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第二十二章

夢の中の自由

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『ショーちゃん気づいてくれた!?』
「これ、夢魔法じゃなくてガチでただの夢ですね!」
 俺は意味が無いと分かりつつも叫んでしまった。
『ちがーう!』
「明晰夢、って言うんですっけ? 夢の中で自分が夢を見てるって分かるやつ! でも自由になる訳じゃなくて、色が無かったり音が無かったりもするの!」
 俺は一気に解放された気持ちになって、遠慮がちなうつ伏せの膝枕から仰向けへ姿勢を変え、天を仰ぐシャマーさんの顔を見た。
「そうだよな! お喋りなシャマーさんがずっと黙っているなんておかしいし、やけにおとなしいし」
『なんでそっちになっちゃうのー?』
「そっか。じゃあこれは侵入してきたシャマーさんじゃなくて、俺の意識が作り出したシャマーさんか。道理でいつもに輪をかけて美人だしなあ」
『違……うけどそこちょっと詳しくショーちゃん! いつも、も可愛いと思ってくれているの!?』
 俺は急に明るい顔になってこちらをじっと見てくるシャマーさんを見つめ返した。
「なるほど。普段はそういう気持ちが漏れないようにしているけど、縛りから解き放たれた深層意識ではこれくらい魅力的に見えているんだ」
『ええっ!? それ本当!? いや、ちょっと今日はいつもより仕上がってるかなー? って自負はあったけど……』
 見る間にシャマーさんの顔がピンクに染まって行く。うん、これはやはり俺の作り出したシャマーさんだな。本物は見つめ合っただけでこんなに照れるタイプではないし。
「たとえば当然だけど、こういう時の反応も違う、と」
 俺はそう言いながら顔を横に倒し、スカートの端から覗く膝頭にそっと唇を当てた。
『ひゃん!』
 途端にシャマーさんぽいそれ、はビクン! と体を振るわせた。
「ひゃっひゃっひゃ! すげー! シャマーさんと全然違う! ちゅっちゅっちゅ、と」
 俺は面白くなって膝から太股の内側にキスの雨を降らせる。
『あん! ひゃん! やん! ショーちゃんのえっち……』
 俺の攻撃を受けたシャマーさん的意識的存在はピンクを通り越して真っ赤な顔になりながら、小刻みに震えている。
「ちゅうちゅう……。あ、仕返しだって出来るのか。こちょこちょ……」 
 そこで良い事を思いついた俺は、さっきやられた事のお返しとばかりに指先を動かし、夢で作り上げたシャマーさんの膝裏と太股を擽り廻し始める。
『もう、ショーちゃんやめて! やっぱりやめないで……』
 現実だとシャマーさんからここぞとばかり
「ショーちゃんのエッチー!」
とからかわれる行為だ。と言うか監督と選手の関係だと絶対に出来ない事だな。本当にやってる奴がいたらそいつにドン引きするわ。
 だが夢の中だからセーフです!
「しかしこのシャマーさん良い反応するなー。深層心理が作り出した存在だとしたら……。俺って結構、すけべなのかな?」
『うん、そうだよ……』
 見上げた深層心理製シャマーさんは自分の人差し指を噛みながら俺に向けて頷いた。音の無い夢なので当然なのだが、声を出さないように耐えているみたいでとても色っぽい。
 ふむ、この反応も俺の願望とかなのか。それなら……。
「シャマーさん?」
『んっ!』
 俺は手を彼女のスカートの下の更に奥へ差し込みながら問いかけた。
「嫌だったら嫌だって言って下さい……ってあれか。音声は無い夢なんだよな。つい忘れちゃう。えっと、嫌だったら首を横に振って下さい」
『…………うん』
 しばらくしてそのシャマーさんは首を縦に振った。嫌ではないということかつ、待たせる間が絶妙だ。やるな俺の深層すけべ心。
「じゃあ触りますね? っていくら夢でもなんか真顔でするのは恥ずかしいなあ。キスしながらにします?」
『うん……』
 俺がそう言いながら体を起こすと、彼女は両腕で俺を抱いて唇を押しつけてきた。ここまで俺の意のままになる明晰夢も珍しい。
「じゃあ……」
 絡まる舌を軽く迎撃して隙間を作り、俺は呟いた。そして宣言通り右手を彼女の……。
『やっぱり、ダメーーーー!』
 右手の人差し指が感覚を捉えた瞬間に、絶叫が聞こえた。世界が、真っ白に染まった……。

 俺の視界を真っ白に染めた現象は窓から差し込む朝日だった。
「やっぱりそういうオチですよねー」
 一番、盛り上がる所で朝が来て目が覚めてしまう。夢とはそういうものだ。
「ハーブティーでも淹れるか……ってあれ?」
 まずお湯を沸かそうとベッドから立ち上がった俺は、既に良い香りが家の中を漂っている事に気づいた。
「おはようございまーす……」
 寝室を出てそーっと声をかけながら作戦室を覗く。昨晩、部屋中を埋めていた様々な魔法装置は影を潜め、机の上には果物からパンからお粥からちょっと多過ぎるくらいの朝食が並べられていた。
「おはよー! ショーちゃん!」
 テーブルの向こうから魔法使いが笑顔で声をかけてきた。昨晩とはうって変わってご機嫌さんのようだ。
「これは?」
「朝ご飯! 分からないから適当に食堂から運んできちゃった。あと何か暖かい飲み物でも出すね! 何が良い?」
 運んできた、と言っても彼女の事だから魔法でだろう。でなきゃこの量は無理だもんな。
「お茶でお願いします。昨晩の装置はどうしたんですか?」
「あとは分析だけだから塔へ戻しちゃった。良い仕事もしたしねー」
 お茶の入ったカップに笑顔を添えて俺に手渡しながら、シャマーさんはそう言った。
「仕事をした? これから分析するんじゃなくて?」
「ううん、それはこっちの話! それよりも早く召し上がれー」
「はあ。……はい」
 疑問は残ったがシャマーさんに促され俺はお粥の入ったお椀を手に取った。空かさず彼女はスプーンやら薬味が入った小皿やらを俺の手元へ置く。
「あ、ご親切にどうも……。シャマーさんも食べて下さいね?」
「うん。でも新婚さん気分を味わいたいからさー。食後のデザートは私を召し上がっちゃう?」
「なっ!」
 俺は飲み込みかけていたお粥を危うく吹き出す所だった。
「新婚じゃないし召し上がりもしません!」
「ふふ、じゃあ私が召し上がっちゃおー」
 そう言うと彼女は身を乗り出し、俺はさっと身構えた。そんな俺の様子を笑いながらシャマーさんは俺の前のパンを手に取り千切ってかじり出す。
「どうしたのー?」
「べっ、別に……」
「変な想像したー? ショーちゃんのえっちー!」
 そうやって笑うシャマーさんは、やはりいつものシャマーさんだった。俺が夢で作り上げた彼女は大人しかったのに……。
 俺はその後もさんざんからかわれながら、それでも良く噛んで朝食を済ませるのであった……。
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