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第二章【青春盗掘】
第二章 その⑲
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大学を後にした僕と皆月は、夜の十時前に駅に集合することを約束して別れた。
一度家に帰った僕は、鞄をひっくり返して、教科書や筆記具などを全て出すと、代わりに、フェイスタオル、軍手、ミニスコップ、そして懐中電灯を詰めた。全部、帰宅途中のホームセンターで買い揃えたものだった。
おそらく重労働になる気がしたので、すぐ近くのコンビニに出向き、エネルギーゼリーを二つ買った。コンビニを出た後で、皆月の分も買っておいてやろうと思い、もう二つ買った。でも、彼女がエネルギーゼリーで喜ぶ気がしなかったので、プリンを買った。
余分に買ってしまったエネルギーゼリー二本は、その日の昼食となった。
そうして、だらだらと過ごして時間を潰し、夜がやってきた。
そろそろだろう…と思った僕は、チェスターコートではなく、ウインドブレーカーを羽織り、パンパンに張った鞄を掴み、部屋を出る。
階段を降りていると、雑草が生え散らかした駐車場を横切って、人影が歩いてくることに気づいた。
街灯に照らされたそれは、皆月だった。
準備万端の僕とは違い、彼女の格好は、昼間と同じブレザー。右手には鞄を持っているが、多分ノートパソコンしか入っていない。違う点と言えば、首元にチェック柄のマフラーが巻き付いていた。
あと、タイツの厚さが変わっている。
「あれ…、皆月、駅集合じゃなかったっけ」
「よくよく考えたら、記憶が抜けてるあんたを一人で行動させるべきじゃないな…って」
白い息を吐きながら言った彼女は、「おら」と言って、僕の脇腹を蹴った。
「駅に行こうとして、別の場所にいかれたらたまったものじゃないでしょう?」
「流石に駅の場所くらいは憶えてるよ。忘れたところで地図を見ればいいだけだし」
まあ、皆月の厚意に感謝して、それ以上言うのはやめた。
鈍行の時間を確認してから、僕たちは歩き出す。
駅までの道は、車通りの少ない細い路地だった。建ち並ぶ民家の窓にはどれも明かりが灯り、人影が揺らめいていたが、道にその気配はない。夜になって風はますます勢いを強め、僕たちの頬を切り付けていった。
三歩歩いただけで温かいコーヒーが恋しくなる世界。五歩進んだだけで、熱々のお風呂に飛び込みたくなる衝動。
なんだかんだ、タイムカプセルを掘り起こすことを意気込んでいた僕も、なんだか馬鹿らしく思えてきた。
やる気が完全になくなってしまう前に、残り火に薪をくべるように言った。
「なあ、皆月」
「なに」
「プリン買ったんだ」
「遠足じゃないんだから」
皆月が苦笑する。そのへの字に歪んだ口がなんだかおもしろくて、僕はさらに続けた。
「欲しくなったら言えよな。あげるから」
「あー、はいはい」
いつも人を馬鹿にするくせして、自分がからかわれるのは弱いらしい。
皆月はなんと返せばいいのかわからないような顔をして、髪をくしゃりと掻いた。
これで、あと一時間は頑張れる気がした。
一度家に帰った僕は、鞄をひっくり返して、教科書や筆記具などを全て出すと、代わりに、フェイスタオル、軍手、ミニスコップ、そして懐中電灯を詰めた。全部、帰宅途中のホームセンターで買い揃えたものだった。
おそらく重労働になる気がしたので、すぐ近くのコンビニに出向き、エネルギーゼリーを二つ買った。コンビニを出た後で、皆月の分も買っておいてやろうと思い、もう二つ買った。でも、彼女がエネルギーゼリーで喜ぶ気がしなかったので、プリンを買った。
余分に買ってしまったエネルギーゼリー二本は、その日の昼食となった。
そうして、だらだらと過ごして時間を潰し、夜がやってきた。
そろそろだろう…と思った僕は、チェスターコートではなく、ウインドブレーカーを羽織り、パンパンに張った鞄を掴み、部屋を出る。
階段を降りていると、雑草が生え散らかした駐車場を横切って、人影が歩いてくることに気づいた。
街灯に照らされたそれは、皆月だった。
準備万端の僕とは違い、彼女の格好は、昼間と同じブレザー。右手には鞄を持っているが、多分ノートパソコンしか入っていない。違う点と言えば、首元にチェック柄のマフラーが巻き付いていた。
あと、タイツの厚さが変わっている。
「あれ…、皆月、駅集合じゃなかったっけ」
「よくよく考えたら、記憶が抜けてるあんたを一人で行動させるべきじゃないな…って」
白い息を吐きながら言った彼女は、「おら」と言って、僕の脇腹を蹴った。
「駅に行こうとして、別の場所にいかれたらたまったものじゃないでしょう?」
「流石に駅の場所くらいは憶えてるよ。忘れたところで地図を見ればいいだけだし」
まあ、皆月の厚意に感謝して、それ以上言うのはやめた。
鈍行の時間を確認してから、僕たちは歩き出す。
駅までの道は、車通りの少ない細い路地だった。建ち並ぶ民家の窓にはどれも明かりが灯り、人影が揺らめいていたが、道にその気配はない。夜になって風はますます勢いを強め、僕たちの頬を切り付けていった。
三歩歩いただけで温かいコーヒーが恋しくなる世界。五歩進んだだけで、熱々のお風呂に飛び込みたくなる衝動。
なんだかんだ、タイムカプセルを掘り起こすことを意気込んでいた僕も、なんだか馬鹿らしく思えてきた。
やる気が完全になくなってしまう前に、残り火に薪をくべるように言った。
「なあ、皆月」
「なに」
「プリン買ったんだ」
「遠足じゃないんだから」
皆月が苦笑する。そのへの字に歪んだ口がなんだかおもしろくて、僕はさらに続けた。
「欲しくなったら言えよな。あげるから」
「あー、はいはい」
いつも人を馬鹿にするくせして、自分がからかわれるのは弱いらしい。
皆月はなんと返せばいいのかわからないような顔をして、髪をくしゃりと掻いた。
これで、あと一時間は頑張れる気がした。
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