「馬鹿」でも「素人」でもない、基礎が身体に叩き込まれた世界チャンプなだけに、よりわかりやすくなった動きは丸わかりのレベルまで落ちた。
僕は竹刀を1度もマルティナさんに触れる事なく、ただマルティナさんの心をへし折り続ける事に成功した。
「Rassemblez ! Saluez !」
それが試合終了の合図なのだろう。
フェンシングと剣道。
白と黒。
2つの競技者の戦いは、白い姿のフェンシングが、礼の後、頽れた。
…この道場で試合をすると、どっちかが倒れる事、多くないかな。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ご飯を食べて異世界に行こう
compo
ライト文芸
会社が潰れた…
僅かばかりの退職金を貰ったけど、独身寮を追い出される事になった僕は、貯金と失業手当を片手に新たな旅に出る事にしよう。
僕には生まれつき、物理的にあり得ない異能を身につけている。
異能を持って、旅する先は…。
「異世界」じゃないよ。
日本だよ。日本には変わりないよ。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタの村に招かれて勇気をもらうお話
Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」
12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。
直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。
日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。
◇◇◇
友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。
クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ノイジーガール ~ちょっとそこの地下アイドルさん適性間違っていませんか?~
草野猫彦
ライト文芸
恵まれた環境に生まれた青年、渡辺俊は音大に通いながら、作曲や作詞を行い演奏までしつつも、ある水準を超えられない自分に苛立っていた。そんな彼は友人のバンドのヘルプに頼まれたライブスタジオで、対バンした地下アイドルグループの中に、インスピレーションを感じる声を持つアイドルを発見する。
欠点だらけの天才と、天才とまでは言えない技術者の二人が出会った時、一つの音楽の物語が始まった。
それは生き急ぐ若者たちの物語でもあった。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる