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第二十四章
おもしれーくないおんな
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更衣室はややガランとしていた。アウェイチーム用のロッカーは一般的に最低限の仕様及び広さで全員が入ると手狭な印象を受けるのだが、ゴルルグ族は俺の要請通りに広い部屋を手配してくれたし、控え選手と何名かのスタッフは別室で魔法通信を使って遠隔的にミーティングに参加するからだ。
「まず最初に言いたいことは……」
ロッカーアウトの合図が鳴って、俺は部屋の中央へ進み口を開く。それぞれ試合への準備をしていた全員が一斉に俺の方を見た。立っている選手座っている選手、準備の仕方も緊張の度合いも違うが気持ちは一つにしないといけない。
「みんなに『勝利おめでとう』と」
案の定、なに言ってんだコイツ? みたいな空気が皆の目や顔に現れる。狙い通りだ。
「今日の試合を開催までこぎ着けたこと、それが大きな勝利だ。みんなで勝ち取った勝利だ。健康な選手、体調不良でもベンチ入りしてくれた選手、日々エルヴィレッジで競い合って互いを高めてくれているあちらに残っている選手。そしてそんな選手を支えてくれているスタッフ一同みんなでね」
俺はここにいる全員と、中継用の魔法端末のすべてを見渡して言った。
「今回の事情が公表されなくて不甲斐ない戦いっぷりに見えて、誰かから後日なにか言われるかもしれない。残念ながらそれは受け入れる必要がある。でも俺は知っている。俺たちは知っている。今日、勝利したのは全員だ。それだけを忘れないで。試合を楽しんで。俺からは以上です。キャプテン?」
俺は少し動いて部屋の中心をシャマーさんへ譲った。今日はいつもと違うポジションへ入るリベロは、いつもと違う表情で口を開く。
「今日は難しい試合になるよー。特に攻撃。何せ司令塔が訳分かんないおもしれー女だからねー」
その言葉に何名かが忍び笑いを漏らす。なぜならそう、司令塔的なポジションを担うのが当のシャマーさんだからだ。
「それでもこの状況を楽しむしかないね。3、2、1、おもしれー女、でいくよ? 3、2、1……」
「「おもしれー女!」」
キャプテンの号令に全員が声を合わす。いつもほどの迫力はないが、皆が出せるだけの声を振り絞った。
「守備はしぶとくじゃ! 同じ状況、ドワーフなら決して音をあげんぞ! お主等はどうだ!?」
ジノリコーチが煽るような言葉で選手を送り出す。エルフには効果覿面だろう。何となく、彼女たちの背中から何時もと違う闘気みたいなモノが立ち上っているのを感じた。
「いや? それはどうかな……」
選手スタッフが消え誰もいなくなった更衣室に一人、残された俺は違和感から思わず呟いてしまった。チームの精神状態は悪くない。悪くない筈なんだが……。
「ショーキチ殿? どうしましたか?」
俺の事を心配してか、ナリンさんが戻って来て部屋の入り口から声をかけてきた。こういう心がけができるのがナリンさんだよな、ありがたい。俺も彼女に見習うとしよう。
「ナリンさん済みません、彼女を呼んできて下さい!」
普段ならこんな事は絶対にしない。だが俺は彼女を更衣室へ呼び戻した上でナリンさんに他の選手の面倒を頼み、二人きりで向き合った。
「どうしたのショーちゃん? 何か戦術的な事で言い忘れ?」
シャマーさんは真剣かつやや不安そうな顔で俺に問う。
「いえ、そっちじゃないです」
俺の不安は的中していた。彼女がこんな風に呼び出されて、そんな事を聞いてくるとは。
「じゃあなに? 実は隠しているけど体調不良の子がスタメンにいるとか?」
「あー、近いです」
そう言いながら俺は彼女の手を取り、空いたベンチに共に腰掛ける。
「不調は貴女。シャマーさんです」
「えっ!? 私ー!?」」
キャプテンの目が大きく見開かれる。常に余裕綽々の彼女を驚かせられた事をいつもなら喜ぶが、今は違った。
「さっきの号令。特に俺をイジりもしなかったしジョークのキレもなかった。今だって、ここに二人きりなのに余計な事ひとつ言わない。シャマーさん、責任を感じて気負ってますね?」
俺がそこまで一気に言い切ると、彼女は出会って以来初めてであろうことをした。
「…………」
黙って、俺から目を、顔を背けたのだ。
「正解ですね」
「見ないでよ。そんなところまで」
弱々しい声で、たぶん彼女はそう言った。
「何度も言ってますが今の事態は誰のせいでもありません。責任を感じたりせず、いつも通り……」
「無理だよそんなの!」
今度はとんでもなく強い口調でシャマーさんが言う。いやはや高低差が激しいな。
「私のせいでみんなとんでもなく苦しそうだし、ショーちゃんがいっぱい頑張っていっぱい作ってきたチームにとんでもなく迷惑かけたし、いつも通りって言っても無理しても負けるかもしれないし……!」
「シャマーさん!」
言い積もる間に両腕がバタバタし出した彼女を、俺は後ろから抱きしめた。
「集団の体調不良なんて究極、コントロールのしようがないし、この一試合負けるだけで崩れるようなチームを作ってきたつもりはありません!」
細身とは言えエルフはエルフで、サッカードウ代表選手のアスリートだ。シャマーさんの力は想像以上に強かった。フィジカルも意外と真面目にやってんな? と俺は少し嬉しくなった。
「離してショーちゃん!」
「ちょっと落ち着いて下さい!」
「でも私は……自分が許せないの!」
「そんなのシャマーさんらしくないですよ! いいからこっち向いて!」
「やだ!」
「いいから!」
「「ん!!??」」
身長は俺の方がまあまあ高く座高で言えば更に差があった。そんなサイズ、普通は把握しないがそこはまあ選手なのでフィジカルと一緒に計ってあったのだ。
で、シャマーさんは突き放そうとして俺は上から押さえ込もうとして、つまりその、いろいろぐだぐだと言ったけどまあそんな体格差だから結果として、俺は彼女をベンチの上に押し倒し、背後から覆い被さった上で唇を押しつける形になっていた。
「うわっ! や、ごめんなさい!」
「んー!? ん……うん……いいよ」
なにがいいよ、か知らないが俺の下でシャマーさんの力が一気に抜け目が閉じられた。
「すみません、退きます!」
「あ、取り込み中?」
慌てて身を起こしたところで、更衣室のドアが開いた。
「まず最初に言いたいことは……」
ロッカーアウトの合図が鳴って、俺は部屋の中央へ進み口を開く。それぞれ試合への準備をしていた全員が一斉に俺の方を見た。立っている選手座っている選手、準備の仕方も緊張の度合いも違うが気持ちは一つにしないといけない。
「みんなに『勝利おめでとう』と」
案の定、なに言ってんだコイツ? みたいな空気が皆の目や顔に現れる。狙い通りだ。
「今日の試合を開催までこぎ着けたこと、それが大きな勝利だ。みんなで勝ち取った勝利だ。健康な選手、体調不良でもベンチ入りしてくれた選手、日々エルヴィレッジで競い合って互いを高めてくれているあちらに残っている選手。そしてそんな選手を支えてくれているスタッフ一同みんなでね」
俺はここにいる全員と、中継用の魔法端末のすべてを見渡して言った。
「今回の事情が公表されなくて不甲斐ない戦いっぷりに見えて、誰かから後日なにか言われるかもしれない。残念ながらそれは受け入れる必要がある。でも俺は知っている。俺たちは知っている。今日、勝利したのは全員だ。それだけを忘れないで。試合を楽しんで。俺からは以上です。キャプテン?」
俺は少し動いて部屋の中心をシャマーさんへ譲った。今日はいつもと違うポジションへ入るリベロは、いつもと違う表情で口を開く。
「今日は難しい試合になるよー。特に攻撃。何せ司令塔が訳分かんないおもしれー女だからねー」
その言葉に何名かが忍び笑いを漏らす。なぜならそう、司令塔的なポジションを担うのが当のシャマーさんだからだ。
「それでもこの状況を楽しむしかないね。3、2、1、おもしれー女、でいくよ? 3、2、1……」
「「おもしれー女!」」
キャプテンの号令に全員が声を合わす。いつもほどの迫力はないが、皆が出せるだけの声を振り絞った。
「守備はしぶとくじゃ! 同じ状況、ドワーフなら決して音をあげんぞ! お主等はどうだ!?」
ジノリコーチが煽るような言葉で選手を送り出す。エルフには効果覿面だろう。何となく、彼女たちの背中から何時もと違う闘気みたいなモノが立ち上っているのを感じた。
「いや? それはどうかな……」
選手スタッフが消え誰もいなくなった更衣室に一人、残された俺は違和感から思わず呟いてしまった。チームの精神状態は悪くない。悪くない筈なんだが……。
「ショーキチ殿? どうしましたか?」
俺の事を心配してか、ナリンさんが戻って来て部屋の入り口から声をかけてきた。こういう心がけができるのがナリンさんだよな、ありがたい。俺も彼女に見習うとしよう。
「ナリンさん済みません、彼女を呼んできて下さい!」
普段ならこんな事は絶対にしない。だが俺は彼女を更衣室へ呼び戻した上でナリンさんに他の選手の面倒を頼み、二人きりで向き合った。
「どうしたのショーちゃん? 何か戦術的な事で言い忘れ?」
シャマーさんは真剣かつやや不安そうな顔で俺に問う。
「いえ、そっちじゃないです」
俺の不安は的中していた。彼女がこんな風に呼び出されて、そんな事を聞いてくるとは。
「じゃあなに? 実は隠しているけど体調不良の子がスタメンにいるとか?」
「あー、近いです」
そう言いながら俺は彼女の手を取り、空いたベンチに共に腰掛ける。
「不調は貴女。シャマーさんです」
「えっ!? 私ー!?」」
キャプテンの目が大きく見開かれる。常に余裕綽々の彼女を驚かせられた事をいつもなら喜ぶが、今は違った。
「さっきの号令。特に俺をイジりもしなかったしジョークのキレもなかった。今だって、ここに二人きりなのに余計な事ひとつ言わない。シャマーさん、責任を感じて気負ってますね?」
俺がそこまで一気に言い切ると、彼女は出会って以来初めてであろうことをした。
「…………」
黙って、俺から目を、顔を背けたのだ。
「正解ですね」
「見ないでよ。そんなところまで」
弱々しい声で、たぶん彼女はそう言った。
「何度も言ってますが今の事態は誰のせいでもありません。責任を感じたりせず、いつも通り……」
「無理だよそんなの!」
今度はとんでもなく強い口調でシャマーさんが言う。いやはや高低差が激しいな。
「私のせいでみんなとんでもなく苦しそうだし、ショーちゃんがいっぱい頑張っていっぱい作ってきたチームにとんでもなく迷惑かけたし、いつも通りって言っても無理しても負けるかもしれないし……!」
「シャマーさん!」
言い積もる間に両腕がバタバタし出した彼女を、俺は後ろから抱きしめた。
「集団の体調不良なんて究極、コントロールのしようがないし、この一試合負けるだけで崩れるようなチームを作ってきたつもりはありません!」
細身とは言えエルフはエルフで、サッカードウ代表選手のアスリートだ。シャマーさんの力は想像以上に強かった。フィジカルも意外と真面目にやってんな? と俺は少し嬉しくなった。
「離してショーちゃん!」
「ちょっと落ち着いて下さい!」
「でも私は……自分が許せないの!」
「そんなのシャマーさんらしくないですよ! いいからこっち向いて!」
「やだ!」
「いいから!」
「「ん!!??」」
身長は俺の方がまあまあ高く座高で言えば更に差があった。そんなサイズ、普通は把握しないがそこはまあ選手なのでフィジカルと一緒に計ってあったのだ。
で、シャマーさんは突き放そうとして俺は上から押さえ込もうとして、つまりその、いろいろぐだぐだと言ったけどまあそんな体格差だから結果として、俺は彼女をベンチの上に押し倒し、背後から覆い被さった上で唇を押しつける形になっていた。
「うわっ! や、ごめんなさい!」
「んー!? ん……うん……いいよ」
なにがいいよ、か知らないが俺の下でシャマーさんの力が一気に抜け目が閉じられた。
「すみません、退きます!」
「あ、取り込み中?」
慌てて身を起こしたところで、更衣室のドアが開いた。
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