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第三十章
怪しい面々
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「あっ!」
「あー」
「お、おう……」
「はい? どうしました? モーネさんとリュウさんですよね? 初めまして、ショーキチです」
俺は微妙な反応をしてしまったステフ、アカリさんサオリさんを横目に見ながら姉弟に挨拶をする。
「え? あ、うん。あたしがモーネ」
「リュウです。お帰りの所を呼び止めてしまって、すみません」
そう、そこにいたのは件のモーネ選手とコーチのリュウさんだった。どちらもノートリアスのチームジャージだが、モーネさんはジャージの所々を結んでまとめ、肌が何カ所か露出している。これがいわゆるクラスカースト上位の女子がやる『着崩し』ってやつではないだろうか? いや、俺は男子校出身なので詳しくは知らないが。
「いえ、特に急いでいませんので。練習の方は良いんですか?」
詳しく知らない、と言ったものの実は同じくらいの着崩しはエオンさんやマイラさんもやっていて、たまにザックコーチに注意されている。そういう意味では見慣れてはいるが、あまりジロジロ見るのは失礼だ。俺はモーネさんから視線を外して後方のリュウさんへ注意を向けた。
「ええ、許可は頂いています」
俺の問いに、エルフのコーチは即答した。ふむ、その辺りは卒がないな。話しに聞いた通りということか。
或いは……彼女らが特別扱いを受けているという事か。
「なん、何の用なんだ?」
俺が考え込んで少しだけ間が空いた所へ、ステフが上擦った声で問う。おい、慌てている事がバレバレだぞ? 嘘を暴くのが好きな癖に、自分が嘘をつくのは下手なヤツだ。
「こらこら、ちゃんと挨拶してからにしなさい。こちらはスタジアムイベント担当のステファニー部長で、あちらはスカウト担当のアカリさんとサオリさんです」
俺は彼女の動揺を誤魔化すように、割って入って紹介をした。
「あ、どうも」
「どうもです……」
その強引さに押されて、双方が軽く挨拶を交わす。何故こんな微妙な空気になっているかというと、ナリンさんとリュウさんのアレコレとかモーネシステムの顛末などを彼女らが知っているからだ。そういった情報についても、俺はメリットとデメリットを考慮した上でメリットの方が多ければなるべく伝える事にしているのだ。
ただまあ今回はデメリットがはっきりと出てしまったな。特にステフ!
「あ、こいつナリンさんの元カレじゃん!」
みたいな空気を出し過ぎだぞ!
「それで、実際に何か御用でも?」
「あ、それそれ!」
俺の質問に、モーネさんが気を取り直して手を上げる。
「あのさ、ショーキチ監督とちょっと内密の話がしたいんだけど?」
「ぼっ、僕たち三者だけで」
そうして彼女が言った言葉に、間髪入れずリュウさんが付け足した。
「はあ。じゃあ……何時が良いですかね?」
まあそんなところだろうな、と思っていた俺は脳裏にスケジュールを思い浮かべながら呟く。いつぞやダリオさんが持っていた、自分の予定表を空中投影できる魔法の指輪みたいなものがあれば良いのになあ。
「いや待てまて! お前等みたいな怪しい奴らの所へ、ショーキチを一人で行かせる訳にはいかん!」
そこへ割り込んで来たのはステフだ。いつの間にか例のヘルメットを装着していて、自分が誰よりも『怪しい奴』になっている。
「えー! 別に危ないことはしないもん」
「すみません。俺、誘拐された経験があるので、みんなちょっと過保護になっているんですよ」
口を尖らせるモーネさんへ俺は軽く説明を行った。まあちょっと拉致の経験者で、税関で摘発されて収監された事があり、死者の使者に精神的に拘束された事があるだけなのだが。
「誘拐された経験が!? 指揮官としての懐の深さは、そんな体験からも養われているんですね!」
ところが、その説明に感銘を受けたのはリュウさんの方だった。目を輝かせて俺の顔を見て、それならなおさら水入らずでじっくり話したい! と言い出す始末だ。
「心配ならちょっと離れた所から見守ってくれよ。ヘルメットに集音装置とか読心術の機能を付けるのは無しだぞ」
「ぎく!」
俺が念の為にそう付け加えるとステフは思わず、といった感じで呻いた。どちらも、メディアが発達した地球のスポーツ報道で有名な手段だ。まあその信憑性ははっきりとしないのだが話した内容をあれこれ言われるのは嫌なので、プロアスリートは競技中しばしば口元を覆って話す。特にグローブが使える野球ではお馴染みの風景だよね!
「え、でも見られるのも嫌じゃん? あの説明はどうするの?」
「まあその時だけ、身体で隠せば……」
一方、モーネとリュウの姉弟はなにやら相談中だ。その光景、そしてここまでの態度に俺はなんとなく違和感を覚える。
まずモーネさんだが、彼女ってこんなに可愛かったっけ? 昔の映像では特に目立たない見た目だったが、今は手慣れた感じの着崩しに加えメイクもしているし良い匂いもする。
「試合の最中にも香水をつけているのは武田選手だけだ」
とはラモスさん情報だが、彼女の場合は練習中からつけてるかもしれない。
そしてリュウさん。ナリンさんの元カレにして、急に疎遠になった男性。なんとなくイメージしていたのは冷たい謎めいたエルフだが、寧ろ目に妙な熱を感じる。
いや熱って何だよ! という話だが。これはいわゆる、その、リストさん案件かもしれないのだ……。
「では試合後に、アローズのロッカーででも……」
最終的に、そんな風に話はついた。選手コーチが捌けた後のロッカールームなら人払いならぬエルフ払いができるし、出口も一つなのでおかしな事もできないだろう。
そう約束して俺達はモーネさんリュウさんと別れた。そして密かに、ファッションリーダーであるエオンさんと、腐り方面の専門家リストさんに軽く聞いておくこと! と脳裏にメモを記した。
しかし俺は間違っていた。後から考えれば、メモしておくだけでなく直ちに行動するべきだった……。
第三十章:完
「あー」
「お、おう……」
「はい? どうしました? モーネさんとリュウさんですよね? 初めまして、ショーキチです」
俺は微妙な反応をしてしまったステフ、アカリさんサオリさんを横目に見ながら姉弟に挨拶をする。
「え? あ、うん。あたしがモーネ」
「リュウです。お帰りの所を呼び止めてしまって、すみません」
そう、そこにいたのは件のモーネ選手とコーチのリュウさんだった。どちらもノートリアスのチームジャージだが、モーネさんはジャージの所々を結んでまとめ、肌が何カ所か露出している。これがいわゆるクラスカースト上位の女子がやる『着崩し』ってやつではないだろうか? いや、俺は男子校出身なので詳しくは知らないが。
「いえ、特に急いでいませんので。練習の方は良いんですか?」
詳しく知らない、と言ったものの実は同じくらいの着崩しはエオンさんやマイラさんもやっていて、たまにザックコーチに注意されている。そういう意味では見慣れてはいるが、あまりジロジロ見るのは失礼だ。俺はモーネさんから視線を外して後方のリュウさんへ注意を向けた。
「ええ、許可は頂いています」
俺の問いに、エルフのコーチは即答した。ふむ、その辺りは卒がないな。話しに聞いた通りということか。
或いは……彼女らが特別扱いを受けているという事か。
「なん、何の用なんだ?」
俺が考え込んで少しだけ間が空いた所へ、ステフが上擦った声で問う。おい、慌てている事がバレバレだぞ? 嘘を暴くのが好きな癖に、自分が嘘をつくのは下手なヤツだ。
「こらこら、ちゃんと挨拶してからにしなさい。こちらはスタジアムイベント担当のステファニー部長で、あちらはスカウト担当のアカリさんとサオリさんです」
俺は彼女の動揺を誤魔化すように、割って入って紹介をした。
「あ、どうも」
「どうもです……」
その強引さに押されて、双方が軽く挨拶を交わす。何故こんな微妙な空気になっているかというと、ナリンさんとリュウさんのアレコレとかモーネシステムの顛末などを彼女らが知っているからだ。そういった情報についても、俺はメリットとデメリットを考慮した上でメリットの方が多ければなるべく伝える事にしているのだ。
ただまあ今回はデメリットがはっきりと出てしまったな。特にステフ!
「あ、こいつナリンさんの元カレじゃん!」
みたいな空気を出し過ぎだぞ!
「それで、実際に何か御用でも?」
「あ、それそれ!」
俺の質問に、モーネさんが気を取り直して手を上げる。
「あのさ、ショーキチ監督とちょっと内密の話がしたいんだけど?」
「ぼっ、僕たち三者だけで」
そうして彼女が言った言葉に、間髪入れずリュウさんが付け足した。
「はあ。じゃあ……何時が良いですかね?」
まあそんなところだろうな、と思っていた俺は脳裏にスケジュールを思い浮かべながら呟く。いつぞやダリオさんが持っていた、自分の予定表を空中投影できる魔法の指輪みたいなものがあれば良いのになあ。
「いや待てまて! お前等みたいな怪しい奴らの所へ、ショーキチを一人で行かせる訳にはいかん!」
そこへ割り込んで来たのはステフだ。いつの間にか例のヘルメットを装着していて、自分が誰よりも『怪しい奴』になっている。
「えー! 別に危ないことはしないもん」
「すみません。俺、誘拐された経験があるので、みんなちょっと過保護になっているんですよ」
口を尖らせるモーネさんへ俺は軽く説明を行った。まあちょっと拉致の経験者で、税関で摘発されて収監された事があり、死者の使者に精神的に拘束された事があるだけなのだが。
「誘拐された経験が!? 指揮官としての懐の深さは、そんな体験からも養われているんですね!」
ところが、その説明に感銘を受けたのはリュウさんの方だった。目を輝かせて俺の顔を見て、それならなおさら水入らずでじっくり話したい! と言い出す始末だ。
「心配ならちょっと離れた所から見守ってくれよ。ヘルメットに集音装置とか読心術の機能を付けるのは無しだぞ」
「ぎく!」
俺が念の為にそう付け加えるとステフは思わず、といった感じで呻いた。どちらも、メディアが発達した地球のスポーツ報道で有名な手段だ。まあその信憑性ははっきりとしないのだが話した内容をあれこれ言われるのは嫌なので、プロアスリートは競技中しばしば口元を覆って話す。特にグローブが使える野球ではお馴染みの風景だよね!
「え、でも見られるのも嫌じゃん? あの説明はどうするの?」
「まあその時だけ、身体で隠せば……」
一方、モーネとリュウの姉弟はなにやら相談中だ。その光景、そしてここまでの態度に俺はなんとなく違和感を覚える。
まずモーネさんだが、彼女ってこんなに可愛かったっけ? 昔の映像では特に目立たない見た目だったが、今は手慣れた感じの着崩しに加えメイクもしているし良い匂いもする。
「試合の最中にも香水をつけているのは武田選手だけだ」
とはラモスさん情報だが、彼女の場合は練習中からつけてるかもしれない。
そしてリュウさん。ナリンさんの元カレにして、急に疎遠になった男性。なんとなくイメージしていたのは冷たい謎めいたエルフだが、寧ろ目に妙な熱を感じる。
いや熱って何だよ! という話だが。これはいわゆる、その、リストさん案件かもしれないのだ……。
「では試合後に、アローズのロッカーででも……」
最終的に、そんな風に話はついた。選手コーチが捌けた後のロッカールームなら人払いならぬエルフ払いができるし、出口も一つなのでおかしな事もできないだろう。
そう約束して俺達はモーネさんリュウさんと別れた。そして密かに、ファッションリーダーであるエオンさんと、腐り方面の専門家リストさんに軽く聞いておくこと! と脳裏にメモを記した。
しかし俺は間違っていた。後から考えれば、メモしておくだけでなく直ちに行動するべきだった……。
第三十章:完
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