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第二十一章

服を脱いだエルフと服を着た人間

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 翌日。朝方に連絡があり、デニス老公会との面談は夕方まで待たされる事となった。トンカさんの食堂での出来事からそれまでは充分な時間があり、俺たちは積もる話やこれからの計画について幾つか語った。
 その間、俺がずっと悩んでいて口に出せなかった事が一つある。それは『アローズのセンシャを見せて欲しい』
とお願いすべきかどうか? である。
 手段は、ある。俺が軟禁されている部屋には映像視聴装置は無いが『彼女ら』が持ってきている道具の中にはある筈だ。問題はそれをいやらしくない理由や言い方で伝える方法である。
 これは俺が監督に就任して以来、初めて行われるアローズによるセンシャ――サッカードウで負けたチームが勝利したチームに敬意を表して、相手チームが使う馬車を洗う聖なる儀式で、この世界にサッカーをもたらしたガ○パンオジサンのクラマさんが、戦車と洗車をかけた渾身のギャグでもある――だ。基本的には試合出場選手によって行われる為、ダリオさんやレイさんの様な要注目の姿は無い。デニス老公会の暗躍によってデイエルフオンリー、細身の引き締まった身体の女子ばかりだ。
 とは言えツンカさんやシノメさんの様にデイエルフにしては起伏のある身体つきの選手も何名かいるし、リーシャさんやティアさんがどんな顔をしてセンシャを行うのか興味もある。見たい。めっちゃ見たい。
 しかしそれをダイレクトに口に出すのは躊躇われる。なんかエッチな目的で見たがっていると思われそうだし。バートさんとイチャイ……親密な触れ合いをしていた所も見られているし。
 ここはアレだ。彼女たちと離れて久しいから、少しでも肉体のコンディションを知る為に見るんだよ? と言ってみるか。うん、そうしよう。
「あのさ、待ってる間にちょいと……」
「ショーキチさん? 少し早いけどもう来て欲しいって」
 俺が立ち上がり口を開きかけたタイミングで、外からバートさんの声がした。
「ええええ!?」
「えっ!?」
 俺が思わずうわずった声を漏らすと中に入ってきたバートさんも驚きの反応を返した。
「どうしたの!? 何か都合が悪かった?」
「い、いえ! 大丈夫です、行きましょう! みんな宜しく!」
 部屋中のエルフの長い耳がこちらを向いている気がする。俺は内心の落胆を高いテンションで誤魔化し、バートさんを促して部屋を出た。

「次は誰に寄って欲しい? みんな声出してー!」
 天は我に味方した。俺が部屋に入った時、スクリーンにはセンシャの中継が映し出されていて、デニス老公会の皆さんは夢中になってそれに見入っていた。
「誰の名前が一番、多いかな? ガニアさん?」
 中継映像の中で声を出しているのは、試合の時と同じくノゾノゾさんだ。センシャを行う訳でもないのに水着姿の宣伝広報部のこの巨人娘は、ここでもMCを担当しているらしい。 
 いや、『らしい』って何だよ? って話だよね。センシャというイベントは少し難しくて、チームの収入源として非常に大事なモノであるのは理解しているのだが、予定は建て難い――勝敗を完全に予想できたら別だけどね――し内容はアレだし、俺はあまりタッチしていないのだ。
 まあ試合の翌日に開催するとかスタジアムで有料観客を呼んで行う、とかは知っていたけど。
「おーっ! ニコルさんスパチャありがとう! 『ポリンちゃん次はゴールを期待します』って。ポリンちゃん聞いた?」
「は? ポリンちゃん出てるの!? スパチャって何よ!?」
 画面の中でノゾノゾさんが何かを見てそう話し、俺は我慢できずツッコミを入れてしまった。
「うぉ、来てたのか!」
「では消せ。どうせ後で録画を観るし」
「うむ、早速、話をしよう。どうぞこちらへ」
 え!? 消さないで! て言うかその録画俺にも下さい! ……じゃなくて!
「(スパチャとは『スパ・チャンス』の略だ。客がお金を払って応援メッセージを出してな、そのメッセージで指名された選手は一定時間センシャを止めて暖かいスパに入って休めるんだ。アタシが考えついたんだぞ、凄いだろ?)」
 透明な彼女が俺にそっと耳打ちして、俺は安心と不安を覚えた。安心したのは彼女がちゃんと近くにスタンバイしているのが分かったから。不安になったのはそういう怪しい商業主義にアローズが染まるのが怖かったからだ。
「そうか……いや、そうですね」
 思わず彼女への返答を声に出してしまって、俺は途中で言い直して進められた椅子へ座った。
「まず一番気にされているだろう事だが……」
 お、アレか。
「現地の情報によるとパリスの負傷は軽いものらしい。既に使者を見舞いへ行かせている。本当に済まなかった」
 ジャバさんはその禿頭を深深と下げて謝った。あ、うん、そっちね。もちろんそれだ。ちょっとだけセンシャの録画かと思ったけど。
「いえ、こちらこそ大人げない言い方をしました。ありがとうございます。パリスさんが無事で良かった」
 相手が謝罪しているのだ。ここで受け入れないと人間の小ささ――これは個人の意味でも種族の意味でもある――を見せてしまう事になるだろう。
「落ち着いて考えた上で、我々も一つ提案を思いついてな。どうだろう、カップ戦だけでも……」
「あ、待って下さい!」
 本格的な交渉が始まりそうだったので、俺は手を挙げた。
「どうした? ああ、筆記用具だったな。今日はあるぞ」
 そう言うとジャバさんは後ろのエルフに目をやった。その隙に、俺は上に着ていたものをさっと脱いだ。
「ありがとうございます。ま、それもあるんですけどね」
 そう言いながらネクタイを直す。
「な! お前、その姿は!?」
 ウォジーが叫び、俺に視線が集中する。試合の時と同じくスーツをまとった俺の姿に。
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