D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

第十七章

密集戦！

『本当にやりおるとは！』
『それがユイノ君なのさ』
　目の前の光景を見てジノリコーチとニャイアーコーチが囁きあう。大凡、想像はついていたがナリンさんに通訳して貰ってその内容を確認し俺は笑った。
　まあ実際、笑うしかないよな。何故ならユイノさんはペナルティエリアの外まで出て、その場でリフティングをしていたのだから。
「おお、上手い！」
「まだまだ錆び付いていないでありますね！」
　俺とナリンさんもそう囁きあう。最初は足の下にあったボールを強く踏んで弾ませ、浮かせた後は足の甲、膝、肩、頭……とユイノさんは小気味よく移動させていく。
「「カチッ！　カチッ！　カチッ！」」
　ユイノさんの挑発ともとれる行為――ドワーフ戦でも高い位置までドリブルし、殺人ならぬ殺ドワーフシュートをポビッチ監督にぶち込んだ前科がある――にインセクターの観衆達が顎を鳴らす。　
　うん、さっきのは声援だったかもしいれないけれどこれは間違いなく威嚇だよね。言葉を喋れるインセクターが少ないからか分からないが、普通の罵声よりもこっちの方が怖いかもなあ。
『ユイノ、行けるよー』
『はーい、シャマーさん』
　しかし、実際はこの行為は挑発ではなかった。まあ挑発ととって相手が前からボールを奪いに来てくれたらそれはそれで良かったのだが。
『いっきまーす！』
　しかしインセクターは冷静に自陣に引いて前には出ず、そうこうしている間に全体の移動が終わりシャマーさんが指示を出した。そう、これはオーバーロードへの移行から目を逸らす目眩ましフェイントだったのだ。キャプテンからの合図を受けたユイノさんは最後にもう一度ボールを高く上げ、落ちてきた所を美しいフォームで蹴り飛ばした！

　半ばパントキックの様な状態で放たれたボールは、もの凄い勢いでフィールド上空を切り裂き急激に落ちてリストさんの胸元へ届いた。
『ぐ、ふう！』
　ユイノさんボールを下から擦り上げるようにして蹴ったので、それには激しいドライブ回転がかかっていた。それ故パスが急落下しリストさんは呻き声を上げたのだろう。あれ、痛そうだな。
『おろろ！』
　しかし、そんな痛みに耐えトラップしたリストさんに対し、マークしていたクワガタのCBは背後から激しいチャージをかけてボールをつつく。
「うわ！　でもあれアリなんだよなあ」
　背後からボールを突かれポストプレイを試みたFWはコントロールを失った。その際、蟻ではなくクワガタの顎がリストさんを背中から挟み彼女の姿勢を崩すのに大いに役立った事は間違いなかった。
　と言うか人間寄りの身体的分類で言えば噛みついて相手の自由を奪うようなもんである。スアレスだってそこまでせんわ！　……と憤ってみたものの、この世界のサッカードウ的ルールではアリなのだ。いや蟻ではなくクワガタだけど。（しつこい？）
『ワンモア！』
『お任せなのだ！』
　しかし、それはもう前もってのルール確認や試合映像の分析でこちらも承知の上である。そしてそれに対応する策も用意してある。シャマーさんのかけ声に近くのアイラさんが呼応しボールを拾った。
『と言ったけど無理なのだ！』
『大丈夫っす！』
　ボールを保持するかと思われたアイラさんがアンカーのケンドール選手のタックルを受けボールを奪われる、しかしそのケンドール選手にクエンさんが襲いかかりどちらもコントロールを失う、その隙にマイラさんがこぼれ球を拾いノールックででシャマーさんへ繋ぐ……という動きがそこから数秒の間で起こった。
「マイラさん見えてるな。流石、年の功」
　狭いエリア、今回は右サイドに選手を密集させボールを失っても次から次へと選手が沸いて出てボールを奪い返す、奪った後も近くの選手を上手く使って相手を崩す……オーバーロード作戦の狙いがしっかりと発揮されていた。
　因みにオバロ移行後の中盤の数で言えばインセクターの3名に対し、こちらは6名である。ダリオさんは左で孤立しているから5名としても、圧倒的な数的優位だ。その代わり最終ラインからティアさんと、この局面ではシャマーさんまでが抜けてガニア、ムルトの2名で3名のFWを見ているのでかなり危険な状態ではある。
「アイラさんへ……そう！」
　そんな事を考えている間に、体勢と位置を直したアイラさんへシャマーさんからのパスが通った。思っていた通りになって嬉しいが、さっきから俺、独り言多いな！？　完全に観戦しながらブツブツ言ってるたまにおる観客やんけ！
「仰る通り良い感じでありますね！」
　そんなちょっと気持ち悪い俺に対して、ナリンさん眩しい笑顔で語りかけてくる。優しい……しかしこの環境に甘えては駄目だぞ俺！
『右サイドもアイラさんにお任せなのだ！　……なんて』
　俺が内省している間にアイラさんがドリブル突破を図り、中へ切り込んで左SBを引っ張った上で空いたスペースにボールを流した。
『よっしゃ貰い！　決めろよ！』
　そのボールに追いついたティアさんはじっくりと中を見て、狙いすましたクロスを放った。インセクターではないが俺たちアローズも安直なセンタリングは封印している。だが右足のクロスと判断の精度が極めて高いレイさん、ポリンさん、ティアさんに限っては許可されていた。
「リストさんフリー！　……はむしろ！」
　その行き先はマークを振り切ったリストさんだった。顎を使って相手を止めれるCBに競り合いでは分が悪いと考えて、その前にフェイントを入れてフリーになっていたのだろう。サッカーIQが高いのは低いのか分からない女性だ。
『のぉ！？』
「ですよね～」
　しかし、リストさんが放った叩きつける様なヘディングはGKのアロンゾ選手の足で弾かれた。リストさん、フリーの方が決定率低いんだよな……。
『まだあるから！』
　頭を抱えるリストさんにそう声をかけながらリーシャさんが位置を取り直す。その言葉通りペナルティエリアの外まで跳ね返ったボールをクエンさんが拾い、リーシャさんが指さした場所へパスを送る。
　腰くらいの高さに飛んだボールに対してリーシャさんは左腕でCBを制しブロックし身体を倒しながら……。
『よし！　ユイノ君！』
　ニャイアーコーチの折り紙付きの技術でボレーシュートを叩き込んだ。前半31分、これで1-1の同点！