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第二十七章

試験への挑み方

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 多少の茶々を入れながらも控え選手の紹介が終わり、エオンさんとスワッグは大役を終えた。成果が発揮されるのはこの後だが彼女らは新規客が選手を覚えるのと観戦に大いに役立つ事だろう。
「相手がアイドルチームのハーピィなので、こちらもアイドル選手であるエオンさんを試合へ出す」
という訳にはいかない現状で、彼女をスペシャルプログラムの進行役に抜擢したのは、我ながら名案だったと思う。
「お? いよいよですか!?」
 アリスさんがそう叫び、いよいよ選手が入場してきた。と、同時に魔法無効化のフィールドがスタジアム内を覆い、観衆の声や場内アナウンスが意味不明なモノへ変わる。
「すみませんアリスさん。ここからは例の、お願いします」
 入場に併せ、ここまで声量を絞ってくれていたゴール裏サポーター達が一斉にチャントを歌い出し騒がしい。俺は聞こえるよう彼女の耳元へ囁く。
「ひゃい! そ、それはマンネリ防止策に私も参加ということ……?」
「はい? 例の日本語をエルフ語に翻訳して伝えるヤツですが」
 だいぶ信頼度が怪しくなってきた女教師にそう確認すると彼女は一度、驚いた顔になった後であははー! と笑い出した。
「そうでした! まっかせてください!」
 アリスさんは照れ隠しのように――と言いつつ何を隠そうとしているのかは分からんが――ドン、と自分の豊かな胸を叩いた。ほんまに大丈夫かいな?
「宜しくお願いしますね。この騒音だと声も通り難いので」
 不安になった俺はそう付け足す。
「ですね! ところでこの歌もさっきの大きなおっぱいのお姉さんと同じく、チームで手配しているんですか?」
 そんな俺の不安に気づいた様子もなく、アリスさんが訊ねてきた。へー実際に大きなおっぱいのお姉さんも他の大きなおっぱいのお姉さんのことを大きなおっぱいのお姉さんと呼ぶんだ……じゃなくて!
「あ、そう推測する方もいるんですね! 違います、これは自然発生と言うかサポーターが自主的に歌ってくれているんですよ」
 普段の選手紹介のコールアンドレスポンスとかゴブリンサポーターに広まったタオル回しなどは俺の仕込みと言っても差し支えないが、応援歌は既にこの世界にあったモノだ。軍隊でも行進歌とかあるしね。
 いやクラマさんがサッカードウと一緒に広めたのかもしれないが。
「ほう! 応援するだけじゃなくて雰囲気も上げてくれるんですね。お金払って入場しているのに!」
 とお金を払わず招待券で観に来ているアリスさんが言う。と揶揄するのも悪いな。普段は全然サッカードウを観ない方の新鮮な意見は貴重だ。招待した価値は今の段階でも十分あったと言える。
「金を引き出して奉仕もさせる……お主も悪よのぉ……」
 と急に唇を歪ませて女教師は笑い、肘で俺の腕をグイグイと突いた。そうだ、この女性もドーンエルフ――弓よりも魔術を得意とし、誠実さよりも発想の奇抜さを尊ぶ――だったな。
「一番、引き出したいのは選手の能力ですけどね。試合は普通に観て貰って良いですけど、指示を出したい時だけはお願いしますよ?」
 もう何度目かになる確認とお願いを俺は繰り返した。心配性だなあ! ともう一発アリスさんからエルボーを喰らったタイミングで審判さんの笛が鳴り、アローズのキックオフで試合が始まった。

「いけー! ってアレ? 確か向かって右へ攻めるんですよね? ボール、左に蹴ってしまいましたよ?」
 立ち上がりいきなり歓声を上げたアリスさんは、不安な顔になって俺に訊ねてきた。
「ええ、エルフチームは右にあるゴールへボールを入れるのが最終目標です。ただ闇雲に攻めても成功率は低いので、まず自陣で全員にパスを回してボールに慣れさせてから、という理由で左に蹴ってます」
 さっきのチャントの件で、彼女からどんなレベルの質問が飛び出してくるか分かっていた。俺は冷静に説明を続ける。
「国語の試験でもいきなり問題を解き出すんじゃなくて、とりあえず設問や回答すべてを読んでからとりかかる、とかあるじゃないですか? そんな感じです」
 俺がそう言うとアリスさんはなるほど、と手を叩いた。いやこの異世界の筆記テストがどんなモノか実は全く知らなかったんだけどね。ただ彼女の様子を見るに、遠いモノでもなかったようだ。
「凄いなあ。足で蹴ったボールをちゃんと味方の足下に届けている」
「まあそういうプロですし、相手も取りに来ていませんから」
 ハーピィチームもそれほど守備でガツガツ来るチームではないし、アローズは安全第一のパスを選択している。その状況下なら繋げて当然だ。将来的にはもっと厳しい状況でもパスを回せる様になって貰う予定だし。
 と、そんな事を語っている間にアローズの全員がボールに触れた。最後の受け手はポリンさんだ。場所は彼女の定位置、中盤高め右サイド。俺とチームのメンバーは、これでキックオフ直後のルーチンが終わったのを知っている。ハーピィ達は知らない。
「きますよ」
 もちろんアリスさんも知らない。だから俺は少しネタバレになるような事を彼女に告げることにした。
「何がですか?」
「ポリンさんから致命的なパスが、です」
 教え子その1の雄姿を見逃して欲しくない。俺は両手の指でポリンさんと、彼女のパスのターゲットをそっと指さした。
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