350 / 624
第二十章
ドーン・オブ・ザ・ゴブリン
しおりを挟む
「おお、上がってるねー!」
沿道に集まり騒ぐゴブリン達を見て、ステフが歓喜の声を上げた。
「防壁があるとは言え、ここからは警戒するように!」
ナリンさんが車内の全員に声をかける。ステフさん、本来貴女が出すのは歓喜の声ではなくて、この注意喚起なんですよ? 護衛役なんだから。今回はナリンさんが代わりにやったけど。
ガン! ガン!
早速、飛んできた石やら何やらが車体に辺り轟音を響かせた。馬車の側面は地球の囚人護送車のように網格子で守られているが、それでもこの状況に慣れていない何名かが悲鳴を漏らす。
「ここの鉄格子の下の方にさ、横向きの溝を用意して、ゴブリンが張り付いて来たらチェンソーでこう……」
ザバババッ、とステフが効果音を交えて横なぎにするジェスチャーを見せた。
「そんな事できるか! あとそれゾンビ映画で観たけど、酷い結果にしかならないから!」
揺れる車内で焦ってチェンソーを使った場合に当然、起こるべき事を思い出して俺は身震いした。いやこの世界に無いけど。
「この区間は大して長くないからあとちょっとの辛抱だ! なーに、結婚式で親戚のおチビちゃん達が大挙して来た時ほどじゃないだろ?」
後部座席の方からボナザさんが声をかけ何名かがつられて笑った。最後尾から声でチームを落ち着かせるGKらしい言動だ。ボナザさんナイス!
「あの、ショーキチ殿」
しかしエルフでも冠婚葬祭の時とかに親戚がどっと来て子供達がうるさく騒ぐ、って現象あるんだな~俺はそのやかましい側までの経験しかないけど、と頷く俺にナリンさんが何やら慌てた様子で声をかける。
「どうしました?」
「ショーキチ殿は、その、えと、よくこの区間でお金を稼ぐことを思いつきましたね?」
この区間、というのはスタジアム入りする選手をサポーター達が囲む今の付近の事だろう。因みに今更だがここまで来たら道は流石に整備され、揺れはましになっている。
「ああ、宣伝のノボリとか応援席の事ですね? 王城との行き来で運河を利用する事が多くて、たまたまですよ。アローズが使うルートはこのゴブリンのよりもずっと長いですし。でもマネタイズ、収益化とも地球では言うんですが、そういう考え方は非常に大事でして」
そう解説を始めながら、やけに熱心にナリンさんが頷いている事に違和感を覚えて俺は口を止めた。
「どうしました? ショーキチ殿?」
確かにナリンさんは俺がする様々な話をいつも熱心に聞いてくれる。それはそうなのだが、今はやけに演技臭い。何か別の事象から俺の関心を逸らす為のような……。
「はぁイ! エルフのねえちゃんたチ! 今日は覚悟しなヨ?」
「きゃああ!」
ドンッ! という物音と不穏な声、そして選手たちの悲鳴が俺の思考を切り裂いた。見ると一匹のゴブリンが窓に張り付き、悪魔の様に下卑た声でシノメさんに話しかけていた。
「おい、そいつ蹴落とせ!」
「ほら! ショーキチやっぱり要るじゃんチェンソー!」
「この世界にチェンソーは無いしあっても使えないって!」
「任せるでござる!」
車内が騒然となる中、ティアさんが乱暴な対処を提案しステフが無茶を言った。引き続きゴブリンに迫られるシノメさんが残念ながらムルトさんの方に抱きつき代わりに、そして唐突にリストさんの方が俺に近寄りネクタイを引っ張り出す。
「ちょ、リストさん何を引いて……」
「これ、スターターロープじゃないでござるか!?」
「そんなのでチェンソーは出ないし出たら問題ですから!」
リストさんこの状況でそんな危険なボケをしないでくれ!
「やれやれだぴよ」
そんな騒乱の渦中にあって、一羽冷静なグリフォンがいた。スワッグだ。車内モードで小型になっていたステフの相棒は器用に鉄格子に止まり隙間から羽根を差し出した。
「こしょこしょだぴい」
「やめロ! ひゃっひゃっひゃ、アーッ!」
スワッグが伸ばした羽毛がそのゴブリンの脇をくすぐり、お騒がせの小鬼は悲鳴を上げて落ちていった。
「ありがとう、助かったよスワッグ! シノメさんも大丈夫でしたか?」
「はい、ドキドキしました……」
俺に問われたシノメさんはデイエルフに珍しい大きく柔らかそうな胸を抑えて答えた。その風景を見てるとこっちもドキドキしてきて彼女が無事で何より、という思いと彼女を選んだあのゴブリンは良い趣味をしているな、という思いが交錯する。
「なあに、俺は無賃乗車が許せなかっただけぴよ」
「アイシー! こういうのねー」
一方、スワッグは軽妙に返事しその様子を隣でツンカさんが興味深げに見ていた。何か参考になる所あった? ゴブリンの落とし方じゃないだろうし……スワッグの宇宙海賊コ○ラっぽい受け答えかな?
「みんな無事ですかー?」
改めて車内を見渡したが、特に被害は無いようだった。その間にも馬車はもうスタジアムに入ろうとしている。確かに大した距離じゃなかったな。ボナザさんが言った通りだ。
俺はふむふむと頷きながら馬車が降車場に止まるのを待った。
沿道に集まり騒ぐゴブリン達を見て、ステフが歓喜の声を上げた。
「防壁があるとは言え、ここからは警戒するように!」
ナリンさんが車内の全員に声をかける。ステフさん、本来貴女が出すのは歓喜の声ではなくて、この注意喚起なんですよ? 護衛役なんだから。今回はナリンさんが代わりにやったけど。
ガン! ガン!
早速、飛んできた石やら何やらが車体に辺り轟音を響かせた。馬車の側面は地球の囚人護送車のように網格子で守られているが、それでもこの状況に慣れていない何名かが悲鳴を漏らす。
「ここの鉄格子の下の方にさ、横向きの溝を用意して、ゴブリンが張り付いて来たらチェンソーでこう……」
ザバババッ、とステフが効果音を交えて横なぎにするジェスチャーを見せた。
「そんな事できるか! あとそれゾンビ映画で観たけど、酷い結果にしかならないから!」
揺れる車内で焦ってチェンソーを使った場合に当然、起こるべき事を思い出して俺は身震いした。いやこの世界に無いけど。
「この区間は大して長くないからあとちょっとの辛抱だ! なーに、結婚式で親戚のおチビちゃん達が大挙して来た時ほどじゃないだろ?」
後部座席の方からボナザさんが声をかけ何名かがつられて笑った。最後尾から声でチームを落ち着かせるGKらしい言動だ。ボナザさんナイス!
「あの、ショーキチ殿」
しかしエルフでも冠婚葬祭の時とかに親戚がどっと来て子供達がうるさく騒ぐ、って現象あるんだな~俺はそのやかましい側までの経験しかないけど、と頷く俺にナリンさんが何やら慌てた様子で声をかける。
「どうしました?」
「ショーキチ殿は、その、えと、よくこの区間でお金を稼ぐことを思いつきましたね?」
この区間、というのはスタジアム入りする選手をサポーター達が囲む今の付近の事だろう。因みに今更だがここまで来たら道は流石に整備され、揺れはましになっている。
「ああ、宣伝のノボリとか応援席の事ですね? 王城との行き来で運河を利用する事が多くて、たまたまですよ。アローズが使うルートはこのゴブリンのよりもずっと長いですし。でもマネタイズ、収益化とも地球では言うんですが、そういう考え方は非常に大事でして」
そう解説を始めながら、やけに熱心にナリンさんが頷いている事に違和感を覚えて俺は口を止めた。
「どうしました? ショーキチ殿?」
確かにナリンさんは俺がする様々な話をいつも熱心に聞いてくれる。それはそうなのだが、今はやけに演技臭い。何か別の事象から俺の関心を逸らす為のような……。
「はぁイ! エルフのねえちゃんたチ! 今日は覚悟しなヨ?」
「きゃああ!」
ドンッ! という物音と不穏な声、そして選手たちの悲鳴が俺の思考を切り裂いた。見ると一匹のゴブリンが窓に張り付き、悪魔の様に下卑た声でシノメさんに話しかけていた。
「おい、そいつ蹴落とせ!」
「ほら! ショーキチやっぱり要るじゃんチェンソー!」
「この世界にチェンソーは無いしあっても使えないって!」
「任せるでござる!」
車内が騒然となる中、ティアさんが乱暴な対処を提案しステフが無茶を言った。引き続きゴブリンに迫られるシノメさんが残念ながらムルトさんの方に抱きつき代わりに、そして唐突にリストさんの方が俺に近寄りネクタイを引っ張り出す。
「ちょ、リストさん何を引いて……」
「これ、スターターロープじゃないでござるか!?」
「そんなのでチェンソーは出ないし出たら問題ですから!」
リストさんこの状況でそんな危険なボケをしないでくれ!
「やれやれだぴよ」
そんな騒乱の渦中にあって、一羽冷静なグリフォンがいた。スワッグだ。車内モードで小型になっていたステフの相棒は器用に鉄格子に止まり隙間から羽根を差し出した。
「こしょこしょだぴい」
「やめロ! ひゃっひゃっひゃ、アーッ!」
スワッグが伸ばした羽毛がそのゴブリンの脇をくすぐり、お騒がせの小鬼は悲鳴を上げて落ちていった。
「ありがとう、助かったよスワッグ! シノメさんも大丈夫でしたか?」
「はい、ドキドキしました……」
俺に問われたシノメさんはデイエルフに珍しい大きく柔らかそうな胸を抑えて答えた。その風景を見てるとこっちもドキドキしてきて彼女が無事で何より、という思いと彼女を選んだあのゴブリンは良い趣味をしているな、という思いが交錯する。
「なあに、俺は無賃乗車が許せなかっただけぴよ」
「アイシー! こういうのねー」
一方、スワッグは軽妙に返事しその様子を隣でツンカさんが興味深げに見ていた。何か参考になる所あった? ゴブリンの落とし方じゃないだろうし……スワッグの宇宙海賊コ○ラっぽい受け答えかな?
「みんな無事ですかー?」
改めて車内を見渡したが、特に被害は無いようだった。その間にも馬車はもうスタジアムに入ろうとしている。確かに大した距離じゃなかったな。ボナザさんが言った通りだ。
俺はふむふむと頷きながら馬車が降車場に止まるのを待った。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
魔王城のグルメハンター
しゃむしぇる
ファンタジー
20XX年 正体不明のウイルスによって世界は恐慌状態に陥った。政府の打ち出した感染対策である大規模なロックダウンや人流制限により、職を失い世にあぶれる人々が溢れた。
主人公の瑞野 カオルもその一人だ。今まで働いていた飲食店が閉店し、職を探していた彼のもとに、強盗に遭いそうになっている老人と鉢合わせる。
その老人を助けたカオルは徐々に数奇な運命に巻き込まれていく。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
文太と真堂丸
だかずお
歴史・時代
これは、とある時代を生きた、信念を貫いた人間達の物語である。
その時代、国、人々は冷酷無比、恐ろしい怪物達を率いる大帝国と言う軍勢に支配されつつあった。
逆らう者など皆無、人々の心は絶望と言う名の闇に侵食されつつあった。
そんな時代に奇妙な縁の中、出会い、繋がっていく者達
お互いを大切な生命と認識する彼らは、絶望と言う名の巨大な闇に立ち向かう。
そこで待ち受けるのは、想像を絶するほどの恐怖、裏切り、愛する仲間の死、人間と言う心の闇
彼らは魂から抉り出される闇と立ち向かっていく。
これは人間と言う、己の心、精神、信念に向き合い、自らの魂である刀と共に、友情と愛に生きた人間達の、心震わす魂の物語である。
(現在こちらの作品の続きはAmazonでの販売、もしくは、Amazonの読み放題で読めるようになっています、Kindleアンリミテッド登録中の方は無料で読めるようになっているので是非見て下さい。Amazonのサイトにて、こちらのタイトルを検索して頂けると読める様になっています)
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる