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第三十章

スポーツ大賞

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 翌日は試合前日。例によってスタジアムで公開練習を行う日だ。ハーピィ戦に続いて俺達は1番手、午前の部を選んで午後開始は相手チームへ譲る事にした。
 お人好しかと思われるかもしれないがノートリアスはあのティアさんの作戦でボロボロの筈だし、朝に設定してもろくに選手が出てこないかもしれない。視察すべき相手がいないのであれば確認も策もあったものではないではないか。
 それにこちらも朝練に慣れている状態である。最近分かってきた事ではあるが、エルフはメンタル的に意外とMである。部活的である。プロとしてトレーニング量をコントロールしてコンディショニング調整を重視し……というのは間違いではないが、思っているよりもややスパルタにした方が選手が発憤するような気がする。特にデイエルフの連中は。
 そんなこんなで俺達は選手コーチを率いて朝からリーブズスタジアムにやってきて、今は因縁の相手と対決していた。


「あう、止められたのだ!」
「うわ、今の邪魔しなきゃ決まってたっすよ!」
「ユイノより上手いんじゃない?」
 そんな声が、観客のいないスタジアムに響く。リーシャ、ひどーい! とのユイノさんの抗議に、多くの選手や記者さん達から笑い声が上がった。
「コオリバー君の調整も上手くいったみたいだな」
 それを見ていたステフは得意げにニヤリと笑った。そう、俺達は公開練習の一環として、調整済みのオリバー君をおいてキックターゲット勝負を行っているのだ。
「監督、アレはどういう意図の練習ナンダ?」
 傍らにいたゴブリンの記者さんが、自分もやりたい気持ちを隠しきれずに問う。
「練習という意味でこじつけて言えば、キックの精度という話になるのかな? 実は明日行うスタジアムイベントのリハーサルなんです」
 俺はその言葉に続いてキックターゲットの概要を告げる。ほぼ、食堂でナリンさん達に話した内容と同じだ。違うのはオリバー君がコオリバー君になった――本来のサイズでは限界まで能力を絞ってもセーブ率が高過ぎたので、サイズそのものを小さくした――ことくらいだ。
「おおう! ずいぶんと楽しそうなゲームだナ!」
 ゴブリンの記者さんは細かくメモをとりながら言った。この世界の小鬼のサッカードウ愛は非常に強い。俺達が戦っているリーグの他にゴブリン中の独自リーグもあるし、俺が伝えたタオルマフラーを振っての応援も瞬く間に自分のモノにした。遠からず、キックターゲットも導入するかもしれない。
「右サイドvs左サイドは右チームの圧勝ですね! 『アローズの右サイドは好調の模様』と……」
 そう呟いたのは逆側にいたゴルルグ族の記者さんだ。彼女の言う通り、フィールドでは右サイドのレイ、エルエル、パリスチームと左サイドのリーシャ、クエン、アイラチームでの対決が行われていた。ゴールの枠内に設置されたパネルは10枚でキックのチャンスは10球。1選手あたり3球3球4球と揃っていないが、当日のイベントでは選手代表とお客様から選ばれた1名が5球づつ蹴るので問題はない筈だ。
「当日は誰が蹴るんだブヒ?」
「お客様は試合開始1時間半までに入場した方から抽選で。ウチの選手はエオンです」
 質問してきた記者さんにそう答えると彼はああ、ユニフォームがハーピィの爪で切り裂かれてエッチな感じになったあの選手か! という顔になってブヒヒと笑った。
 って我ながら表情だけでよくそこまで分かったな! 俺のノンバーバルスキルが高いのか、記者さんのオーク力が高いのか!
「ノートリアス側の選手は?」
「打診はしてあるので、この後で回答を聞くつもりです」
「あの、時間がそろそろ……」
 俺と記者さんの話に、ナリンさんが申し訳なさそうに割り込む。どうやら公開部分の時間が終了のようだ。
「キックターゲット勝負に勝った方には賞品も出るんで、イベントの方も宣伝してくれよな!」
 警備員さんに追い出されていく記者さんたちにステフがそう声をかける。スタジアム選出部長殿も仕事熱心で良いことだ。
「そう言えばさ、ステフ?」
「なんだ?」
 俺も笑顔で記者さんたちを見送りながら、ふと訊ねる。
「なんで『コオリバー君』なんだ? オリバー君はモデルがドイツの選手なんだから、ドイツ語で小さいって意味のクラインつけて『クラインオリバー君』とかじゃダメだった?」
「あー、それか。まあそこは伝統に乗っかって、だ」
 謎に博識のダスクエルフはそう言ってうんうんと頷いた。
「伝統?」
「そう。カール君の子供版はコカール君だったろ? まあさすがにターボはつけんが」
 はあ? ステフがまた意味不明な事を言い出したぞ?
「カール君って誰よ?」
「往年の名選手だろ! 知らないのか?」
 俺の問いに彼女は呆れた顔で答える。カールって名前の名選手? カール・ハインツ・ルンメニゲのことかな? 彼なら弟さんが浦和レッズに所属していたし、もしかしたらそこでコカール君って呼ばれていたかもしれないなあ。
「ショーキチ、ちょっと良いかのう!」
 悩む俺にジノリコーチが何か叫ぶ。そうだ、ここからは非公開練習だった。
「はーい、いま行きまーす!」
 見ると選手もコーチ陣も全員、ピッチ上に揃っていて残されたのは自分だけだ。俺は返事をすると、短距離ランナーの様にダッシュで彼女らの方へ向かった……。
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