17 / 98
妹
しおりを挟む
「で、お前、結局何しに来たんだ?」
今日は朝から色々な人が来るから、台所やリビングには来客用?の菓子だのなんだのが散らかりっぱなしだぞ。
と言っても向こうが勝手に来て、置いていった物ばかりだけど。
「ん?瑞穂さんを見に来ただけだよ。だって私のお姉ちゃんになるんでしょ?」
「ハイ」
はいじゃないが。
「あと、爺ちゃんに会いに来たんだけど。」
「爺ちゃんならさっき、引っ掻き回すだけ引っ掻き回してご帰宅なされた。???。」
あれれ?
「みたいね。お小遣い貰いたかったんだけどな。ん、どうしたの?んと、これはこう剥けばいいのか。」
いや、妹ちょっと違和感を感じただけで大した事じゃ無い。
というか羊羹を1本丸齧りし始めた女子中学生の姿の方が色々駄目だ。
僕の周りは駄目人間と駄目女子だらけだ。
「いや、お前って僕に対して、そんな喋り方をしてたかなぁって思ってさ。」
最近は、無視されがちだったような気がするし。
「新しい家族が出来るんだから、猫くらい被らせてよ。」
「それを瑞穂くん本人の前で言ってどうすんだよ。」
あ、さっきハイと一言だけ返事した瑞穂くんですが、七味唐辛子煎餅の辛さに悶絶しています。悶絶はしてますが、ニコニコ笑って楽しそうですよ。
「あのねぇ。兄ちゃんの正体を知ってる妹としては、いきなり家から出て行かれて、正直困っているんでふ。」
「羊羹を食うのか文句を言うのか、はっきりしろよ。口から餡の粒が溢れたぞ。」
「いや、兄ちゃん。こんな大粒の粒餡、生まれて初めて食べた。」
「知らんがな。」
………
「あのね。私からすれば、兄ちゃんって私にはコンプレックスの塊なんだよ。家を出て行った今だから言えるけど。」
「そうなの?」
「私は女なのに家事なんかろくすっぽ出来ないのにさ、兄ちゃんの部屋はいつも綺麗に掃除されてるし、お母さんが忙しい時に作ってくれるお弁当は美味しいし、勉強出来るから現役で国立大学に合格するし、爺ちゃんが言うには剣道の天才で、道場と弟子とお嫁さんを貰ったんでしよ。」
「待て待て、色々語弊があるぞ。」
剣道はそれなりに努力した(させられた)けど、生活方面は両親が共働きだから、僕が出来る事をしていただけで。
大体、まだ中学生なんだから、親に甘えなさいよ。
人並みな要求くらい、叶えられる能力と収入がある人ですよ。
「ワタシモカジデキナイカラ、ヒカリニタヨリッバナシ。ヒカリハワタシノシショウ。ケンドウデモリョウリデモ。」
「けしからんなぁ。実にけしからん。」
お前らは何を言い出したんだ?
「と言う訳で、今日はお泊まりします。」
「はぁ?」
「お父さんには許可を貰ってありますから大丈夫です。」
そう言えば、父さんも母さんも、春休みだからか家にいる事多かったなぁ。
むしろ妹の方が部活で忙しい。
新人戦のシーズンを迎えて、新レギュラーの選抜と底上げに力を入れる時期だから。
…そう言えば、妹って何部なんだっけ?
気にした事なかったな。
今更聞けないな。叱られそうだ。
「ヒカリ、バンゴハンハナニ。」
「天ぷらだけど。」
「え?兄ちゃん天ぷらなんか作れるの?…作れるだろうなぁ、兄ちゃんのこったから。」
「衣をつけて揚げるだけだぞ?」
「その''だけ''が出来る人が何人いるのよ!」
「爺ちゃんと婆ちゃんは、山の中で山菜で作ってたなぁ。あの山も爺ちゃんの持ち山らしいなぁ。」
「爺ちゃんみたいな化け物と私を一緒にしないでよ。」
「ですか。」
「でぇす!まったくもう、なんでウチの男共は化け物揃いなのよ。」
失礼な。
父さんは普通の人だぞ。
…隔世遺伝とかしてたら、色々やだなぁ。
………
お隣さんから貰った籠の中には、ええと。
新キャベツと白菜と蕗のとうに新玉葱、
は今が旬だな。
アスパラガスなんか、庭に種まきしてあるけど、まだ芽すら出ていない。
菜の花や筍の旬は来月じゃないのか?
しかもこれ、水煮とか缶詰じゃない、生野菜じゃないか。
どこから持ってきたんだよ。
筍は天ぷらには合わなそうなので、皮を剥いて煮てアク取りに励むとして(そのくらい、妹にも出来るだろう)、あとは蓮根やエリンギも一口サイズに切り分けます。
キャベツは玉葱と一緒にかき揚げにしよう。
桜エビがあると最高なんだけどな。
まぁ引越したばかりで買い物も碌に行ってないから、あまりもので、あ、椎茸があるじゃないか。細切れにしてかき揚げに加えよう。
「マカセテ」
どこで誂えたのなら、胸まであるエプロンを身につけた瑞穂くんが包丁を構える。
姿の奥様仕様に似合わず、包丁で椎茸を睨んでいる姿は見ないことにしよう。
どんな奥様仕草だ。
「瑞穂姉ちゃんって、包丁使えるの?」
「魚の三枚おろしくらいは出来るぞ。」
「凄いなぁ。私なんかりんごの皮も剥けないのに。」
「お前はハサミでスナック菓子の袋を切って開けようとして、失敗するからなぁ。」
「げ。見られてたか。」
リズミカルな音がするので、振り返ってみると、椎茸が細く千切りにされていた。
そう言えば、さっきは大根のかつらむきとかしてたな。
「私は筍の皮を剥くのに、もう飽きて来たんだけど。」
昆布の出汁取りで、火加減を見ることすら面倒くさがった、お隣の行き遅れさんと同じ事言ってるし。
「ヒカリ、オワッタヨ」
「わぁすげぇ。ちゃんと切り揃えられてる。私まだ筍剥いてないのに。」
「筍は明日のおかずにするつもりだから急がなくていいよ。」
ぽいっとテーブルに置いたのは市販の薄力粉。
それと生卵。
ボールに水と薄力粉を入れて、卵を落とします。
僕は別に白身だ黄身だのこだわりはないので、TKGじゃないんだから、から座だのなんだのは火を通せばどうでも良くなる。
あとは少し玉が残る程度に菜箸で掻き回せば、天ぷら衣の元が出来上がり。
んで。
具材には打ち粉と呼ばれる薄力粉を塗してから、そっと衣に潜らせます。
この打ち粉をしないと、フランクフルトとかカニカマとか、表面がツルツルした具材に上手く衣が乗ってくれないからね。
油の温度は170度くらい。
「オンドケイナイヨ」
「あぁまぁ、慣れないうちはレシピ通りに作った方が失敗が少ないから、あった方がいいね。」
でも、慣れちゃえば。
衣の元を油に落として、揚げ玉が浮き上がって来たら適温。
「ねぇ、こんな事が出来る男子高校生がいたらさぁ、まだ餓鬼だとはいえ、ご家庭内で女の出番がなくなるんだけど。」
「シュギョウデスヨ」
「良いなぁお姉ちゃん、健気で一生懸命で。」
だから何で僕が瑞穂くんと結婚する事が前提なんだよ。
どいつもこいつも外堀を埋めに来やがって。
「瑞穂お姉ちゃんは、内側から大きなシャベルで内堀を埋めていると思うのですよ、お兄様。」
「まだ会ってから何日も経っていないんだぞ。」
「まぁ、責任を取ろうとしないのですね?お兄様?」
「ワタシハカマワナインダケドネ。スパニッシュヨリヒカリノホウガ、ショウニアッテルシ。」
「おおお!」
そこ、拍手してる暇あるなら、バットにキッチンペーパーを敷いてくれ。
第一陣が揚がるから。
あと、僕の意思や意向が全員から無視されてませんかね。
今日は朝から色々な人が来るから、台所やリビングには来客用?の菓子だのなんだのが散らかりっぱなしだぞ。
と言っても向こうが勝手に来て、置いていった物ばかりだけど。
「ん?瑞穂さんを見に来ただけだよ。だって私のお姉ちゃんになるんでしょ?」
「ハイ」
はいじゃないが。
「あと、爺ちゃんに会いに来たんだけど。」
「爺ちゃんならさっき、引っ掻き回すだけ引っ掻き回してご帰宅なされた。???。」
あれれ?
「みたいね。お小遣い貰いたかったんだけどな。ん、どうしたの?んと、これはこう剥けばいいのか。」
いや、妹ちょっと違和感を感じただけで大した事じゃ無い。
というか羊羹を1本丸齧りし始めた女子中学生の姿の方が色々駄目だ。
僕の周りは駄目人間と駄目女子だらけだ。
「いや、お前って僕に対して、そんな喋り方をしてたかなぁって思ってさ。」
最近は、無視されがちだったような気がするし。
「新しい家族が出来るんだから、猫くらい被らせてよ。」
「それを瑞穂くん本人の前で言ってどうすんだよ。」
あ、さっきハイと一言だけ返事した瑞穂くんですが、七味唐辛子煎餅の辛さに悶絶しています。悶絶はしてますが、ニコニコ笑って楽しそうですよ。
「あのねぇ。兄ちゃんの正体を知ってる妹としては、いきなり家から出て行かれて、正直困っているんでふ。」
「羊羹を食うのか文句を言うのか、はっきりしろよ。口から餡の粒が溢れたぞ。」
「いや、兄ちゃん。こんな大粒の粒餡、生まれて初めて食べた。」
「知らんがな。」
………
「あのね。私からすれば、兄ちゃんって私にはコンプレックスの塊なんだよ。家を出て行った今だから言えるけど。」
「そうなの?」
「私は女なのに家事なんかろくすっぽ出来ないのにさ、兄ちゃんの部屋はいつも綺麗に掃除されてるし、お母さんが忙しい時に作ってくれるお弁当は美味しいし、勉強出来るから現役で国立大学に合格するし、爺ちゃんが言うには剣道の天才で、道場と弟子とお嫁さんを貰ったんでしよ。」
「待て待て、色々語弊があるぞ。」
剣道はそれなりに努力した(させられた)けど、生活方面は両親が共働きだから、僕が出来る事をしていただけで。
大体、まだ中学生なんだから、親に甘えなさいよ。
人並みな要求くらい、叶えられる能力と収入がある人ですよ。
「ワタシモカジデキナイカラ、ヒカリニタヨリッバナシ。ヒカリハワタシノシショウ。ケンドウデモリョウリデモ。」
「けしからんなぁ。実にけしからん。」
お前らは何を言い出したんだ?
「と言う訳で、今日はお泊まりします。」
「はぁ?」
「お父さんには許可を貰ってありますから大丈夫です。」
そう言えば、父さんも母さんも、春休みだからか家にいる事多かったなぁ。
むしろ妹の方が部活で忙しい。
新人戦のシーズンを迎えて、新レギュラーの選抜と底上げに力を入れる時期だから。
…そう言えば、妹って何部なんだっけ?
気にした事なかったな。
今更聞けないな。叱られそうだ。
「ヒカリ、バンゴハンハナニ。」
「天ぷらだけど。」
「え?兄ちゃん天ぷらなんか作れるの?…作れるだろうなぁ、兄ちゃんのこったから。」
「衣をつけて揚げるだけだぞ?」
「その''だけ''が出来る人が何人いるのよ!」
「爺ちゃんと婆ちゃんは、山の中で山菜で作ってたなぁ。あの山も爺ちゃんの持ち山らしいなぁ。」
「爺ちゃんみたいな化け物と私を一緒にしないでよ。」
「ですか。」
「でぇす!まったくもう、なんでウチの男共は化け物揃いなのよ。」
失礼な。
父さんは普通の人だぞ。
…隔世遺伝とかしてたら、色々やだなぁ。
………
お隣さんから貰った籠の中には、ええと。
新キャベツと白菜と蕗のとうに新玉葱、
は今が旬だな。
アスパラガスなんか、庭に種まきしてあるけど、まだ芽すら出ていない。
菜の花や筍の旬は来月じゃないのか?
しかもこれ、水煮とか缶詰じゃない、生野菜じゃないか。
どこから持ってきたんだよ。
筍は天ぷらには合わなそうなので、皮を剥いて煮てアク取りに励むとして(そのくらい、妹にも出来るだろう)、あとは蓮根やエリンギも一口サイズに切り分けます。
キャベツは玉葱と一緒にかき揚げにしよう。
桜エビがあると最高なんだけどな。
まぁ引越したばかりで買い物も碌に行ってないから、あまりもので、あ、椎茸があるじゃないか。細切れにしてかき揚げに加えよう。
「マカセテ」
どこで誂えたのなら、胸まであるエプロンを身につけた瑞穂くんが包丁を構える。
姿の奥様仕様に似合わず、包丁で椎茸を睨んでいる姿は見ないことにしよう。
どんな奥様仕草だ。
「瑞穂姉ちゃんって、包丁使えるの?」
「魚の三枚おろしくらいは出来るぞ。」
「凄いなぁ。私なんかりんごの皮も剥けないのに。」
「お前はハサミでスナック菓子の袋を切って開けようとして、失敗するからなぁ。」
「げ。見られてたか。」
リズミカルな音がするので、振り返ってみると、椎茸が細く千切りにされていた。
そう言えば、さっきは大根のかつらむきとかしてたな。
「私は筍の皮を剥くのに、もう飽きて来たんだけど。」
昆布の出汁取りで、火加減を見ることすら面倒くさがった、お隣の行き遅れさんと同じ事言ってるし。
「ヒカリ、オワッタヨ」
「わぁすげぇ。ちゃんと切り揃えられてる。私まだ筍剥いてないのに。」
「筍は明日のおかずにするつもりだから急がなくていいよ。」
ぽいっとテーブルに置いたのは市販の薄力粉。
それと生卵。
ボールに水と薄力粉を入れて、卵を落とします。
僕は別に白身だ黄身だのこだわりはないので、TKGじゃないんだから、から座だのなんだのは火を通せばどうでも良くなる。
あとは少し玉が残る程度に菜箸で掻き回せば、天ぷら衣の元が出来上がり。
んで。
具材には打ち粉と呼ばれる薄力粉を塗してから、そっと衣に潜らせます。
この打ち粉をしないと、フランクフルトとかカニカマとか、表面がツルツルした具材に上手く衣が乗ってくれないからね。
油の温度は170度くらい。
「オンドケイナイヨ」
「あぁまぁ、慣れないうちはレシピ通りに作った方が失敗が少ないから、あった方がいいね。」
でも、慣れちゃえば。
衣の元を油に落として、揚げ玉が浮き上がって来たら適温。
「ねぇ、こんな事が出来る男子高校生がいたらさぁ、まだ餓鬼だとはいえ、ご家庭内で女の出番がなくなるんだけど。」
「シュギョウデスヨ」
「良いなぁお姉ちゃん、健気で一生懸命で。」
だから何で僕が瑞穂くんと結婚する事が前提なんだよ。
どいつもこいつも外堀を埋めに来やがって。
「瑞穂お姉ちゃんは、内側から大きなシャベルで内堀を埋めていると思うのですよ、お兄様。」
「まだ会ってから何日も経っていないんだぞ。」
「まぁ、責任を取ろうとしないのですね?お兄様?」
「ワタシハカマワナインダケドネ。スパニッシュヨリヒカリノホウガ、ショウニアッテルシ。」
「おおお!」
そこ、拍手してる暇あるなら、バットにキッチンペーパーを敷いてくれ。
第一陣が揚がるから。
あと、僕の意思や意向が全員から無視されてませんかね。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる