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第二十四章
水でも被って反芻なさい
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シャマーさんをTOP下、司令塔の位置へ置くことになったのはタッキさんの意見――昨シーズンから控えチームで一緒にプレイする事が多くやり易かった――を聞いたからであった。
そもそもシャマーさんは地頭が良くサッカードウIQも高いのでどんなポジションでもこなせる。ただ他者を罠にしかけるのを好むという性質上、守備的な位置の方が向いているというだけだ。そのアイデアと万能性は攻撃の面でも生かせる筈だ。
で、タッキさんと相性が良く、色んなプレイが出来るシャマーさんをFWの近くへ置けば面白い効果が上がるのではないか? そう期待してピッチへ送り出したのだが……。
「はっきり言って、ロイド選手にリストをぶつける、という選択以上のミスかもしれないであります」
コーチの分担で言えばジノリコーチが守備寄りでナリンさんが攻撃寄り。と言うわけで代表して美貌のエルフが口を開いた。
「そうなんですか!? いつもはDFラインからでも上手くドリブルで持ち上がって面白いパスを出している印象なんですが」
「確かにそうであります。しかし前にいると、そもそもボールを持てない様でありまして」
ナリンさんがそう言う矢先で、ちょうどシャマーさんへパスが入った。今日はタッキさんの1TOPなので相手DFは余り気味だ。TOP下のシャマーさんまで躊躇う事なくDFがつく。
そのDFはボールを受けたシャマーさんの背中に強く当たり、背後からの激しいプレッシャーで彼女を押し潰すとあっさりとボールを奪った。
「倒されたじゃんファウル! ……じゃないよな。さすがに簡単に倒れ過ぎだ」
俺は副審さんへアピールをしかけて、すっと言葉を収めた。同意するようにナリンさんとジノリコーチが口を開く。
「ええ。せめてもう少し踏ん張らないと、逆にシミュレーションを取られかねないであります」
『あそこで容易に奪われると、攻め上がりかけたルーナと守備に残ったアガサ、ガニアの負担が激しいぞい!』
それもそうだ。普段なら名演技で相手FWのファウル&イエローさえ誘発するシャマーさんだが、今日は逆に自分が貰いそうだ。ついでジノリコーチの翻訳を聞いて俺は考え込む。
普段CBをしているシャマーさんがボールを持つシチュエーションと言えば相手から奪うとか、他のDFやシュートをキャッチしたGKからパスを受ける状況だ。そこに『受ける為の工夫』的なモノはあまりない。
だが攻撃的なポジションの選手は違う。たいていの場合、相手DFがマークについてきるのでそのマークを振り切ってフリーになるか、或いはDFを背負って――これは用語的な意味での背負うであり、実際におんぶ抱っこする訳ではない。DFを自分の背中でブロックするという意味だ――ボールを受ける必要がある。
今日、慣れぬ攻撃的な位置へ入ったシャマーさんにはその工夫があまり見えない感じだ。特にDFを背負う方。テクニックや身体の強さが足りない訳ではない筈だが、背中から当たられた時のこらえ性が無さ過ぎる。
「おおう、また!」
「ピピーッ!」
再びDFが背後からチャージし、シャマーさんがボールを抱えながら倒れ笛が鳴った。
「これは!?」
「どっちでありますか!?」
俺とナリンさんは慌ててスタジアム上部のドラゴンさんを見る。
「エルフボールで再開」
そのドラゴンさんが魔法で増幅された声で告げる。良かった。幸い今回は相手DFのファウルをとってくれたが、自己判断でファウルと思ってボールを手に取るとハンドリングの反則を取られることもあるのだ。
「ショーキチ、アレはダメだ」
プレースキックのポイントへ向かう途中でルーナさんが立ち止まり、ライン際にセットされたドリンクのボトルを拾いながら言った。
「え? 何が? あ、ナリンさんはシャマーさんの様子を」
「ラジャーであります!」
今はルーナさんがこちらサイドにおり、クラマ殿の血を引く彼女は日本語が話せる。俺はナリンさんにシャマーさんの状態確認を依頼し、ハーフエルフの言葉に耳を傾ける。
「シャマーはずっとあんな感じで腑抜けてる。バックチャージの度に、たぶんショーキチのバックハグを反芻して」
「はぁ!? バックハグの反芻!?」
俺は思わず大声を出し、それを抗議と受け取ったか第4審判さんが抑えて、とジェスチャーする。
「あ、すみません。え? バックハグって、俺はそんなこと……」
「してたよね? 更衣室で」
俺は第4審判さんに会釈しルーナさんの方へ向き直す。ええとバックハグだが、やってたかやってなかったか? と言えば7対3くらいでやってたかなあ。暴れるシャマーさんを背後から抑える為だけど。
「じゃあ背後から抱え込まれた時にふにゃ、となるのは……」
「ショーキチのせいだよ」
ルーナさんが飲み終わったボトルを俺に投げながら言う。俺の責任か? 水でも被って反省しなさいという意味か? でもまあ、ハグをすると出るのはオキシトシンの方で、ボクシングやサッカーの様な激しいスポーツに関係するテストステロンとは逆の方向性だ。
ってまたボクシングの話してる!?
「ショーキチさえ良ければ闘魂注入するけど?」
ルーナさんはそう言いながら丸太の様に太い足でトントン、と地面を蹴った。その仕草で俺は何となく察する。彼女は別に顔面を殴ったり張り手したりするのではない。もっと恐ろしい事をするのだ。
「くれぐれも70%……いや30%くらいの出力でお願いします……」
「りょーかい」
悪魔の左足を持つSBは短く答えるとゆっくりとポイントの方へ向かってステップを刻み始めた。
そもそもシャマーさんは地頭が良くサッカードウIQも高いのでどんなポジションでもこなせる。ただ他者を罠にしかけるのを好むという性質上、守備的な位置の方が向いているというだけだ。そのアイデアと万能性は攻撃の面でも生かせる筈だ。
で、タッキさんと相性が良く、色んなプレイが出来るシャマーさんをFWの近くへ置けば面白い効果が上がるのではないか? そう期待してピッチへ送り出したのだが……。
「はっきり言って、ロイド選手にリストをぶつける、という選択以上のミスかもしれないであります」
コーチの分担で言えばジノリコーチが守備寄りでナリンさんが攻撃寄り。と言うわけで代表して美貌のエルフが口を開いた。
「そうなんですか!? いつもはDFラインからでも上手くドリブルで持ち上がって面白いパスを出している印象なんですが」
「確かにそうであります。しかし前にいると、そもそもボールを持てない様でありまして」
ナリンさんがそう言う矢先で、ちょうどシャマーさんへパスが入った。今日はタッキさんの1TOPなので相手DFは余り気味だ。TOP下のシャマーさんまで躊躇う事なくDFがつく。
そのDFはボールを受けたシャマーさんの背中に強く当たり、背後からの激しいプレッシャーで彼女を押し潰すとあっさりとボールを奪った。
「倒されたじゃんファウル! ……じゃないよな。さすがに簡単に倒れ過ぎだ」
俺は副審さんへアピールをしかけて、すっと言葉を収めた。同意するようにナリンさんとジノリコーチが口を開く。
「ええ。せめてもう少し踏ん張らないと、逆にシミュレーションを取られかねないであります」
『あそこで容易に奪われると、攻め上がりかけたルーナと守備に残ったアガサ、ガニアの負担が激しいぞい!』
それもそうだ。普段なら名演技で相手FWのファウル&イエローさえ誘発するシャマーさんだが、今日は逆に自分が貰いそうだ。ついでジノリコーチの翻訳を聞いて俺は考え込む。
普段CBをしているシャマーさんがボールを持つシチュエーションと言えば相手から奪うとか、他のDFやシュートをキャッチしたGKからパスを受ける状況だ。そこに『受ける為の工夫』的なモノはあまりない。
だが攻撃的なポジションの選手は違う。たいていの場合、相手DFがマークについてきるのでそのマークを振り切ってフリーになるか、或いはDFを背負って――これは用語的な意味での背負うであり、実際におんぶ抱っこする訳ではない。DFを自分の背中でブロックするという意味だ――ボールを受ける必要がある。
今日、慣れぬ攻撃的な位置へ入ったシャマーさんにはその工夫があまり見えない感じだ。特にDFを背負う方。テクニックや身体の強さが足りない訳ではない筈だが、背中から当たられた時のこらえ性が無さ過ぎる。
「おおう、また!」
「ピピーッ!」
再びDFが背後からチャージし、シャマーさんがボールを抱えながら倒れ笛が鳴った。
「これは!?」
「どっちでありますか!?」
俺とナリンさんは慌ててスタジアム上部のドラゴンさんを見る。
「エルフボールで再開」
そのドラゴンさんが魔法で増幅された声で告げる。良かった。幸い今回は相手DFのファウルをとってくれたが、自己判断でファウルと思ってボールを手に取るとハンドリングの反則を取られることもあるのだ。
「ショーキチ、アレはダメだ」
プレースキックのポイントへ向かう途中でルーナさんが立ち止まり、ライン際にセットされたドリンクのボトルを拾いながら言った。
「え? 何が? あ、ナリンさんはシャマーさんの様子を」
「ラジャーであります!」
今はルーナさんがこちらサイドにおり、クラマ殿の血を引く彼女は日本語が話せる。俺はナリンさんにシャマーさんの状態確認を依頼し、ハーフエルフの言葉に耳を傾ける。
「シャマーはずっとあんな感じで腑抜けてる。バックチャージの度に、たぶんショーキチのバックハグを反芻して」
「はぁ!? バックハグの反芻!?」
俺は思わず大声を出し、それを抗議と受け取ったか第4審判さんが抑えて、とジェスチャーする。
「あ、すみません。え? バックハグって、俺はそんなこと……」
「してたよね? 更衣室で」
俺は第4審判さんに会釈しルーナさんの方へ向き直す。ええとバックハグだが、やってたかやってなかったか? と言えば7対3くらいでやってたかなあ。暴れるシャマーさんを背後から抑える為だけど。
「じゃあ背後から抱え込まれた時にふにゃ、となるのは……」
「ショーキチのせいだよ」
ルーナさんが飲み終わったボトルを俺に投げながら言う。俺の責任か? 水でも被って反省しなさいという意味か? でもまあ、ハグをすると出るのはオキシトシンの方で、ボクシングやサッカーの様な激しいスポーツに関係するテストステロンとは逆の方向性だ。
ってまたボクシングの話してる!?
「ショーキチさえ良ければ闘魂注入するけど?」
ルーナさんはそう言いながら丸太の様に太い足でトントン、と地面を蹴った。その仕草で俺は何となく察する。彼女は別に顔面を殴ったり張り手したりするのではない。もっと恐ろしい事をするのだ。
「くれぐれも70%……いや30%くらいの出力でお願いします……」
「りょーかい」
悪魔の左足を持つSBは短く答えるとゆっくりとポイントの方へ向かってステップを刻み始めた。
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