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第二十三章
無い権利とある権利
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「無許可無申請のブルマン蟲の持ち込みは重大な規則違反だ。知らんのかね?」
審査官の鋭い視線に知らない、とは言えなかった。いやマジでいろいろと知らなかったけど。
「ああ、あー」
実のところ知らなかっただけでなく、色々な物事が脳内で繋がって返答するのに気を回せなかった面もある。と言うのもこのブルマン蟲、見た目も動きも地球にいる忌むべき昆虫とかなり似ているが、すり潰して粉末にしてお湯を通すとコーヒーそっくりの飲料が出来上がるのだ。
で、その飲み物を出す店の娘でありブルマン蟲を大量に持っており、旅人にちょっとしたおまけを添えて土産として渡しそうなエルフを俺は知っていた。
「レイさんがくれたヤツか……」
ほんの少し前、一時間前ですらないかもしれない。エルフの王城の方のテレポート発着場で彼女が渡してくれた袋。
「暇なときにいただいてー」
と言っていたからてっきり食べ物でも入っているのかとスルーしていたが、実はブルマン蟲プラスアルファが入っていたんだな……。
「こんな大量に! しかもその上に目を背けさせる様なモノを重ねて置くとは……隠蔽の意図は明らかだ! ブルマン蟲密輸容疑で逮捕する! 来てくれ!」
「はぁ!?」
「ええー!?」
審査官が叫ぶと直ちに複数のゴルルグ族が部屋へ入ってきて仰天する俺たちを囲み、素早く俺だけ後ろ手に手錠をかける。そうか、ただブルマン蟲があっただけなら『申告漏れ』にギリギリ収まったかもしれないが、一緒にあったブツの存在で『密輸』に罪が格上げされてしまったか。
あとこの雰囲気だと生態系を乱す『昆虫』の持ち込みではなく、酒や煙草のような高価な『嗜好品』の密輸と扱われているみたいだな。こんなモノが、ウエッ!
「ちょっと! ショーちゃんを離しなさいよー!」
おっと、分析している場合ではない。
「シャマーさん駄目だ! 抵抗しないで!」
俺は抗議しようと詰め寄りかけたシャマーさんを素早く制止した。代表選手が税関で暴れたとなれば国際問題に発展しかねない。いや代表監督が密輸容疑って段階で出遅れかもしれないが。
「シャマーさんは、このエルフは逮捕されませんよね?」
それはそうと彼女には大事な役割がある。俺は片膝をつき逃亡抵抗の意図が無いことを表しながら、顎でシャマーさんを示して男性に訊ねる。
「うむ。下着がこちらの女性のモノであれば共犯の可能性アリだがこのサイズでは……」
「何よー!? 大きさよりも感度だってショーちゃんも言ってたわよ!」
シャマーさんはそう言いながらも腕を組んで胸を寄せて抗議の声を張り上げた。ここまで見事な焼け石に水って久しぶりに見たな。
じゃなくて!
「言ってません! それと逮捕後にした発言は裁判で不利な証言として扱われる可能性があるんで、余計な事を言ったり言わせたりしないで下さいよ! ミランダ知らないんですか?」
俺がそう訊ねると、シャマーさんは首を傾げ訝しげに聞いた。
「……ミランダ? 誰、それ? ショーちゃん、ナリンやレイちゃん以外にもまだ女がいるの?」
俺が口にしたのはいわゆるミランダ警告――ACミランも昔のウイイレでデフォルトチームにいた選手も関係ない。アメリカで警察が容疑者を逮捕した際に相手に告げる権利や警告の事だ。刑事ドラマや映画でよく見るよね!――だったが、冷静に考えるまでもなく彼女には通じなかった。そりゃそうだ。
「すみません、余計な事を言いました。それよりもシャマーさんはチームと本国に連絡して下さい。消息が分からないとみんな困るし手の打ちようもないし。シャマーさんにしか頼めないんです」
「ううっ……」
その言葉にシャマーさんの動きが止まる。その様子を見て流石に不憫に思ったのか、審査官さんも口を出す。
「そうだ、協力すべきだ。まあ、夫婦というのであれば面会も許可され易いからな」
その『夫婦』という単語を聞いて、シャマーさんはハッと何かに気づき、こちらへ近寄り俺の身体を抱き起こした。
「分かったわアナタ! アタイ、待ってる!」
そしてそう叫ぶと猛烈な勢いで唇を押しつけてくる。
「(アタイって誰やねん!? あー、これシャマーさん『逮捕された夫を健気に待つ妻』という役柄に気付いてそれを楽しむ事に決めたな? と言うか役に酔ってるな!? あとキス長っ!)」
俺は後ろ手に手錠をかけられているので身体を押しのける事ができず、呆れたゴルルグ族がシャマーさんを引き離すまで彼女の舌で散々、口内を弄ばれた。
「ぷはーっ! 別れのキス、って感じじゃない……」
「では行くぞ」
俺が息継ぎしつつ呟くと審査官がそう宣言し、俺とシャマーさんは別々の廊下を行くことになった。
「とりあえずチームには合流が遅れると、もし間に合わなければトロール戦と同じ体制で戦うよう伝えて下さい。あとダリオさんに外交的解放か最悪、保釈金を払う方向で。お金は後で返しますので!」
俺は早口でそう告げ、最後にシャマーさんと視線を交わし赤く潤んだ彼女の瞳に心で語りかけた。
頼むぞシャマーさん。いやその、余韻に浸ってないで頼むよ?
審査官の鋭い視線に知らない、とは言えなかった。いやマジでいろいろと知らなかったけど。
「ああ、あー」
実のところ知らなかっただけでなく、色々な物事が脳内で繋がって返答するのに気を回せなかった面もある。と言うのもこのブルマン蟲、見た目も動きも地球にいる忌むべき昆虫とかなり似ているが、すり潰して粉末にしてお湯を通すとコーヒーそっくりの飲料が出来上がるのだ。
で、その飲み物を出す店の娘でありブルマン蟲を大量に持っており、旅人にちょっとしたおまけを添えて土産として渡しそうなエルフを俺は知っていた。
「レイさんがくれたヤツか……」
ほんの少し前、一時間前ですらないかもしれない。エルフの王城の方のテレポート発着場で彼女が渡してくれた袋。
「暇なときにいただいてー」
と言っていたからてっきり食べ物でも入っているのかとスルーしていたが、実はブルマン蟲プラスアルファが入っていたんだな……。
「こんな大量に! しかもその上に目を背けさせる様なモノを重ねて置くとは……隠蔽の意図は明らかだ! ブルマン蟲密輸容疑で逮捕する! 来てくれ!」
「はぁ!?」
「ええー!?」
審査官が叫ぶと直ちに複数のゴルルグ族が部屋へ入ってきて仰天する俺たちを囲み、素早く俺だけ後ろ手に手錠をかける。そうか、ただブルマン蟲があっただけなら『申告漏れ』にギリギリ収まったかもしれないが、一緒にあったブツの存在で『密輸』に罪が格上げされてしまったか。
あとこの雰囲気だと生態系を乱す『昆虫』の持ち込みではなく、酒や煙草のような高価な『嗜好品』の密輸と扱われているみたいだな。こんなモノが、ウエッ!
「ちょっと! ショーちゃんを離しなさいよー!」
おっと、分析している場合ではない。
「シャマーさん駄目だ! 抵抗しないで!」
俺は抗議しようと詰め寄りかけたシャマーさんを素早く制止した。代表選手が税関で暴れたとなれば国際問題に発展しかねない。いや代表監督が密輸容疑って段階で出遅れかもしれないが。
「シャマーさんは、このエルフは逮捕されませんよね?」
それはそうと彼女には大事な役割がある。俺は片膝をつき逃亡抵抗の意図が無いことを表しながら、顎でシャマーさんを示して男性に訊ねる。
「うむ。下着がこちらの女性のモノであれば共犯の可能性アリだがこのサイズでは……」
「何よー!? 大きさよりも感度だってショーちゃんも言ってたわよ!」
シャマーさんはそう言いながらも腕を組んで胸を寄せて抗議の声を張り上げた。ここまで見事な焼け石に水って久しぶりに見たな。
じゃなくて!
「言ってません! それと逮捕後にした発言は裁判で不利な証言として扱われる可能性があるんで、余計な事を言ったり言わせたりしないで下さいよ! ミランダ知らないんですか?」
俺がそう訊ねると、シャマーさんは首を傾げ訝しげに聞いた。
「……ミランダ? 誰、それ? ショーちゃん、ナリンやレイちゃん以外にもまだ女がいるの?」
俺が口にしたのはいわゆるミランダ警告――ACミランも昔のウイイレでデフォルトチームにいた選手も関係ない。アメリカで警察が容疑者を逮捕した際に相手に告げる権利や警告の事だ。刑事ドラマや映画でよく見るよね!――だったが、冷静に考えるまでもなく彼女には通じなかった。そりゃそうだ。
「すみません、余計な事を言いました。それよりもシャマーさんはチームと本国に連絡して下さい。消息が分からないとみんな困るし手の打ちようもないし。シャマーさんにしか頼めないんです」
「ううっ……」
その言葉にシャマーさんの動きが止まる。その様子を見て流石に不憫に思ったのか、審査官さんも口を出す。
「そうだ、協力すべきだ。まあ、夫婦というのであれば面会も許可され易いからな」
その『夫婦』という単語を聞いて、シャマーさんはハッと何かに気づき、こちらへ近寄り俺の身体を抱き起こした。
「分かったわアナタ! アタイ、待ってる!」
そしてそう叫ぶと猛烈な勢いで唇を押しつけてくる。
「(アタイって誰やねん!? あー、これシャマーさん『逮捕された夫を健気に待つ妻』という役柄に気付いてそれを楽しむ事に決めたな? と言うか役に酔ってるな!? あとキス長っ!)」
俺は後ろ手に手錠をかけられているので身体を押しのける事ができず、呆れたゴルルグ族がシャマーさんを引き離すまで彼女の舌で散々、口内を弄ばれた。
「ぷはーっ! 別れのキス、って感じじゃない……」
「では行くぞ」
俺が息継ぎしつつ呟くと審査官がそう宣言し、俺とシャマーさんは別々の廊下を行くことになった。
「とりあえずチームには合流が遅れると、もし間に合わなければトロール戦と同じ体制で戦うよう伝えて下さい。あとダリオさんに外交的解放か最悪、保釈金を払う方向で。お金は後で返しますので!」
俺は早口でそう告げ、最後にシャマーさんと視線を交わし赤く潤んだ彼女の瞳に心で語りかけた。
頼むぞシャマーさん。いやその、余韻に浸ってないで頼むよ?
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