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第三十六章

チャームングな提案

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 小柄ではあるがガッシリした体格、見事な顎髭の上に皺の刻まれた顔、鋭い眼差し。かなり高齢なお爺さんに見えるが動きはまだまだ力強い。そんなドワーフが独りでその場に立っていた。ポビッチ監督だ。
「あ、どうもこんにちは! お騒がせしましたか?」
 俺は姿勢を直し挨拶をする。実は今回、彼と彼の率いるドワーフ代表は王城に宿泊しているのだ。その宿泊所は撮影スタジオにしている部屋と意外と近い。もしかしたら騒音が届いてしまったのかもしれない。
「いや、そんな事はない。みんな、もっと楽にしてくれ」
 名伯楽の急な登場に緊張した周囲のエルフ達――カメラマンさんの他に彼女のアシスタントやメイクさんたちもいるのだ――を気遣ってか、ポビッチ監督はそう言いながら周りに手を振る。そんな彼の元へスワッグがささっと椅子を運んできて座るのを手伝った。出来るグリフォンだ。
「どうしたんだ? 徘徊か?」
「うるさいわい。駄屑エルフに用はない、ワシはショーキチ監督に会いにきたんじゃ」
 恐らく誰に対しても緊張しないステフがからかうと、ポビッチ監督はハエでも払う様に反撃した。両者、顔見知りか。まあスワッグのトモダチ手帳には載ってそうではある。
「誰が駄屑エルフだ!? ダスクエルフだよダスクエルフ!」
「自分にですか?」
 ステフは激昂したが俺は駄屑エルフとは言い得て妙だな、と思いながらドワーフ代表監督に問いかけた。
「うむ。実はそちらへ売り込みたいモノがあってな」
「なになに売り子を見たい? お前も存外スケベだな!」
 いやステフ、たぶんそれは違うぞ。
「はあ? 売り子を見たい……売り子とはなんじゃ?」
「同人誌の即売会などで制作者が自分とは別に人を雇って、販売員をして貰う事があるぴよ。それを一般的に『売り子』と呼ぶぴい!」
 当然、そんな言葉を知らないポビッチ監督が疑問を口にし、スワッグが解説を入れる。やはり出来るグリフォンだ。
「売り子はその同人誌に出てくるキャラのコスプレをする事が多くて、その姿が扇情的なのでしばしばオフパコに誘われるぴい! オフパコとは……」
「はいスワッグ、ストップ!」
 しまった出来過ぎるグリフォンだった! 俺はお喋りな嘴を両手で塞いだ。何せこの後、アローズOG達が様々なコスプレ姿で出てくる。そこでそんな知識を吹き込まれたら、彼女たちがそういう対象にしか見えないではないか!
「何か商品をお持ちという事でしょうか?」
「うむ。これだ」
 俺たちのドタバタを怪訝な顔で眺めつつも、ポビッチ監督は冷静に懐からあるモノを取り出した。
「え? これ」
「ウチの商品じゃないか?」
 俺とステフは共に驚きの声を上げる。ドワーフが俺たちに見せたのはダスクエルフの言葉通りウチの商品、ア・クリスタルスタンド通称アクスタだった。
 但し、それに鎖とカラビナ的なモノを装着した加工品ではあったが。
「なるほど。チャームにしたのか」
「え? 有り得ない! これは凄い技術ですよ!」
 感心する俺の後ろからカメラマンさんが割り込んできた。
「そうなんですか?」
「はい! 自分は後部工程にはそこまで詳しくありませんが定着させた後のクリスタルは非常に強固なんです。それに絵を損なわず穴を開けて鎖を取り付けるなんて!」
 彼女はそう言いながらポビッチ監督の手元のそれをジロジロと見る。なるほど、アクスタが簡単に傷つかないよう頑丈にする魔術か何かがかかっていると制作者の誰かが言ってたな。
「そこはドワーフのルーンを交えた鍛冶技術じゃ」
 ドワーフはそう言いながらさっとブツを懐へ戻した。エルフに秘技があればドワーフにも秘術ありということか。ルーンってこの世界だと金属に文字を刻んで何かの能力を付与する魔術の一種なんだっけ?
「ふむふむ。これまでのアクスタとはまた違った利点がありそうですね」 
 俺は考えを整理するつもりで喋る。ア・クリスタルスタンドにルーンの技術で鎖をつけたチャーム、通称アクリルチャームは飾るよりも持ち運ぶ事に秀でているだろう。
「しかしこれを売ると従来のアクスタの売り上げが減らんか?」
「そこは差異をつければ良いぴよ。今までのは大きく派手にして飾る用、新商品は小振りで持ち出し用だぴい!」
 それだ! 相棒の疑問にスワッグがナイスな回答を出してくれた。
「良いと思います! が、もちろん無料って訳じゃないんですよね? 取り分は幾らを想定されていますか?」
 俺はパンと手を叩いて話を一段落させ、すぐに別の議題に気持ちを向けた。ドワーフも別に慈善事業をしている訳ではない。これを売り込みに来たのだ。
「お主等の割り当て分を、ナナサンでどうだ?」
 ドワーフの監督は力強く俺を睨みながら言った。割り当て分とはエルフがアクスタの収益から貰う金額の事である。その売り上げは決まった配分でDSDKや各種族に分配されているが制作は全てエルフが担っているので、どの種族選手のモノが売れても一定の収入があるのだ。
 ポビッチ監督はそれを言っているのである。で、ナナサンと言うとナリンさんみたいで可愛い響きだが、実際は7対3で分けようという話だ。全然、可愛くない。
「俺たちがナナですよね?」
「ふん、冗談を言うではない」
 俺達はそう言い合った後、互いの顔を見て笑った。監督というのは本質的に駆け引きや勝負が好きな種族なのだ。
「だったらよ! お前等、勝負したらどうだ?」
 そんな俺の考えを読んだか、ステフが割って入った。
「勝負? 何の?」
「月曜に試合すんだろ? それの勝者が決めるってのはどうだ?」
 ダスクエルフが言い出したそれは、ただでも重要なエルフvsドワーフの試合を、更に責任重大なものにするとんでもない提案だった……。
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