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第二十四章

技術転用

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「うん、取り込み中。5分くらいで終わるから私の代わりにペナントの交換しておいてー」
「別になにもないです! ルーナさん、何の用です!?」
 シャマーさんと俺は同時に口を開き、下にいた女性は床に落ちていたペナント――チームの小さな旗だ。試合前に相手チームのとキャプテン同士で交換する――を差し出し上にいた男は大きく首を横へ振った。
「どうしよっかなー。でもシャマーもいるしちょうど良いか。ショーキチ、これ」
 ルーナさんは少しだけ悩んで、すぐに後ろ手に持っていた布の固まりを差し出した。
「この物体は?」
「シャマーに作って貰った例のヤツを少し、改造した」
 それ、を解いてみるとだいたいの詳細が分かった。これらはこの世界の布オムツだ。5つくらいある。オーク代表戦の前にそれで散々からかわれたから見覚えがあるぞ。
「えー!? 赤ちゃんなら今から作るけど、これはそんなに早く必要にならないよー」
「作りません! えっと、これで何を?」
 少なくともそれがオムツであるという点では認識が一致したドーンエルフが恥ずかしそうに言い、俺は素早くツッコミつつハーフエルフに意図を問う。
「ううん、これはどちらかと言うと赤ちゃんできてないから必要なヤツ。例の生理用品、ってヤツ? アレとオムツを合体させた」
「そうですか。それで?」
「これがあれば漏らしながらでもプレイできるかも」
 ルーナさんがさらっととんでもない事を言う。
「漏らしながらー!? そういうプレイかー」
「マジか……」
 あれ!? ずいぶん話のレベルが高いな? シャマーさんは納得し俺は劇画調の漫画のような顔になりながら呟く。さっきまでは――まあ誤解だったとしても――ベンチに押し倒して5分かそこらで済ませてしまう程度の間違いだった筈だ。
「これをベンチに渡してみたらどうかな?」
「うん、確かにそれをベンチに置いたら汚さないし腰も痛くないかもー」
「いやそこは普通に布を敷きましょうよ……って違う! ぜんぜん話の方向が違う!」
 汚さない、の辺りでギリギリ俺は誤解に気づく。
「お腹を壊している選手がつけるんですね?」
「うん。なにか他にある?」
 いや例えばこれを敷いてその上でイタすとあれこれ汚さないとか……とはとてもじゃないが言えず、俺は黙って首を横に振った。
「ああ、内側にルーナのアレをとりつけているのねー。なるほど」
 シャマーさんはそれを一つ俺から奪い、裏返して何かを外して納得したように呟く。アローズの選手の中で、人間の血を引くハーフエルフであるルーナさんだけが人間の女性と同じく月に何日か血を流す。その際の体調不良や出血についていくつかシャマーさんと相談したのだが、その内の一つがいま外した生理用ナプキン的な物体だった。液体を効率よく吸収する物体が張り付けてある。
「どう? 使えそう?」
「うーん……」
 確かに生理用ナプキンをオムツ代わりに使う、というケースを聞いた事がある。誰に? もちろんコールセンター勤務のおば……お嬢さんたちからだ。他の地方やセンターは知らないが、関西の俺よりだいぶ年上のお嬢さん達にとって俺たち若造は男の中に入らないらしく、まあまあ赤裸々にかつ恥ずかしげ無くそのあたりの経験談――うちのチビちゃんそろそろオムツ卒業なんやけどちょっと切らしてたんでアタシのナプキンつけたったわー。将来生意気になったら教えたろ。アンタ、おかんのナプキンつけてたんやで? みたいな――を語ってくれるのだ。
 だが成年エルフの下痢とハーフエルフの経血とオムツ卒業間際の子供のお漏らしはたぶん量も質も違う。有効に働くかは不明だ。
 しかもトレセン――若いサッカー選手が将来を見込まれて選抜され訓練を受ける制度――ならともかく、トレパン――トレーニングパンツの略でオムツなしトレーニングを始める子供がつける準オムツ的なパンツ――を履くのは名誉でもなんでもない。選手たちが納得するだろうか?
「作るときは使ったけど魔力は残ってないから、使用は許されると思うんだけどねー」
 シャマーさんがそれをひっくり返して眺めながら言う。なるほど、リストさんのサングラスみたいなモノか。ってそうだ、認可も得なきゃいけない!
「「ビッビー!」」
 更衣室に警告音が響いた。おそらく試合開始を急かす音だ。なにせここには選手が2名もいる。早くピッチへ来い、と言いたいのだろう。
「ルーナさん、ありがとうございます。認可が降りるか、ベンチの選手にフィットするかは分からないけど、こっちはそれを試します。お二方は早く行って! 選手が揃わないと試合開始できない!」
 俺はシャマーさんから改造ナプキンオムツを引き取り、早口で言った。DF達は黙って頷き、反転して一気に駆け出す。
「はやっ! 凄い身体能力持ってんなー羨ましい……」
 以前、ヨット対決を行ったがそれがビーチフラッグだったら俺の惨敗だっただろう。彼女たちと競うなら頭脳労働か手先を使うゲームに限るな!
「……とか言ってる場合じゃないわ!」
 冷静に考えれば誰もいない女子更衣室で改造ナプキンオムツを手に取り一人羨望の言葉を持らす男って、かなり危ない光景だ。それに俺にはやるべき事が幾つもある。
「リーシャさんから変態扱いされないかな……」
 俺は少し不安になりながらもまずは控え選手の部屋、そしてマッチコミッショナーの元へ向かう事にした。
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