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第二十四章
成立と誠実
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試合を開催するのかどうかは、実は非常に複雑な問題だった。選手の数はギリギリ足りる。無事の選手は11名いるのでスタメンは組めるし、控えの選手は登録するだけしておいて交代しなければ良いからだ。まあ試合中、座っているのはベンチではなく便器だろうけど。
……などと上手いこと言っている場合ではない。そうやって何とか試合を行った場合のリスクとリターン、メリットとデメリットを考える必要があった。
まず選手の体調面。無事な選手、と言っておいてなんだがそれは『今のところ』である。遅れて症状が現れる可能性もゼロではない。そうなっても交代できる相手はいないし下げるだけになるのだが……退場が間に合うか? という問題もある。
引っ込む前にフィールド上で選手がそうなってしまったら大惨事だ。下がったり退場したりするのは尊厳の方になってしまう。
次に勝負の面。恐らくだが試合には負けるだろう。普通にやってもゴルルグチームは強敵なのに、予定と違う練習もしていないメンバーで挑む事になるし交代もできない。
ではチーム全体の体調不良を申し出て協議合意の上で不戦敗を選んでみてはどうか? 実は監督カンファレンスで確認済みだがその場合はこちら主観で言えば0-3での負けと見なされる。余談だが例外はノートリアスであの軍隊チームだけは0-1で許される。彼女らこの大陸の種族をアンデッドから守っているのだ、急な作戦行動等もある。選手登録抹消の自由など様々な特典を享受しているが、当然の権利だろう。
話しを元に戻して。その0-3の負けを受け入れるかどうか。恐らく今の状況で戦えば負けると予想したが、0-3ほどの負けになるかは微妙だ。ゴルルグ族のチームは狡猾でテクニカルなサッカーをするが、爆発力があるタイプではない。仮にこちらの事情を知り一方的に攻め込んできたとしても、3得点をあげる可能性はそう高くない。しかも幸運な事にこちらのGKとDFラインはほぼ無傷だ。上手く行けば引き分けくらいは狙えるかもしれない。
一方で、サッカーには何があるか分からないので0-3以上の大敗を喫するとか、カードを受けるとか負傷をする可能性もある。不戦敗を受け入れればそれらの心配は一切、無い。
最後に興業面。これは不戦敗を選んだ場合の話しだが試合不成立の有責チーム、まあ早い話しこちら側が、本来ではゴルルグ族が得られた筈の利益を保証する必要がある。入場料収入や売店の見込み売り上げ等を、だ。
更にこれはDSDKの規約外の話として、この試合を観戦する為に遠征してきたサポーターへの補償もある。繰り返すがこれは規約外の事で義務ではない。かと言ってチームがコアサポーターに何の詫びも入れないとなると、関係が悪化する。密かに何か渡すか後に別の便宜を働く必要があるだろう。
因みに興業面でのアレコレについてはダリオさんに動いて貰っている。僥倖な事に彼女は別階層のVIP室に宿泊しており、体調不良も無い。というかお姫様が嘔吐や下痢していたら洒落にならなかった。ともかく、彼女は無事でチームとの接触も無いので、全力で周辺の整理をやってくれている。
つまり興業面の補償金額を本国のムルトさんに試算させたり、遠征サポーターの数を把握したり、中止を申し出る時の申請先やタイムリミットを確認したり。
そんな訳で最終判断はそれらの情報がもたらされてからだが、俺は重大な決断をする必要があったのだ。
「えっと、試合をするとほどほどの負けや引き分けかもしれないけド、めっちゃ負けるかもしれないし選手がピッチ上でピー! ってなるかもしれなイ?」
俺の話を聞き終わったタッキさんが指を折りながら――これは数を数える仕草で武術の話ではない。念の為――言った。
「ええ、そうです」
彼女の言う『ピッチ上でピー!』が審判さんに笛を吹かれてカードを貰うという意味か、漏らすと言う意味かは分からなかったがどちらでも意味は通るので俺はそのまま頷いた。
「試合ごめんなさイ、すると大きな怪我しないケド、お金払ったり謝ったりしないといけなイ?」
モンクは今度は逆の手の指を折りながら言う。何かの武道の型みたいに見えるなコレ。
「はい、そっちも合ってます。タッキさん、よく理解できていますよ! 全然、頭悪くないじゃないですか!」
俺がそう褒めるとタッキさんは照れたように顔を隠した。彼女は山奥の僧院で拳法の訓練をしていたから世間慣れしていないだけで、頭が良くないという訳ではないのだ。
多少、反則王で退場王ではあるが。まあそれも身体と体術が強すぎるだけだし。あ、それで思い出した!
「実はあと別のケースもあります。退場とか負傷でこっちの選手の数が足らなくなった場合。4人欠けたらそこで試合続行不可能、その場合も確か0-3で負けですね」
それが、俺が『試合が90分行われるかな?』と思った理由だった。かなりレアなケースではあるが今回の俺たちは控え選手を使える状態ではないし、誰か一人でも負傷退場した場合はそれを申し出る事になるかもしれない。
「その場合は0-3の負けだケド、お金や謝罪はナイ?」
「ええ。実はそうですね……」
と俺は深刻そうな顔で頷いたが、そこはかなり熟考している所だった。何気に損害の大きさと不確定要素を考えればかなり魅力的な選択だ。
「試合を出来るだけやって、どこかで続行不能にしてしまう」
というのは。
問題は、エルフの皆さんがそんな汚さを許容しなさそうな所なんだよなあ……。
……などと上手いこと言っている場合ではない。そうやって何とか試合を行った場合のリスクとリターン、メリットとデメリットを考える必要があった。
まず選手の体調面。無事な選手、と言っておいてなんだがそれは『今のところ』である。遅れて症状が現れる可能性もゼロではない。そうなっても交代できる相手はいないし下げるだけになるのだが……退場が間に合うか? という問題もある。
引っ込む前にフィールド上で選手がそうなってしまったら大惨事だ。下がったり退場したりするのは尊厳の方になってしまう。
次に勝負の面。恐らくだが試合には負けるだろう。普通にやってもゴルルグチームは強敵なのに、予定と違う練習もしていないメンバーで挑む事になるし交代もできない。
ではチーム全体の体調不良を申し出て協議合意の上で不戦敗を選んでみてはどうか? 実は監督カンファレンスで確認済みだがその場合はこちら主観で言えば0-3での負けと見なされる。余談だが例外はノートリアスであの軍隊チームだけは0-1で許される。彼女らこの大陸の種族をアンデッドから守っているのだ、急な作戦行動等もある。選手登録抹消の自由など様々な特典を享受しているが、当然の権利だろう。
話しを元に戻して。その0-3の負けを受け入れるかどうか。恐らく今の状況で戦えば負けると予想したが、0-3ほどの負けになるかは微妙だ。ゴルルグ族のチームは狡猾でテクニカルなサッカーをするが、爆発力があるタイプではない。仮にこちらの事情を知り一方的に攻め込んできたとしても、3得点をあげる可能性はそう高くない。しかも幸運な事にこちらのGKとDFラインはほぼ無傷だ。上手く行けば引き分けくらいは狙えるかもしれない。
一方で、サッカーには何があるか分からないので0-3以上の大敗を喫するとか、カードを受けるとか負傷をする可能性もある。不戦敗を受け入れればそれらの心配は一切、無い。
最後に興業面。これは不戦敗を選んだ場合の話しだが試合不成立の有責チーム、まあ早い話しこちら側が、本来ではゴルルグ族が得られた筈の利益を保証する必要がある。入場料収入や売店の見込み売り上げ等を、だ。
更にこれはDSDKの規約外の話として、この試合を観戦する為に遠征してきたサポーターへの補償もある。繰り返すがこれは規約外の事で義務ではない。かと言ってチームがコアサポーターに何の詫びも入れないとなると、関係が悪化する。密かに何か渡すか後に別の便宜を働く必要があるだろう。
因みに興業面でのアレコレについてはダリオさんに動いて貰っている。僥倖な事に彼女は別階層のVIP室に宿泊しており、体調不良も無い。というかお姫様が嘔吐や下痢していたら洒落にならなかった。ともかく、彼女は無事でチームとの接触も無いので、全力で周辺の整理をやってくれている。
つまり興業面の補償金額を本国のムルトさんに試算させたり、遠征サポーターの数を把握したり、中止を申し出る時の申請先やタイムリミットを確認したり。
そんな訳で最終判断はそれらの情報がもたらされてからだが、俺は重大な決断をする必要があったのだ。
「えっと、試合をするとほどほどの負けや引き分けかもしれないけド、めっちゃ負けるかもしれないし選手がピッチ上でピー! ってなるかもしれなイ?」
俺の話を聞き終わったタッキさんが指を折りながら――これは数を数える仕草で武術の話ではない。念の為――言った。
「ええ、そうです」
彼女の言う『ピッチ上でピー!』が審判さんに笛を吹かれてカードを貰うという意味か、漏らすと言う意味かは分からなかったがどちらでも意味は通るので俺はそのまま頷いた。
「試合ごめんなさイ、すると大きな怪我しないケド、お金払ったり謝ったりしないといけなイ?」
モンクは今度は逆の手の指を折りながら言う。何かの武道の型みたいに見えるなコレ。
「はい、そっちも合ってます。タッキさん、よく理解できていますよ! 全然、頭悪くないじゃないですか!」
俺がそう褒めるとタッキさんは照れたように顔を隠した。彼女は山奥の僧院で拳法の訓練をしていたから世間慣れしていないだけで、頭が良くないという訳ではないのだ。
多少、反則王で退場王ではあるが。まあそれも身体と体術が強すぎるだけだし。あ、それで思い出した!
「実はあと別のケースもあります。退場とか負傷でこっちの選手の数が足らなくなった場合。4人欠けたらそこで試合続行不可能、その場合も確か0-3で負けですね」
それが、俺が『試合が90分行われるかな?』と思った理由だった。かなりレアなケースではあるが今回の俺たちは控え選手を使える状態ではないし、誰か一人でも負傷退場した場合はそれを申し出る事になるかもしれない。
「その場合は0-3の負けだケド、お金や謝罪はナイ?」
「ええ。実はそうですね……」
と俺は深刻そうな顔で頷いたが、そこはかなり熟考している所だった。何気に損害の大きさと不確定要素を考えればかなり魅力的な選択だ。
「試合を出来るだけやって、どこかで続行不能にしてしまう」
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