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第二十四章

ハーフエルフ式闘魂注入

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「シャマーは大丈夫そうだったであります。むしろ余裕で笑っていたと言うか不気味と言うか……」
「もうすぐ大丈夫じゃなくなります」
 俺は帰ってきたナリンさんの報告を聞きつつ現場の方を指さした。シャマーさんが立ち上がりノロノロと前線へ向かおうとする、審判さんが笛を鳴らしアローズFKでの再開を促す、そしてルーナさんが左足を振り抜く現場を。
「ばーん!」
『いったああああ!』
 ばーん、とはルーナさんがFKを蹴った際に口にした擬音で、実際にボールがシャマーさんのお尻にぶち当たった時の音はもっと間抜けなモノだった。
『きゃあ! シャマーにゃん大丈夫!?』
『ちょっとルーナ! なにすんのよ!』
 マイラさんが心配してシャマーさんへ駆け寄り、魔法使いの弟子はお尻に手を当てつつルーナさんの方向へ戻る。あの距離で間違えて味方にFKをぶつけるような選手はアローズにはいない。そもそも前線の枚数が少ないのだ、シャマーさんが位置につくまで蹴るのを待つのが筋だろう。
 と言うことはルーナさんは意図的に弾丸シュートをシャマーさんの臀部に蹴り込んだ。腑抜けていようが、それが分からないほど愚鈍なキャプテンではなかった。
「本当に!? ショーキチ殿、止めなくてよいでありますか?」
「ええ。まあ黄色くらいなら覚悟で」
 予言通りになった事に驚くナリンさんに、俺は腕を組んで首を横に振る。ピッチ上ではシャマーさんとルーナさんによる小競り合いが起こりそうな雰囲気で、事態が分からない審判さんや選手や観客はやや呆然としていた。
 ちなみにだが味方同士の乱闘でも当然、カードや処分の対象にはなり得る。パスを出さない選手や個人プレーに走る選手に仲間が切れて襲いかかる……といった事件もたまにあるのだ。
『ルーナ、どういうつもり!?』
『シャマー! そんなプレー続けたら、ショーキチがコレだよ』
 何を言い争っているか分からないが、ルーナさんは俺を指さした後、両手の人差し指を立てて頭の上に置いた。
「ショーキチ殿、アレは?」
「あの指は鬼の角を表現していて、あ、鬼と言うのは日本の架空の存在でして、怒ったら人に角が生えて鬼になるみたいな……」
 俺はキャプテンと左SBに群がるエルフたちを眺めながら説明する。ナリンさんは多少なり日本の文化にも通じているから少し理解できるようだが、シャマーさんには何の事やら? といった感じだろう。
 しかし娘にそんな仕草を伝えているとは……。さてはクラマさん、まあまあ昭和の人間だったな?
『ショーちゃんがドレって!? あ、ナリンと? まさかナリンに牛のように突撃を!?』
『違うよ色ボケ……うん、まあそう。シャマーがそんなんじゃショーキチ、ナリンを選んじゃうかもね』
『貴女達、どうするのじゃ? やるのかやらんのかはっきりせい』
 何か話し合う両者へ、意外な事にアガサさんが仲裁へ入ったようだ。いやしかし彼女はプレイだけでなく普段の言動もスローペースかつ謎めいた所がある。案外、仲裁役に相応しいかもしれない。
『いややらないけど』
『やるならナイフがよかろう。一突きで決まる』
『ごめんアガサー。私達はやらない。ショーちゃんの一突きを貰うのは私だから!』
 ルーナさんが肩をすくめ、シャマーさんが何か言いながらアガサさんの腕を叩いた。その場へ審判のドラゴンさんも舞い降り近付く。
「両者とも落ち着いたようだな? 試合再開で良いか?」
『うん』
『はい、すみませーん』
「今回は特別にカードは出さないが、次にあれば味方同士の小競り合いでも退場を告げるからな」
 どういうやりとりかは理解できないがドラゴンさんの言葉でなんとなく収まったのであろうことが分かる。実際、審判さんも選手達もポジションへ戻って行き、ゴルルグ族のスローインで――ボールはシャマーさんの臀部で跳ね返った後、サイドラインから出ていたのだ――試合が再開された。
「無事、収まったようであります! ショーキチ殿がオニとやらになるという脅しが効いたのでありますね! さすがです!」
「いや、どうでしょう?」
 なぜかドヤ顔のナリンさんに俺は首を横に振る。怒りで他者を操るのは良い事じゃないし、立場が上の人間がそれをやるのはパワハラだ。
 とかなんとか偉そうな事を言うより何より、アレはそんな雰囲気じゃないんだよなあ。実際はどんな話がされたのか、後であの中の誰かに聞こう。
『で、結局マッチアップなんじゃがの』
「あ! ショーキチ殿! ロイド選手のマークの問題がまだ未解決だったであります!」
 俺たちの元へジノリコーチがやってきて、ナリンさんが引き締まった顔に戻り言った。
「そういやそうですね」
 ルーナさんのアレでシャマーさんが闘魂を取り戻したとしたなら、リストさんを前線へ上げ頭脳的なDFの名手をロイド選手へぶつければ良い。変更は最小限で済むし、それぞれがそれぞれの得意なポジションで任務を全うできる。
 一方でシャマーさんの前目でのプレイをもう少し見たくもあるし、リストさんを成長させる為にまだロイド選手と戦わせたくもあった。
「すみません。厳しいとは思いますが、現状維持でちょっと選手に頑張らせてみましょう」
 俺はそう言ってナリンさんに通訳を頼む。ジノリコーチは心得た、とばかりに頷きジノリ台を持ってテクニカルエリアのギリギリ端へ向かった。せめて声でアドバイスを送って、リストさんをアシストしようとの行動だろう。偉そうだけど人情派なんだよな、ドワーフって。
「リストさんは任せるとして、そっちはどうなんだシャマーさん?」
 俺はそう呟いてキャプテンマークを巻き直すドーンエルフの方を見た。そして何時ものように、驚かされる事となった。
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